動画検証に参加してみた②
ヒトミさんは動画開始早々から険しい顔をした。
「あの…このトンネルの前にいる奴、なんですか?」
ヒトミさんの言葉を受け、
「トンネルの前?」
タケは動画を巻き戻し、ヒトミさんに言われるがまま開始5秒で動画を停止させた。
「何かいます?」博士
「あれ?これって皆さんには見えない奴ですか?」
ヒトミさんは画面のトンネルの横を指さした。
「ほら、これです」
その言葉にトツオカは固まった。
「……なぁ、何か見える?」タケ
「蔦が垂れてる」マサ
「だな」博士
その反応を見たヒトミさんは、
「あぁ…。そっか…うん——。大きさ的にあり得ないのか…」
意味深に呟いた。
どうやら門番のように立ちはだかる超巨大な人間?のことを言ってるらしい。
〔あの門番が見えてるんだね、ヒトミさん〕
あたしは思わず声をかけた。
〔アイツら、すごく大きいの。トンネルと同じ大きさでね、人間の形をしてるけど喋らなかったよ。手足が異様に長くて顔はのっぺりとして、近くで見ると皮膚が像みたいにゴワゴワしてたの〕
「そうなんだ…。確かに手が長いな…」
あたしの言葉に返事したヒトミさんだが、トツオカにしてみたらおかしな会話だ。
タケが不思議そうに、
「あの……?」
ヒトミさんの顔を覗き込んだ。
「あっ、すいません!今、サエちゃんがこの時のことを解説してくれて。トンネルの左右に、トンネルと同じ大きさの人間もどきが立ってるんです」
「「「え?」」」
トツオカは画面を見直した。でも当然、彼らの目には何も映らない。
「それにこの後、白いモヤが映りますよね?こっちは落ち武者なんですけど、私としては巨大な人間もどきの方が気になって…。どうにも現世由来の存在じゃないんですよ。まるで黄泉の世界の番人みたいな…悪いものじゃないけど、こっちの世界の味方とも言えないようで——」
すらすらと解説を続けようとしたヒトミさんの言葉を、
「ち、ちょっと待ってください!」
タケが止めた。
「落ち武者?!」タケ
「そんなのがいるんですか?」博士
「「マジで?」」マサとマモル
〔そっか。トツオカからしてみればそこからかぁ〕
あちゃー!と、はるちゃんは嘆いた。
〔わたしとしても落ち武者より巨大人間の方が気になるんだけどなぁ。異様な容姿してるし、わたし達とも雰囲気が違うもんね。気になるよー〕
〔分かる。見張ってるみたいに立ってたからね。なんであそこにいるのか、知りたいよね〕
〔だよね!だよね!〕
呪物2人の加勢を受けて、ヒトミさんは黙って頷いた。
彼女もあたし達と同意見らしい。
「落ち武者は悪い霊じゃないですよ。一度トツオカさん達の様子を見に来てますけど、すぐに退散してます。まぁ…襲われかけてはいますけど…」
「えっ?」博士
「は?」マサ
「どういうこと?!」タケ
「全員男性だから、合戦を思い出して攻撃したみたいですね。でも皆さんは武器も持ってないし、サエちゃんがいたので勘違いだと気がついて退散してます」
「へ、へぇー…」マモル
「ちなみに、どんな攻撃をされてるんですか?」マサ
「日本刀で斬りつけてます」ヒトミ
「うえっ?!」
タケがひゅっと息を呑んだ。
「ああ、大丈夫ですよ。日本刀が途中で折れてて、斬られずに済んでます」
ヒトミさんの言葉を聞いても4人は安堵するどころか青くなった。
「斬りつけて…」マサ
「それ、大丈夫なんですか?」マモル
「大丈夫ですよ。この時点では誰も何も感じてないですし」
「まぁ…確かに」博士
「あの時は何にもなかったな」マサ
「でしょ?」
ヒトミさんから軽く言われ、トツオカは無理やり納得しようと、
「そういうもんですか…ね?」博士
「ヒトミさんがそう言うなら…」タケ
「色々と起こったのはこの後だし…」マモル
それぞれが呟いた。
「この巨大人間については…ちょっと異質ですね。私も見たことがない類の存在です…。このトンネルの中にヒントがあればいいんですけど」
真剣に唸るヒトミさん。
結構真面目なんだ。
「じ、じゃぁ…続きを見ていきますか」マサ
また動画が進む。
「ここ、トンネルに入った途端から匂いもするし、寒くてカイロを追加したんですよ。博士は頭痛がし始めて…」タケ
「そうそう。またトンネル入って数歩で嫌な雰囲気でした」博士
画面を見ながら、タケと博士が情報を追加していく。
動画はトンネルの入り口、妖怪が出てきたあたりだ。
ヒトミさんはしばらく黙って動画を見てみたけど、足元に妖怪が映り込んだのを2回見たところで、
「ちょっと止めて下さい」
言った。
「サエちゃん、動画内で『妖怪』って言ってるけど、コイツらのこと?」
ヒトミさんは棚に置かれたあたしの方を見て、画面を指さして尋ねた。
トツオカはまたもやきょとんとし、ヒトミさんの視線を追ってあたしを見た。
〔えっとね、トンネル入ってすぐ、変なモノが何体もいたの…。人間の手首に男の首がついたモノとか、ネズミの背中に人間の指がついてたり、猫の体に猿の尻尾、顔は人間の赤ん坊とか、コウモリの羽根を生やした犬とか。妖怪って見たことないけど、そう表現するのが一番しっくりくるヤツばっかりで〕
〔ウワ…。気持チ悪イナ…〕
タジュがそんなことを言った。
「ああ…なるほど。それは確かに妖怪かもね」
納得した台詞を聞いて、タケがおずおずと、
「あの…何か分かりました?」
尋ねた。
ヒトミさんはあたしの言葉を伝えてくれる。
タケはまた蒼白になって、
「いやいや!妖怪って!なんでそんなモノがいるんだよっ」
とドン引きしてた。
「俺の頭痛の原因はその妖怪ってことですか?」博士
〔それだけじゃないよ。トンネルの奥にいた怪物のせいなんだよ。ちょー怖かったんだから〕
あたしが言うと、
「それだけじゃないみたいです。妖怪もそうですけど、元凶はトンネルの奥にいる奴のせいですね」
通訳してくれた。
「サエちゃん的にはソイツの方が怖かったらしいです」
「奥か…」博士
「確かに、あれはヤバかったもんな」マモル
〔この先の動画を見れば少しは理由が分かるよ〕
あたしが言うと、
「とりあえず、続きを見せてください。答えは奥にあるらしいので」
ヒトミさんは促した。
まだ震えるタケに代わり、博士が頷いて再生をクリックした。
動画はトンネルを進み、あのシーンになる。
『「……なぁ。こんなにも見えないもんか……?」マモル
「それは…トンネルだから——」マサ
「いやいや…。オレンジの照明も左右についてるんだぞ?なのに……こんなにも暗いって………おかしくないか?」タケ』
動画でも、
ズッ…ズッ…ズッ…ズッ…
の音が聞こえる。
『「なぁ…何か………聞こえないか……?」タケ
「えっ?」マサ
「音?」博士
「や、やめろよ……」マモル』
画面の中のトツオカが硬直してトンネルの奥を見ている。
それと同じく、ヒトミさんも険しく真剣な顔で画面を睨んでいた。
あたしは当時のことを思い出して身震いした。
凄い冷気、人形の体がビリビリする感覚……。
ズズ……
ズズ……ズズ……ズッ……
音が近づいてくると、あの化け物が映った。
巨大な蜘蛛の体に人間の手足。胴体には人間の顔がいくつも張り付いている…
『〔ひぃっ!!〕』
あたしの悲鳴が聞こえると、ヒトミさんも、
「うわぁ……!」
絶句した。
『〔何あれ?!何あれっ!?〕
「なんか……急に吐き気がする…!」博士
「俺も凄い悪寒がする……」マモル
「2人とも、大丈夫か?」』
マサが心配そうに博士に歩み寄った。
その足音で、化け物の胴体に付いていた人間の顔たちの目が一斉に開き、人間の手足がざわざわっと動いて、こちらに向かってきた。
『〔ぎゃーーーーー!!!!!!〕』
動画内のあたしの悲鳴と、
「ヒィィィ!!」
現実のヒトミさんの声が重なる。
それに驚いた博士は慌てて動画を止めた。
「何か見えました?」
「いやいや!すごいですよ、これ!」
ヒトミさんは初めて怯えた表情を見せた。
「よくこんな所に行けましたね?!」ヒトミ
「いや、来週行くんですよね、ヒトミ先生…」博士
「あっ、そうだった!」
ハッとしたヒトミさんは、改めて動画を見た。
「事前にトツオカさんに会えて良かったです…。現場でコレに遭遇してたら、一旦ロケ中止にしてました…」
「そ、そんなモノが写ってるんですか?」
「そうですね…。あまり口に出して伝えたくない容姿をしてます…」
そう聞くと、トツオカはさぁ…と青ざめた。
あたしと同じ段にいるはるちゃんは、パソコン画面が辛うじて見える。化け物を見たはるちゃんは、
〔わーぉ…。これはインパクトあるねぇ。動きもキショいし、見た目もグロテスク…。画面越しで良かったぁ〕
心底安堵した声で言った。
「あのー、伝えられる範囲でどんな姿なのか、教えて下さい」
〔おおっ!マサ!チャレンジャーだね!〕
茶化すように言うはるちゃんの台詞を聞いて、ヒトミさんは苦笑いした。
「そうですね…。——見た目は蜘蛛、体に人間の手足が生えて、胴体には人間の顔がいくつも張り付いてます。マサさんの『大丈夫か?』の声に反応して、手足を動かしてこっちに向かってきましたね」
「うゎ…」マサ
「すご…」博士
「気持ち悪い…」マモル
タケだけは口を「あ」の形にしたまま固まり、声にならない悲鳴を上げているようだった。
「向かってきた直後、サエちゃんが悲鳴をあげてるんですけど、タケさんがそれを聞き取って『なっ、なんだ?!!』って反応してます」
また動画を進めた。
『「なんか…叫び声がした!」タケ
「逃げようっ!!」マモル
「引き返そう!ここはダメだ!!」マサ
「ああ…!」博士』
「この後からヒタヒタ、パタパタ聞こえますよね?」ヒトミ
「ええ…。視聴者からも反応が凄かった箇所です」博士
「実はコレ、追ってきている化け物の音なんです。素足や手で地面を踏みしめてるから、ヒタヒタ、パタパタいってるんですよ」ヒトミ
「ひぃぃぃ!!」
限界を迎えたのか、タケが博士にしがみついた。
「この化け物…見た目からして現世のものじゃないです。入り口にいた妖怪もそうですけど、トンネルの奥が黄泉と繋がってるんですね…。霊道ともまた違う存在だから、霊体がいくつもくっついて人間と動物の容姿がごちゃ混ぜになってます。人間にも害がありますけど、一番危険なのはサエちゃんです。私達みたいに肉体がありませんから」
「そうなんですか?」博士
「ええ。人形の器があるとはいえ、生きてる人間に比べると取り込まれやすいんです。ほら、トンネルから出たところでサエちゃんが笑ってますよね?これは化け物から逃れた魂を取られなかった、っていう安堵の笑顔です」
「そうなんだ」マサ
「そういう理由で…」マモル
「なるほど…」博士
〔そう!そうなの、ヒトミさんっ!なのにさ!トツオカったら、この後あたしのことトンネルに置き去りにするだよっ?!あの時ばかりはトツオカを呪いそうになったよ!!!〕
大声で訴えると、ヒトミさんは「あらら…」と同情した顔であたしを見た。
また動画を再生すると、
「この後、サエちゃんの一人検証に入るんです。ずっとすすり泣きが聞こえてて…」マサ
確かに、どこからともなく悲しそうな声が聞こえてくる。
「ここも再生回数がすごくて、コメントもどっさりきてました」博士
「これも妖怪の声なんですか?」マモル
「いえ、これはサエちゃんの悲しい泣き声です。あんな化け物がいる場所に放置されて、怖くて悲しくて泣いてます」ヒトミ
「えっ!」博士
「そういうこと?!」マサ
「サエちゃん…!」マモル
ここでやっと復活したタケが、
「ごめん!サエちゃん!!」
あたしを見た。
「そんなことになっているとは知らなかったとはいえ…酷いことした!」
〔ほんとだよ!!一本足妖怪に喰われそうになったし!落ち武者さんが来てくれなかったら危なかったんだからね!!〕
「この時、サエちゃんもかなり怒って悲しんでましたね。この後に映る黒っぽい影は一本足の妖怪なんですけど、サエちゃんを狙って襲われるんです」ヒトミ
「「「「ええっ?!」」」」トツオカ
「でも冒頭で出てきた落ち武者霊が助けてくれるんですよ。サエちゃんが無力と知ってたんですね。それで難を逃れましたけど、サエちゃん、軽くトラウマになってるみたいです」ヒトミ
「今も怒ってます?」
タケが恐る恐る尋ねる。
ヒトミさんはあたしを見て、問いかけるような視線を向けてきた。
〔今はそうでもないけど…。怖い目にあったし、凄く帰りたかった…。あたし人形で自分で動けないから逃げられないでしょ?置いてけぼりにするのはやめてほしいの…〕
ヒトミさんは頷くと、あたしの言葉を伝えてくれた。
4人は申し訳なさそうな顔をして、
「分かった…」タケ
「これからは気をつけるよ」マサ
「ごめんな…」マモル
「俺がずっと抱っこしとくよ」博士
〔うん、今後はそうしてね〕
みんなが謝ってくれて、あたしはスッキリした。
〔分かればよろしい!〕
はるちゃんはなぜかふんぞり返った様子でそう言った。
〔サエちゃんに何からあれば、わたしが許さないからねっ〕
ヒトミさんはクスリと笑うと、
「サエちゃん、満足そうですよ。はるちゃんは、サエちゃんを大切にしないと許さない、と言ってます」
「分かったよ。今後も2人の位置は変えないし、水もお菓子も、たまにはデリバリー料理もお供えするから」
タケの言葉にはるちゃんは大はしゃぎした。
〔やったーー!充実呪物ライフきたーー!!〕
〔五月蝿ゾ、ハルチャン!大声出スナ!〕
〔そんなこと言っていいのか?!タジュだけお供え物、省いてもらうぞ!!〕
〔コノ部屋ニ 供エラレタ時点デ、俺達全員ガ恩恵ニ与レルダロウ!〕
〔タジュだけ省くようにトツオカに頼めばいいでしょ?!気持ちがこもってないお供えは、効果も恩恵も少ないんだぞ!!〕
〔へー。そうなんだ〕
あたしの相槌に、はるちゃんはタジュに話しかける声とは打って変わった優しい声音で言った。
〔そうだよー。お供えって気持ちのほうが大切なんだから。これからはしっかりと感謝と敬意を込めてお供えしてもらうおうよ。また力が上がっちゃうよ!ヒトミさん!トツオカに言っておいて!〕
「伝えておくね」
〔タジュは例外、とも言っておいてね!〕
〔俺ヲ イジメルナ!〕
「まぁまぁ。タジュはお祓いして力が小さくなったし、ここから陽の気を浴び続ければ人を呪うこともできなくなるからさ。トツオカさんにとってもあなた達にとってもいい方向に向くよ?」
あたし達の会話に入ってきたヒトミさんに、トツオカは興味津々な目を向けた。
でも声はかけずに、黙って成り行きを見守ってくれる。
〔うーん…そうかぁ。でもなぁ…。まだちゃんと謝ってもらってないしなぁ…。やっぱり正式な謝罪はいるよねぇ…〕
目と体が動けば、ちらっ、ちらっとタジュを伺うはるちゃんが見られただろう。
タジュは空気を読んで、
〔——悪カッタヨ。オ前達ニモ、他ノ呪物ニモ…。スマナカッタナ〕
素直に謝罪した。
はるちゃんは、
〔仕方ないなぁ。許してやらんこともない!〕
満足気に言った。
〔そうだね。許してやらんこともない!〕
あたしも便乗してみる。
他の呪物——布とミイラも賛同した空気を送ってきた。
〔ほら、2人も許してやるって!あったかいこの部屋の呪物達に感謝しなっ〕
〔アアッ!分カッタ!分カッタヨ!!〕
「気持を込めたお供え物をすることを条件に、呪物達は満足しました。タジュだけ跳ねっ返りみたいな態度だったけど、今、無事に仲直りしました。これからはトツオカさんの力になってくれるはずです」
〔はずですね〜〕
〔ですね〜〕
〔分カッタ!分カッタ!!〕
こうしてあたし達は一丸となってトツオカを支える呪物となった。




