心霊トンネルに行ってみた④
トンネル中にシクシクと泣き声が響く。
トンネル内部に声は木霊し、悲壮感たっぷりだ。
ジメジメとした地面…たまに横を通り過ぎる妖怪…。
彼らはもう本来の感覚がないせいか、同じそちら側の存在であるあたしに興味がないのか、ちらっとこちらを見るだけだ。
なんて冷ややかな目…。
街で広告入りのティッシュ配りをしている人だって、もう少し温かい目で見られるだろう。
〔そんな目で見るなよぉ…〕
静まり返ったトンネルに、あたしの呟きが吸い込まれる。
トツオカはトンネルの入り口から10歩ほど入った所にあたしを置いて出ていった。
ここから巨人の2人の背中が少しだけ見える。
気にもとめられてないけど。
〔うぅ…呪物虐待だぁ…!こんなことしてぇ!!トツオカッ!!許さないぞ!!1週間、毎日小指をぶつける呪いをかけてやるっ!!!!
嫌だよぉー!はるちゃーーん!!助けてよぉ!!おうちに帰るぅ!!!〕
声は虚しく響き、消えた。
呪物になって感じたことがない孤独。
しかもこんな場所に一人残されて、心がえぐられる。
〔さっきの化け物…来ないでぇ!誰か話ができる霊はいないの?アイツの追っ払い方、教えてよぉ!このままじゃ魂喰われて終わるじゃん!!〕
悲しいかな、妖怪達はあたしを無視し続けた。
みんな異様な姿だけど、トンネル内を行ったり来たりしているだけだ。
どうやら同じ場所を往復してるだけらしい。
それに、彼ら小物妖怪は、魂を喰う力はないようだ。
ただ散歩しているだけと思えば、そこまで恐怖は湧いてこない。
〔あたしの声、聞こえない?あなた達、本当に喋れないの?〕
人間の手首に男の首がついたモノが、カサカサとあたしの隣にやって来て、白濁した目を向ける。
数秒目があったけど、何も言わず通り過ぎた。
なんなの…?
ネズミの背中に人間の指がくっついた奴と、コウモリの羽根を生やした宙を飛ぶ犬はあたしを見もしない。
猫の体に猿の尻尾、顔は人間の赤ん坊は、一番動きが早い。すでに目の前を10往復はしている。
頭が赤ちゃんだからかな?元気いっぱいってこと?
〔やっぱり意思疎通は無理か…〕
ならあの巨人かな?
一応人間の容姿だし、耳もあるし…。
〔あのー!そこの門番さーん!!〕
距離があるから大声を出してみたけど、ピクリともしない。
〔なんでそこに立ってるんですかぁ?黄泉の穴があるから、見張り役をしてるんですかぁ?〕
反応なし。
〔奥にいた化け物が外に出てこないように見張ってますー?そうなら助かるんですけどぉ!〕
反応なし。
〔駄目かぁ…。あの化け物を見張ってくれてるなら味方なんだけどなぁ…。そんな上手い話は——何の音?〕
タン…タン…タン…タン…
トンネルの入り口から音がする……。
さっきは聞かなかった音に緊張が走った。
今度は何?!
じっと目を凝らすと、男の太い足が見えた。
足は……一本しかない。
足の上にはでっかい男の顔が乗ってる……三つ目だ。
髪はぼうぼうで荒々しい印象を受けた。
頭から直接、猿の手が生えてる。
なんで足が男のものって分かったかというと、すね毛が生えてたから。
一本足だからタン…タン…とリズムを刻んでたのか…。
一本足妖怪はあたしの目の前で止まると、膝を曲げてこちらを見た。
ううっ…変な匂いがする……。
獣が濡れたような悪臭だ。
〔あの……何か?〕
あたしは鼻づまりを起こした人のように、くぐもった声で訪ねた。
〔来た?〕
〔は?〕
〔来た?お前、来た?〕
なんて聞きたいんだろう…?
あたしがここへ来たのか、ってことかな?
〔来たというか、連れてこられたというか…。あの、あなたは喋れるの?〕
〔お前、来た。ここ、来た〕
首をかしげる様子は可愛さの欠片もない。
首を動かす度にごわごわの髪が揺れ、悪臭を放つからじっとしておいてほしい。
この髪が臭いのか…。
シャンプーしろ、と言いたい。
〔お前、来た!お前、来た!お前、来た!〕
一本足妖怪は嬉しそうにジャンプして言葉を繰り返した。
何が嬉しいのか…。
〔あの…来たくて来たわけじゃ——〕
あたしは訂正しようと口を開きかけたけど、途中で言葉が消えた。
髪の毛の中が目に入ったからだ。
ジャンプして跳ねる髪の間から、小さな顔が見えた。
全部女の人だ。
無数の女の人が後頭部にびっしりと張り付いている。
〔ヒィィィ!!!〕
しかも助けを求めるように口をパクパクさせていた。
もしかして、コイツが喰ったの?!
この女の人全部?!
〔お前、来たぁ!喰われに、来たぁ!!〕
〔はぁ?!そんなこと言ってない!!〕
〔お前、来たぁ!喰われに、来たぁ!俺に、喰われに、来たぁ!!〕
大はしゃぎする一本足妖怪は、一段と微笑むと、
〔いただきまぁぁぁぁすぅ!!!〕
野太い声で丁寧に挨拶した。
そして口裂け女よろしく耳まで裂けた口を開け、あたしにかぶりつこうとする。
〔嘘!!嘘!!嘘でしょーーーー?!〕
歯が見える。狼みたいに犬歯が鋭い。
あんな歯で噛まれたら、人形の体なんて粉々だ!
呪物って器が壊れたらどうなるのっ!?
魂がむき出しになっちゃう?!
そしたら喰われる?
魂喰われる?!!
〔うぎゃー!!!嫌だぁーーー!!!〕
大絶叫すると、一本足妖怪の後ろでキィンと銀色が鈍く光った。
アレは…
次の瞬間、一本足妖怪は両断された。
途中で折れているはずの日本刀が、見えない刃で妖怪を斬ったのだ。
〔いただき……ます……?〕
真っ二つになった妖怪はそれだけ言い残すと、サラサラと砂のようになって消えた。
その場に落ち武者とあたしが残される。
落ち武者は斬ったままの格好で佇み、あたしを見ていた。
助けてくれた…?
〔あ、ありがとう…〕
お礼を言うと、落ち武者はゆっくりと腕を動かし、納刀した。
〔大事ないか?〕
イケおじっぽい、いい声で尋ねられた。
〔はい。助かりました〕
〔女子供を守るのは武士の仕事ゆえ、気にするな〕
そう言うと落ち武者は踵を返し、トンネルの外へ歩き出した。
どうやらいい落ち武者らしい。
あたしが女の子と分かって助けてくれたのか…。
〔本当にありがとう!成仏してねぇ!!〕
歩き去っていく背中に叫んだけど、反応はなかった。
多分聞こえてるよね。
それからは大きな出来事はなかった。
たまにあの化け物の気配が奥からしたけど、入り口付近には来られないようで、姿を見ることはなかった。
一人取り残されてから約1時間——
「サエちゃん、お待たせ」
マモルが迎えに来た。
〔お待たせ、じゃないよっ!!!遅いよっ!遅すぎだよっ!!ファンの女の子とトツオカの部屋でツーショット撮りまくってキスしてたこと、チクってやるからな!!!あの仕事部屋はプライベート使用は禁止なんだぞっ!!!〕
プンプン言う声はトンネルに吸い込まれていった。
無事に鞄に入れられ、展望台まで戻ってくるとあたしはクタクタになってた。
あの化け物と一本足妖怪の気配、黄泉の穴の空気に当てられ、多少は力を吸われたらしい。
せっかく邪念の鎖が解けたのに…。
「結構現象映ってたな!」
ホテルに戻る道中、深夜のおかしなテンションになったタケが興奮して言った。
「トンネル内部だけでも足音、叫び声。オープニングでも人らしき白いモヤが見えたし!!」タケ
「これは期待できるかもな」博士
「あとはサエちゃんの現象だな。オープニングから定点カメラまで、しっかり見直さないと」マサ
「字幕でも寒気とか吐き気が起こったこと、しっかり強調しないとな…」マモル
「そこは編集の2人に任せた。それにしても、体張っただけはあるよー。ちゃんと現象捉えられてて良かったわ…」
安堵して言うタケに3人も、
「だな」博士
「遠出した甲斐があった」マサ
「反応楽しみだ!」マモル
同意したけど、あたしだけは違った。
〔一番体張ったのはあたしでしょ?!!今日の功労者はあ・た・し!!!ギリギリで喰われかけたんだからね!!もう二度とあそこには行かないからっ!!次はタイ呪物でも連れてけっ!!アイツの怯え慌てる様子を安全圏から見てやるっ!!〕
あそこならアイツの邪念は吸い取られて、ペーペー呪物に成り下がるだろう。
余裕綽々のタイ呪物がコテンパンにされるところを想像すると、思わずニヤけた。
深夜、ホテルに到着すると博士は奥さんに連絡を入れ、無事に出張が終わったことを報告していた。
残りの3人は交互にお風呂に入り、午前3時には全員が就寝した。
ホテルには女幽霊がいて、若い男漁りをしていたけど、そんなの可愛いもんだ…。むしろ愛嬌さえ感じる。
翌日、昼過ぎまで寝ていた4人はブランチをのんびり部屋で取ったあと、帰路についた。
6時間の帰り道、事故を起こすこともなく安全運転で進み、パーキングエリアでお土産を買い、夜に仕事部屋に戻った。
やれやれ…。
やっと家に着いた——
またはるちゃんに色々と聞いてもらおう…。
とりあえず、あたしは眠ることにした。
あの化け物の気配と比べ物にならないタイ呪物のそよ風の邪念を感じながら。




