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呪物のサエちゃん  作者: 栢瀬 柚花


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10/21

呪物のカンは馬鹿にできない


 ぼんやりと、景色が見える。

 メガネがない視界のように滲んでいる。

 薄暗い…。カーテンは閉まってて、外も静かだった。

 

 どうやら夜らしい。

 だから暗いのか。


  

 ここは…トツオカの部屋だ。

 良かった——

 どうやら人形寺は免れたらしい。


 安心すると周りの観察をする。

 メンバーは誰もいないようで、物音一つしない。


 はるちゃんは…

 

 隣にいるはずの姿を探そうとしたけど、置かれた場所が悪くて見えない。


 

〔はるちゃん、いる?〕


〔いるよー〕


 隣から呑気な明るい声が返ってきた。


〔おはよー、サエちゃん〕


〔おはよう、はるちゃん。あたし、また結構寝てた?〕


〔それがさぁ、分かんないの。わたしもさっき起きたところでさ。困ったことに、状況把握できてないんだよねー。真っ暗だから、今は夜なんだよね?〕

 

〔そうだ…と思う。外側暗いし、カーテンも閉まってるから。トツオカは誰もいないね〕


〔そうみたいだね。あぁ…どれくらい寝ちゃったんだろう。うーん…〕


 はるちゃんは部屋の観察を始めた。


〔あっ、座布団が出てる。あの位置はマサとマモルが座る定位置…。ということは、季節は夏冬だね〕


〔なんで座布団で分かるの?〕


〔あの2人、寒がりでさ。冬になると直座りが辛いから座布団出すの〕


〔女子みたいだね…〕


〔他にも扇風機が消えて、加湿器と暖房が出てるでしょー?ハンガーに掛けてある上着が長袖だ!あそこに掛けるのはたいていタケだね!また忘れたのか、予備で置いてったのか…結構もこもこしたやつだから、冬だね、こりゃ。

 うーん、心霊写真特集したのが秋口だったから、少なくとも2ヶ月半は寝ちゃったんだなぁ。これは計算外の長さだよっ?!あの呪い女に相当力を使っちゃったんだなー〕


 はるちゃんは部屋に置いてある家具や服で判断するという、鋭い観察眼を披露した。


〔凄いなぁ。よく分かるね〕


〔ふふん。そうでしょ?〕


 得意げなはるちゃんは上機嫌に言った。


〔それにしても、あれからトツオカはどうなったのかなぁ?心霊写真特集のその後とか、動画の反応とか気になるのにー!今はどんな活動してんるだろ?また登録者数伸びたかなぁ?アレだけ苦労したんだから、その分伸びて欲しいよね〜〕


 いつもの多弁なはるちゃんで、あたしは安心した。

 

 あんな強い霊の怨嗟を祓うのに手を貸してくれたから、この日本人形の体だけじゃなくて、はるちゃんのクマの体にも影響が出てるかも…って不安だった。

 けど、口調や元気さは記憶にある通りのはるちゃんだ。

 

〔はるちゃん、元気そうだね。良かった〕


〔しっかり寝たから元気だよー。もりもりはるちゃんだよー〕


〔あの写真の女、強かったね。人形の体に入られるかと思ったもん。この体に怨嗟が残ったら、困ったことになってたし…〕


〔そだねー。だからわたしも力を貸したんだけど、タッグを組んだわたしとサエちゃんの勝利だったね!友情の証!!〕


 ふふっ、とあたしは笑った。


〔うんうん、そうだね。力を貸してくれてありがとう、はるちゃん〕


〔どういたしまして〜。あれをサエちゃん1人で対処してたら、半年は目覚めてないよ、きっと。それはさすがにイヤだからさ。2人で半分こした方がいいな、って思ったの〕


〔うん、助かったよ〕


〔わたし達の呪物としての力、また上がったかもね!!サエちゃんは確実に上がってるよ!なんか前よりオーラあるもん!〕


〔オーラ?ってなに?〕


〔呪物としての気迫?覇気?みたいなもの。座ってるだけでもビンビン感じるよー。サエちゃんが遠い存在になっていくわー〕


〔ええ?そんなことないよー!〕


〔友達としては誇らしいけどねー。これからも無理はしないでね。お喋り相手がいないのは、本当に悲しいから〕


 はるちゃんの声は切実だった。


 初ロケに行って長く寝ちゃって、起きたと思ったらすぐに心霊写真特集だった。

 また話し相手がいなくなるのが寂しくって、力を貸してくれたんだろうな…。

 

〔うん。無理はしないよ。とは言っても、逃げられるわけじゃないのが難点だけど〕


〔戦うか、呑まれるか…。2択っていうのがねぇ。トツオカ、わたし達の周りにもお守り置いてくれないかなぁ…〕


〔それ、あたし達も浄化されない?〕


〔ああ!!そうだね!んじゃぁ駄目か!!〕


 一瞬の間の後、2人で盛大に笑った。


 目覚めてからのお喋りは尽きなくて、気がついたら夜が明けていた。


 外が明るくなると、カーテンの隙間から日が差し込んで室内が見えてきた。


 

 はるちゃんの言う通り、今は真冬だ。

 暖房、コート、毛布、メンバーの忘れ物か、マフラーもある。


 数ヶ月は寝ていたらしい。


 うーん…相当力を使ったんだな。


 しかも知らない呪物があった。

 掛け軸だ。 

 和の婚礼衣装を着た男女が描かれた物で、たまに2人の目が動いている。

 


 話しかけたけど呪物としての力が弱いせいか、喋ることはできなかった。

 そこまで悪い気はしないから、放っておこう。


 

 あと、何かをぐるぐる巻にした塊も発見した。どうやら呪物として購入したのか、木箱の中に白い古びた布が敷かれ、その上に置かれている。


 でもこれは呪物じゃない。

 なんの力も感じないもの。

 儀式めいた目的で作られた何か…としか分からなかった。


 動画を撮る場所もグレードアップしていた。

 あたしが座る椅子の他に、怪しげに光る掲示板、ドクロと海外の幽霊が描かれた絵が増えてる。


〔トツオカグッズもあるよ!〕


〔グッズ?〕


〔ほら!壁のハンガーに掛かってるシャツ!トツオカって描かれてる!〕


 薄暗くて見えにくかったけど、確かに『突撃!オカルトチャンネル!!』と描かれている。


〔なんかオシャレに文字崩してる〜。しかもお化け?絵も描かれてる〜。もしかしてマモルのデザインかな?そういうの得意なんだよね〕


〔へぇ、そうなんだ〕


 他にもいくつかグッズを発見し、2人で騒ぎ立てていたらトツオカがやってきた。

 髪が伸びてる。


「あぁ…疲れた」タケ


「あの依頼人、本当に案内する気あったか?」マモル


「ちょっと挙動がおかしかっただよな…」博士


「動画にはできないかもな…。ヤラセじゃなかったにしても、俺たちを試そうとするようなやり方ばっかり提案してくるし…」マサ


「ごめん、メールチェックが甘かったわ…」博士


「今後は俺もやりとりに参加するわ。今回みたいに撮影や編集のことまで言われたら、対応できないだろう?」マサ


「あぁ、助かる」


 疲れ切った顔の4人は、部屋に入るなり重そうに腰を下ろした。


〔あらら…どうしたんだろう?問題でも起こったのかな?〕


 はるちゃんはむむっ、と唸った。


「依頼人との面談は、2人で行くようにしよう。1人だと負担が大きい」タケ


「今後のコラボ相手との打ち合わせや企画相談も、基本は2人だな」博士


 それから4人は長々と話し合っていた。


 内容を要約すると、視聴者や同業者から仕事依頼をされたけど、トツオカのやり方や考え方と合わなかったらしい。

 多忙となったトツオカには連日のように依頼メールが来ているようで、こういうトラブルも増えているようだ。


 もうバイトはしておらず、U Tubeだけの収入でやっていけるくらいには成長したようだが、まだまだ掴めないことが多いようだ。


 他にも分かったことがある。


 チャンネル登録者数は20万人を超えたらしい。

 企画も心霊写真特集、心霊スポット巡り、視聴者リクエストの探索シリーズ、怪奇現象の考察シリーズ、呪物特集などなど…。

 

 編集作業が追いつかないくらいで、たまに外部の人に協力を仰いでいるとか。


  

 あとはマモルが彼女と別れた。

 タケは相変わらず彼女募集中。


 

「コラボ相手なんだけど、ヒトミさんところを考えてる。視聴者からのコラボリクエストがダントツなんだよ」マサ


「じゃぁ、チャンネル確認してみるか」タケ


〔へぇ。ついにコラボまでするんだ!トツオカもいっちょ前になってきたねぇ!〕


〔コラボ?〕


〔同じU Tube界隈で、似たような仕事をしてる人と一緒に企画をすることだよ。有名になってくると増えてくるらしいけど…トツオカも人気者になったんだねぇ。感慨深いわぁ…〕


 見守る母親のごとく、はるちゃんはしみじみと言った。

 なんだか嬉しそうだ。

 

 比較的新参呪物といえるあたしでも、トツオカの成長を感じるんだもの。呪物の中でも初期メンのはるちゃんは、苦労を見てきた分、感情移入しちゃうんだろうな。



〔新しい呪物も増えたけど、悪い子はいなさそうだね。良かった〕


〔うんうん。今のところ、タケの見立ては正解だね!〕



 そんな話をしたせいか…… 

 

「そうだ。明後日には例の呪物が届くから、俺はここに来るわ」


 タケがにこやかに言った。


 ……うん?

 例の呪物?


「お前…マジでアレ買ったの?」


 博士が眉間にシワを寄せて言った。

 こんな表情はなかなかお目にかかれない。


「画面越しでも嫌な感じしたけど…。大丈夫か?」博士


「俺は賛成だったけど。インパクトあるし」マサ


「タイで買った、っていうのが、そもそもインパクトあるよ。呪物大国なんだし」マモル


 

〔呪物大国?〕


 その言葉に不穏なものを感じた。


 はるちゃんも同様で、


〔なんか——嫌な予感がする…〕


 珍しく固い声で言った。


 そして、その予感は的中することになる。




 

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