秋の初め
夏にケイと電車から見た海は凄かったなー…
曇った空がうつる海。
アタシはケイの父親が運転する車の窓からそれを眺めて、あの瞬間を思い起こした。
「電車から見た海は凄かったんだけどな〜」
不意にアタシの依代を撫でて、独り言のようにケイが零した。
アタシの心情を察したのか?
「今はちょっと曇ってるな〜。あー、あっちに見える陸に向かって手でも合わせといて。俺の方の実家、盆も戻れなかったしさ」
内海を挟んで見える陸が直樹の故郷か。近いな。
いつかアタシも連れてってくれるかな?
そんなことを思いながらケイの顔を見上げた。
「“戻らなかった”んでしょ? 自分の父親なのに…相変わらず仲は悪いのね」
ケイの母親が呆れた顔して直樹に零した。
なーんか色々ありそうだ。…行けるかなぁ?
―――
あの夏の初めからミナトの携帯は壊れたままで、日中は連絡が取りにくいってケイがぼやいた。いいじゃん、どうせ社に行くし。
とりあえず連絡の取れたナギに帰郷したことを伝えて、いつもみたいに社へ向かうことにした。
「あれ、山の写真撮ってんのかな? お、他県ナンバーの車だ。意識すると人が増えてんの分かるわー」
道中、見慣れた景色の中にある、見慣れない光景を喜んだ。
だって、表面上は悪さするの居なくなったんでしょ? じゃあお客さんだよ、お客さん。
「そんな人たちの一部が邪気を連れ込んでたとか考えると、アタシちょっと怖いー」
この町に興味なさそうな人らが来る切っ掛けが未だに不明なんだから、なんだかんだ怖い。
ほら、ケイ。怖がる依代を撫でて撫でて!
『…ケイくんに甘えるためだとしても、嘘はよくないですよ?』
嘘がどこにあったと言ってんだ吽形ぉ…
「それさぁ、その邪気を集めてたモグラは退治したんでしょ? どうなんの?」
『どうなるのかも含めての確認もあるでしょうね。どうあれ、町を守るのは我々町の者ですから』
まぁ、得体の知れない邪気に任せるのは違うかぁ。
…もしかして益虫とか言われる種類だったんじゃ?
―――
社の鳥居は正常。いつもご苦労さん!
本殿に向いたケイに合わせて、アタシも吽形の分け身も一礼した。
石段を登りきる前に在る手水舎。
これ夏休み初日は気づかなかったんだよね。阿吽と楓が馬鹿してて、それどころじゃなかったから。既になんか懐かしい。
ここからは既に阿吽の像が見えてて、その横に置かれた椅子に座るミナトとナギもこっちに気づいて手を振ってる。
あっ、だめだよケイ、先に手を清めて。
「おっす、おっす! 来たぞ〜!」
「おっすおっす! おかえり〜!」
「んー。おかー」
阿吽は子供らの挨拶を邪魔しないように笑顔を向けてくる。ま、待ちわびたって感じの満面のヤツだけど。
楓も微笑んでるけど…それは喜んでる凪に向いてそう。…まぁ、わかるけど。
「んじゃ、先、お参りしてくる」
「はい。ごゆるりと」
「うむ。粗相の無いようにするのじゃぞ」
そんな阿吽の像の先、本殿の手前に在るもう一つの鳥居。
ここでもう一礼して、最後に拝殿の正面から本殿に向けて…二礼、二拍手、一礼。
――よっし。
―――
吽形がひっそりと気を伸ばして分け身に繋がってる。情報共有? お互い説明省けるから楽で助かる。なんかあったら頼んだぞ。
「話は聞いている! 敵は何処だ!」
海か? 邪気モグラの話は浜辺だったよな!
「見たまえ! たった一月で気の流れを作る管を十本も増やせたんだ! ケイに孫ができる頃には、アタシゃフサフサだぜ!」
〔…テンションどこ向いてんだよ、ちったぁ落ち着けや。せめて明日だろ…行くのはよぉ〕
いや、お前がそんなテンションかよ?
真っ先に乗っかってくるかと思ったのに…
「結…毛玉にでもなりたいのですか?」
何だよ毛玉って。なりたくないわ。…これ毛じゃねぇし!
「下手に考えが偏らぬように、不確定なことは告げておらんかったのじゃ。今日はその辺りを共有しようと思うとる」
ミナトが言ってた“気になってるとこ”の詳細かな?




