釣り
「ナギ、スッゲーじゃん!」
体育の時間にナギが不必要に目立っちまってる。
「アイツめっちゃ元気なんやけど」
「病気? なおったからやろ」
「でも休む前、あんな動けとったっけぇ? うわ今の早っ!」
「病気を治すために体を鍛えてたんだよ、きっと。ナギが神社の石段も登り降りしてんの見たし」
「何かそれ修行みてぇ」
「あー、オレもそれは見たな〜」
ハムカツがそれっぽいフォロー入れて収まったが、体育館内のガキらの中じゃ抜けた動きをしてんだから、騒がれても仕方ねぇ。
〔おーおー凪さんよぉ。やけに機嫌良さそうじゃねぇか。注目の的だぁ〕
直接じゃねぇが、凪から虫呼ばわりされたのが俺の腹ン中に残ってて嫌味を吐いちまった…
コイツが目立つ行動を好まないのは知ってるし、流れてくる感情は“高揚”的なモンじゃなくて“焦り”。意図せず俺から邪気を奪って、体に巡らせちまってんだろ。
ヤベェ、何か怒らせちまったみたいで、動きがもう一段階あがっちまった。
そんなことしたらお前ぇ…
―――
「身体中が痛いー」
〔だろうよ〕
次の授業じゃ、机に伏せ気味で唸る凪が泣き言吐いてやがる。
できる奴らは段階踏んで基礎固めてんだから。
ソレが無ぇのに結果だけ用いたら、どっかに歪みは生まれるわな。
ま、頭ン中に絵が在るから結果出せたんだし素質はあんじゃねぇの? 素でもできるようにしたきゃ精進しとけ。
「ヒビキに変なこと聞いたからさー…楓が邪気の流れ止めてくれないとカラダが持たないー」
あー、“邪気で身体強化”云々言ってたヤツな。
制御できなきゃタチ悪ぃ。
〔虫呼ばわりされたもんでヨォ。その辺は無視させてもらってたわ〕
自分でコツを掴んでくれ。
今、俺がその流れ止めたところで、本気でお前が欲したら持っていかれちまう。
俺たちは一心同体なんだからよ。
「…つまんなー。楓に言ってないだろー…」
まぁ、その辺はお前に分かりやすく使ってるだけで瑣末なトコだ。
今は気にしてねぇよ。
―――
学校の終わりの鐘が鳴った。
目立っちまった凪の周りに数人の取り巻きができて、一緒に下校中だ。
肉体の損傷まで癒せる力なんて持たないからな。今も凪は痛みに耐えて歩いている。ま、若いんだからすぐ治んだろ。
「ねー、観光に来てくれてる人の中に、変な人いないー?」
おー、情報収集か。
俺の鼻は、今回アテにならねぇからな。
「ナギも気づいてたんだ? 何か“悪さする振り”みたいなのが流行ってたけど、それもいきなり無くなったみたいでさ」
「そーそー。怖い感じの人はまだ沢山いるけど、普通にしてるっぽいね」
「“態度が悪い”とか聞いたけど、それはこっちの人にも居るじゃんねー」
ハムカツの返事を切っ掛けに色々と聞けた。お前はいつも頼りになる。
しかし“態度”とか言われたら、俺や凪も相手次第でNGだな。
道徳の授業で聞いた限り、ガキの頃から色々教えてんのにな。心の底からこの辺が掠りもしない人間が居やがった。
んで、タチが悪いのは、強い人間の前だけ態度が良い謎の人種だ。相手見てコロコロ変わるってのは何なんだ? せめて貫けよ。クソダセェ。
しかしよ。外からこの町に人が来てくれた上に、ダセェ奴らもいなくなったんだろ?
じゃあもういいじゃねぇか。
―――
〔人間から抜け出た邪気を掴んで大元を引っ張り上げる?〕
大元ってのはなんだ?
ンな話してなかったろ?
今回の件は終わりでいいんじゃねーかと伝えるつもりで凪と社に来ればコレだ。何しでかす気だよ?
「そう! みんなで話した後に景くんからメッセージ来てたんだ。“力を溜めるために邪気を集めてる存在が居るかもしれない”って」
湊が釣りでもするような仕草を俺に向ける。
ソレがあっちの意見なら、内容的に吽形の分け身が出したんだろう。
やり方は完全に湊のだな。俺が釣り糸みたいに邪気を垂らして待つのか?
〔しかし、偏見に満ちた目で相手を選定すんのか? お前らしくねぇ〕
「見慣れない人たち全員を見ていくよ? 今はそれがクマさんでも見張る」
…じゃあいいか。
コイツには敵とか味方、関係ないのな。パねぇ。
〔わあった。細っそい邪気こさえて、ナンボでも垂らしてやんよ〕
「頼りにしておりますよ」
「便利じゃなー」
便利いうな。
終わったと思ったんだが…ま、何か居るのは間違いなさそうだしな。




