どこいった?
『吽形! …すまん、ワシは見失うた!』
あなたと同じ者を見ておりましたが…引っ張られるように抜け出した“何か”を感じただけです。
状況から、“邪気”と仮定して良いのでしょうか?
『阿形…湊くんの言う不安、垣間見えた気もします。…ですが』
あなたが無理だったのですよ? きっと私を含めて誰もソレの行方を追えておりません。
皆を見渡して反応がないのを確認した私は、阿形に向き直して首を振りました。
―――
「んー、今日もやっぱり変なんだけど…前みたいな不安は残ってないなぁ」
〔大体、前に湊が感じた不安、お守りの白犬が拾えなかったんかよ?〕
「えー? だって学校の帰りに見かけたから…お守りとか持っていけないし」
「楓はボクと一緒に学校行ってるし、実は気づいてたー?」
〔フッ……全然。っあー、自分の首絞めちまった!〕
「なんで今、ニヤって笑ったー! 期待しただろー!」
不安の原因を邪気と仮定しておりますが、そうなると楓は自分と似た匂いには気付き難いかもしれませんね。
『湊くん、今日はお守りの加護があるからこそ、不安を感じなかったのかもしれません』
お守りを持たない頃の湊くんは邪気や澱みに敏感でした。
最近、その辺りの不安を口に出さないのは、加護の力がそれらを抑えていたのでしょう。
「あー。じゃあ、お守り付けてたら気づかなかったかも」
『…なれば、加護の無い敏感な者には、こういった日々は過ごし難かろう』
『ただでさえ見知らぬものの心無い行為を目の当たりにするのですし…直前で辞めたとしても目につきますからね』
「なんか威嚇されてるように感じるかも。それも嫌だなぁ…」
「気にしすぎじゃー?」
〔凪…お前は弱ぇんだから…少しでも回避できるように気にしてくれよ…〕
何か掴まねばなりませんが…
これらはいつから始まったのかを考えなければなりませんね。
――
「阿形、人が増え出した夏の初め。阿形が湊くんとこの地から離れ、邪気夜行が発生したあの日。どうでしょうか?」
湊くんと凪くん、楓が見回っている最中、私は境内で阿形に話しかけました。
「吽形。なんじゃ、楓を気にしてこちらで話しておるのか? はっは。…まぁ、あやつも繊細じゃからのう。此度の切っ掛けを探しておるのじゃな?」
言葉を止めて目を閉じた阿形。
あなたから出る次の言葉を待ちましょう。
あなたなら何処に見出しますか?
阿形からただならぬ雰囲気を感じ、固唾を飲んだ時――
「そうか…ワシも忘れておった。あの時に感じた背中を走ったものを思い起こされたわい…今、その話が出るとはのう」
「阿形…?」
あなた、また何か独りで抱え込んでいたのですか?
まったく…
「あの日の夜、巨大な邪気の塊を湊が宝珠で砕いたじゃろ?」
あなた、それを“忘れておった”と言いました?
いえ、まだ先があるようです。
おそらく神妙な顔をしている私は、静かに頷きました。
「…事の大きさと、宮司の登場で半ば有耶無耶になっておったのを思い出さすとはのう…」
「は?」
「む?」
話が噛み合ってないのではありませんか?
「…なんか、ワシの思うた内容と違うたみたいなんで…もう一回、最初からやり直しに――」
「阿形。最後まで話しなさい」
―――
まったく…
あの日の切っ掛けとなったのは、この地に邪気を伏せさせていた私と阿形の浅慮です。
ここから離れた阿形でもなければ、結界を閉じさせた楓でもなく、陽菜さんの持つ加護のせいでもありません。
狛犬網を使用しているときに結界が閉じれば、当然こちらとの繋がりは絶たれますので、移動先の土地から自力で戻る必要があります。
そんな事故を想定していたにも関わらず、遠方へ向かうと決めた上で…禍だった頃の楓を挑発して結界を閉じさせた。
“あの日が話題に挙がった時点で叱られると思うて、冷静で居れんかった”って、子供ですかあなたは。
しかし…
“あの日の夜、巨大な邪気の塊を湊が宝珠で砕いたじゃろ?”
邪気が集まって作り上げられた塊。
砕かれた後に粉々になり、土地を満たす気で浄化されていく様を見上げておりました。
あのとき、集まった邪気の全てが浄化されたと思い込んでいましたが…確認しておりませんね…




