笑顔の向こう
大きな邪気が生まれて…すぐに消えたのが分かりました。
かつて、巻き込まれたアレとはまた違う…意図を感じる“うねり”。
焦るわけでもない気まずそうな阿形の表情を見れば、それが身内の力だと分かって…むしろ安心します。
あれは突発的な、緊急事態への対処なのですかね。
「阿形。詳細を…」
「う、うむ…あー、楓に不届者を懲らしめるよう言うたら、思いのほか張り切りおって…煽りで分け身と繋がりが切れてしもうた」
「…うっかりすぎませんか?」
「む、湊たちは無事じゃよ? …いや、抜かったわ。思ったより、邪気の絡みが嫌らしいかもしれぬ」
邪気の絡み?
―――
しばらくすると鳥居をくぐる湊くんたちの姿を確認できました。
皆、無事のようで何より――一人だけ縮尺間違えたような方がおられますが、あれは?
石段を登りながら、湊くんや凪くんだけでなく、楓にも楽しげに話しかける姿を見るに…いや、何者ですか?
「お〜、うんうん。イイね〜! …ちょっと石段長すぎない?」
「そーそー」
「うーん、慣れたけど、確かにちょっと長いかも」
〔凪、前みたいに自転車で裏から来てもイイんじゃねぇか?〕
「自転車? そっちのがキツくね?」
『最近はアシスト付き自転車なるものがあってのう』
「あー、俺も聞いたことはあんだけどねー…それ言うほど最近?」
「あれ結構らくー。でも石段でいい」
「おー、やるなっ!」
…私、静かにしていたほうが良いのでしょうか?
皆と一緒に石段を登ってきた大きな男性が、楽しげに皆と話しながら境内を眺めています。
阿形が…おそらく何気なく、分け身と断たれていた気を繋ぎ直した時、その男性が反応したのがわかりました。
「おー…? おっほっほ〜…?」
野生の勘とかですか? 人でなく熊か何かかも知れません。
――ベシッ! ベシッ!――
いたっ!? ちょっと痛いです! なんて分厚い手をしてるんですかあなたはっ!?
ちょっ、私っ、台座から落ちるのでは? 砕けちゃいます、やめてっ!
「ん〜」
熊が私を叩く手を止めて、その腕に巻いていたものを解き出しましたが…
「湊くん、君にはコレをあげよー。割らないように気をつけてね。怪我しちゃうから」
あれは、勾玉でしょうか?
「えっ? いいの? でも、なんで?」
また、熊のような巨躯が私の隣に立って、頭を撫で始めました…生きた心地がしないのですが…
「えー? ぼ――」
―ペチッ! ペチッ!――
いたっ…くない。先ほどよりは優しい…
「…あー。分かった」
不満そうだった凪くんに向けて、熊が片目を閉じて私を叩くと、凪くんが何かに納得した様子…
「先ずは、それもって一緒に手を合わせてこようか。あとは、好きにするといいよ」
―――
初めて…阿形が宇美さんに感じる恐怖というのを理解できました。
揶揄うようなこと言って申し訳ありませんでした…
皆に熊と呼ばれ続けて、“あー、もーソレでいいよ”と受け入れられたクマさん。
最初に名乗られていた名前は、おそらくもう誰も覚えてないでしょう…
湊くんたちは浜辺に自転車を止めたまま商店街へ向かい、そこで起きた出来事を伝えるため直接社へ歩いて来たとのこと。
クマさんが観光中とのことで、助けてもらったお礼の意味で、社までの案内を兼ねたようです。
「え、キミらの自転車、浜辺にあんの? こっからまた海ぃ…タクろっかぁ」
クマさんが社にタクシーを呼び、一路、浜辺へ向かうこととなりました。
「あれ、あれ。頂きますっ!(ビシィ!)」
「違うし」
〔それ飯食い始めただけじゃねぇか!〕
「んぷっ、あはははは!」
タクシーを待っている間、私の知らない何かで盛り上がるのはやめてくださいませんか?
―――
タクシーの助手席にクマさん、後部座席に子供たちが乗り込んでいます。
私は、クマさんが湊くんに渡した勾玉に力を込めることで、同行できております。
「すんまっせん、こっから海とか近いっしょ?」
「あー、いいよいいよ。今年はこの町、なんか賑わっててね。そこでも誰か乗ってくれると思うから」
「ほーん、んじゃ遠慮なく…おー、轟さん。よろしくおねがいします」
轟さん? …助手席、クマさんの目の前に、運転手さんの顔写真と名前が掲示されていました。
クマさんと運転手さんの笑顔が交錯して笑い声も漏れています。
「お客さんって、夏だから多い感じです?」
「いやー、少し前からだね〜。ほとんど田んぼと畑なのに、映えスポットがあるとかなんとか」
「あー、わかるわー。俺もSNSで見かけて遊びに来たし」
クマさんは苦手な人間とかいなさそうですね。
「んふふふふ」
「映えは、わかんないやー」
「まー、まだ、わかんないかもな〜」
「わかんないかもね〜」
「むー…」
「「あっはっはっは」」
…クマさんと轟さん、仲が良さそうですね。
「ちょっと前から、閉めた宿を建て直したりしてるみたいでね、賑わってきてるよ〜」
「ほー。んじゃ、また来なきゃなぁ。轟さん、昼食べるのにオススメの店とか知ってます?」
「おー、昼飯どきだもんね。今だと混んでるかもしれないけど、彩は美味しいよ。商店街を出たら直ぐに――」
クマさんと轟さんの会話が続く中、湊くんと凪くんは、笑顔で顔を見合わせて笑ってます。
景くんのお爺さんの店というのもありますが、この車の中で聞けた全てが嬉しさに繋がった気がします。
―――
「轟さん、ありがとうございました」
「ははは! こちらこそ、ありがとうございました」
浜辺に着いた私たちはタクシーを降りて、クマさんと別れることとなりました。
「さーて。んじゃ、俺は行くけどさ。動く前に、自分たちだけでできることなのか、しっっっかり、考えなよ?」
「…うん。今日はありがとうクマさん」
「クマ、ありがとうー」
…最後まで何者かはわかりませんでしたが、良い大人と出会えてよかったです。
「いや、お前らもだよ! むしろお前らだろ! しっかりしろ!」
『あっ、そ、そうじゃな。本当にそうじゃ。もう少し引いて物事を見るように心がけよう…』
『肝に銘じておきます…』
〔おう…なんか、心に効くな…〕




