↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/118

くま


 …出がけに感じた吽形からの圧が無いんじゃ。張り合いがない。


「吽形、凪と楓が湊と合流しおったぞ。ゴミ拾いを蓑《みの》に巡回するようじゃ」


「なるほど、悪目立ちせず立ち回れる訳ですね。阿形、無理はしないようにお願いいたしますね」


 …覇気のない…吽形も無理なく湊と繋がる方法は無いもんかのう。


―――


 夏休み最後の日曜ということもあってか、賑わっておる。


 去年までも全く人が居なかった訳ではなかろうが、明らかに客が増えておろう。

 我らの活動が、などとおこがましいことは言わん。この町の発展を願う皆の想いが導いた結果じゃな。


『せっかく来てもろうたんじゃ。心も体も癒されて帰ってもらわねばな』


「イイね〜」


 ん?

 聞き慣れぬ男の声が返ってきた。

 湊も凪も、楓さえも予想外の声に驚いて声の主を見た…見上げた。


「あっ、いっけね。ゴメンごめん」


 声を発した巨大な男がそそくさと去ると、我らが居った場所に日が当たった。


「でっかー」

「んふふふ、でっか〜」

〔…熊かよ…〕


 それぞれが好き放題言うておるが、人が増えれば我らが見えるものも増えるのは当然じゃな…

 なんか、追い出すような結果となったあやつに対して、申し訳ない気持ちに苛まれてしもうた。


―――


「ぷぁー、あっつー! あははははは!」

「あちー! んはははは!」


 子供がゴミ拾いをする姿を見て、浜辺を汚すような者はおらんかった。


 ねぎらいの言葉や挨拶、笑顔が交わされる…平和な時間が過ぎておる。


「悪者がいないー」

〔…いや、いいことじゃねーか〕


 うむ、良いことなんじゃが…弓の力、何かを見通されて預けられたんじゃと思うとる。

 気は抜けぬのよのぅ…

 

「そろそろ休憩しよー? 喉乾いたー」

「僕もお腹すいたー…」


『うむ、では海の家まで戻るとするかのう。お疲れじゃったな』


 “海の家”とは言っても、その名の通りに機能していたのは過去の話じゃ。

 秋以降の建て直しが予定されておる今は、急場を凌ぐ待合所…管理棟として利用されておるようじゃ。


 ここでは、湊に射られた者が待機しておった。

 湊と凪を感謝の言葉と笑顔で迎え入れ、クーラーボックスにある冷えた飲み物を渡された。あー、良いものじゃ。


―――


 一息ついてから、商店街の方へ向かうこととなった。


 大人たちから聞こえた迷惑行為に、この場所も含まれておったからな。

 …早速、それっぽいのが居るわ…正直、子供とおるときに会いとうなかった系統じゃ。


 店の前に停められた大きい黒塗りの車…運転席の窓から肘を出してタバコをふかしておる。

 灰はおろか、吸い殻もそのまま道へと落としおる。

 車体を揺らしてゲラゲラと中におる者たちの笑い声が漏れ出とる。

 …いや、何しにこの町へ来たんじゃ?


「阿形…」


 湊も凪も、今の状態なら邪気の有無を感じれるのじゃろう。

 そうじゃ。見えておるあやつは、邪気に唆《そそのか》されておらん。

 あれらの行為を善悪抜きで行っておるんじゃな。


『…やめんか、楓。その力は人を害す』


 背後であろうと、紡がれる密度の濃い邪気に、ワシが気付かぬわけが無かろう…

 おぬし、凪の感情に引っ張られておるな?


「あー? 何ぃ僕たち? 俺ら睨んでるって?」


 ん? 運転席でタバコを吸っておった者が降りてきたが、別のものが奴に行動を促したな?

 窓ガラスが真っ黒で視認はできぬが…そっちには邪気を感じとれる。


『こやつは本意で動いておらぬ、糸引く邪気は車の中じゃ。今はここを去るぞ!』


 む? いかん、大人相手で子供たちも萎縮して…すぐには動けぬか。

 ならば、仕方あるまい…


「え〜? おにーさん、俺に言ってる〜?」


 …溜めたワシの力が霧散した。

 我らの後ろから別の男の声が聞こえて、詰め寄ってきたタバコの男が後ずさった。


―――


 こやつは…昼間見た熊のような男じゃ。


「おにーさんたちさぁー、睨まれる覚えでもあんの〜?」


 ぬぁー、こやつは笑顔なのに圧がすごくて、子供たちが固まっておる…


「なっ、…ね、ねーから怒ってんだろ!」


「ウケる〜。気付こうよ〜」


 熊男が楓に視線を送っておる…そうじゃな、こやつ、ワシの声が聞こえておったからな。


『楓、車の中の者たちから邪気を引きずり出すんじゃ』


〔…おうよっ!! 凪っ!〕

「あっ、うんー!」


 いや、馬鹿もん、勢いが凄いんじゃー、加減を知らぬのかっ!?

 ほぼ一瞬で車全体が邪気に包まれて、それが車を揉むようにうねり出した。


〔凪っ、もっと腕を大きく回せっ〕

「んーっ!」


 楓から一斉に噴き出た邪気が、また一気に楓へと戻って行く…

 僅かに散った邪気のかけらは赤黒く煌めきながら…この地に満ちる気に浄化されていった。


〔頂いていくぜっ!〕

「頂いていくぜー!」


 …それはなんじゃ?


「…おっほ、あっはっは! カッコいいじゃん!!」


 もう、車からは邪気が感じられぬ。

 “ねぇ、帰ろー?”と車から声が聞こえて、タバコの男は振り返ることなく車に駆け寄ったが――


「ほら〜、ゴミ拾っとけ〜」


 熊に促されて、タバコの吸い殻を拾い、この場を去った。


 …満足げな凪と楓の顔と、散りゆく邪気を見上げて笑顔の湊。

 終わりよければ、全て良しじゃ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。