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技


 俺のよく知る、母親の瑞穂(みずほ)が居ない夜。


 見もしないテレビをつけて部屋を賑やかし、そこで流れてくるものとは別の話を寂しげにしてた凪しか知らなかった。


《楓の力を借りたら…ワンチャン?》


「貸さないしー」


 …さっきまではな。


 タブレット越しには俺ら霊体の声や姿は送受信できないようで、完全にガキだけの会話が繰り広げられてんだが、それがいい。

 境内じゃ狛犬どもが交互に茶々入れてきやがるから、煩わしく思ってたくらいだ。


 邪魔が無いおかげか境内より口数が多く、コロコロと感情が変わる凪が面白れぇ。



《んふふふ。明日、試してから教えるね!》


 …凪の顔見てたら、ガキらの会話がもう終わりそうだ。

 これからも凪の相手をしてくれ。最後に湊と景の顔でも見とくかと画面を見たが、湊の表情に軽く悪寒が走った。

 …霊体の声や姿は送受信できないってんなら、俺が感じたコレは…なんなんだろうな?


―――


 いつもより早く起きた凪が、買い置きの食パンに薄いチーズと…なんやかんや乗せてトースターに入れた。


「楓ー。必殺技とか、ないのー?」


 藪から棒すぎんだろ、すぐには言葉が出てこねぇ。


〔んー…、“必ず殺す技”…あー……〕


「…空気読めよー」


〔いや、わかってんよ、言葉通りじゃねぇってのは。アイツら(社の連中)と被らねぇ、俺たちだけの技だろ?〕


 お、いい顔してんな。



 ――チーン――



 トースターがタイマーを満たして音を立てた時、響が俺たちに見せた“決めポーズ”を真似る凪を見て笑ってしまった。くっそ…


 そのポーズを取るための勝ちパターン、考えなきゃな。


―――


 あー…難しい。かなり。

 アイツらは邪気を散らす方向に進むんだろうから、技が被る心配はねぇんだがなぁ。


 社へ向かう自転車を漕ぐ凪も、考え込む俺を気遣ってか声をかけてこねぇ。


 いや、何も成果が無ぇ訳じゃないんだぞ? 超かっこいい動きと、それにハマる名前は浮かぶんだが……おそらくどれも人体に影響がある。

 それらを放てば、背後から味方(?)に撃たれる覚悟がいる。…俺は馬鹿か。



 気がつけば凪と境内にいたが、湊の姿が無ぇ。


「早朝から分け身と巡回に出たぞ? 今は海に向かっておるが、なんじゃ? 聞いておらんのか?」


 聞いて無ぇわー…

 せめて凪を待ってて欲しかったわ。携帯も壊れたまんまなんだろ? 連絡取れねぇ。


 …まぁ、俺が恐怖を感じたテンションだ、子供じゃ抑えきれねぇんだろうな。


「楓、おいかけるぞー!」


 おーおー。お前も元気になりやがって、ははっ。

 そんな、やる気に満ちた俺らの後ろから、角犬(吽形)が不穏な言葉を伝えてきた。


「楓。湊くんの暴走には…気をつけてくださいね。分け身がついてはいますが…私たちでも、抑えきれないことがあります」


 何だそれおい、やっぱおっかねぇな…


―――


 二本の生身の腕と、二本の霊体の腕…俺らから見たら異形の湊が弓を射る姿に遭遇した。


 いや、その射られた人間、ゴミ拾いしてる味方じゃねーのか?


「僕もゴミ拾いします! 集めたらどこに持って行けばいいですか?」

「あれ? 宇美さんとこの。あー…悪い気もするけど、正直助かる〜! あそこの海の家に集まるようにしてるから、集めたゴミも困ったことも合わせて、そこに行ってみてね」


 まだ比較的涼しい時間帯なんだが、やっぱ暑(あち)ぃもんな。

 ゴミ袋と火バサミを湊に渡したそいつは、フラフラと木陰に向かって水分補給を始めた。疲労も溜まってんな。

 じゃぁ、あれのストレス的なのを弓で散らしたのか?


「あれ? おはようナギくん、楓」

「おはよー、ミナト」

〔…おう〕


 霊体の腕が俺らに向けて振られてる。こっちは湊の意志で動いてんな。

 実体の腕は、湊が目も向けてねぇ地面のゴミを火バサミで拾ってっから、分け身が動かしてる?


〔おい、白犬(阿形)。湊の視線を意識して腕動かせ。不自然すぎんぞ〕

『…む、確かにそうじゃな』


 湊の胸元にあるお守りから声が聞こえる。やっぱそうか。


「ねーミナト、悪者退治はー?」


「んふふふ、ゴミ拾いしながら探せば、おかしく見えないでしょ?」


 おー、なるほどな。


―――


 管理棟で凪の肩まで影ができるくらいの麦わら帽子を被せられた。

 手には湊と同じように軍手と火バサミ、ゴミ袋が持たされてる。


 時折、湊から腹の音が聞こえてくんだが、お前、ちゃんと飯食ってんのか?


 凪と湊のパトロールが始まったんだが、凪のワクワクが俺に流れ込んでくる。

 同じ目的で未知の活動だもんな、そりゃそうだ。


 …分かってる。あと足りて無いのは、凪と俺で織りなす必殺技だけだ。


〔湊、恥を忍んでお前に聞く。凪と俺にできる技、何か浮かばねぇか?〕


 俺の言葉を聞いても凪は俺を責めず、期待した目を湊に向けた。


「んー、楓が周囲に撒いた邪気を辿って相手に侵入して…中から破壊する!」


 いきなりえげつねぇな、おい…

 完全に悪モンの技じゃねぇかよ。

 いや、凪も頷いてんじゃねーよ!


 …いや、さすがなのか? 聞こえは悪いが、破壊すんのは邪気だからな。これなら人体に影響はしねぇな。


「耳に水が残った時とか、もっかい(もう一回)水いれて、引っ張り出すみたいにするでしょ?」

「人によるー…」


 たとえが微妙すぎる、俺にゃわからん。


『呼び水、誘い水のようなものか?』

「かなぁ? じゃあそんな感じで、邪気を撒いて相手に侵入するまでは同じで…捕まえて吸い取る!」


〔地味ぃ…〕

「地味ー…」


 思わず声に出ちまった…

 いや、効果的なんだが、凪と俺の求めてる派手さというか…チューって吸って、決めポーズ。あんまりだろ。


 せめて技名でごまかせねぇか…超吸引…あー、バキューム…無ぇな。


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