加護の効果
「おぉ、あれは湊じゃな。なんじゃ、今日はいつもより早いのではないか?」
阿形が鳥居をくぐる湊くんに気づいたようです。
いつものように迎えようと顔を向けたのですが、石段を登り始めた彼の雰囲気は…いつもと少し違う気がします。
湊くんの首に下げられたお守りに宿る阿形の分け身も、気配が薄いというか……何を始める気ですか、あなたたち…
湊くんに向けていた阿形の笑顔も、これらの異様さに気づいたのか、徐々に強張っていくのがわかります。
―――
「んふふふふふ〜」
いつものように拝礼を終えた湊くんが私たちに見せたもの。
それは、過去にあった幾つかの不安を呼び起こす笑顔と、新たに肩から伸びた…霊体の…腕。
「これで僕も弓を引けるよね!」
「あぁ、なるほどのう……」
阿形、どこを見てるんですか、目の焦点が合ってませんよ?
あなたそれ考えるのをやめて相槌を打っただけでしょう!
楽しそうに実体と霊体の腕を四本同時に動かす姿は確かに凄いのですが、この場に参拝者がいたら変な動きをする少年としか認識できません。早く止めないと。
「湊くん、そちらの種明かしをお願いできますか? …その増えた腕は一体?」
“んふー”と満足げに息を吐いた湊くんが、わきわきと動かしていた霊体の腕を消すと、お守りに宿る阿形の分け身が存在感を強めました。
あー、これは。なるほど?
「狛犬網を通る時みたいに憑いてもらったんだ〜。今回は、腕にだけね」
「実体の腕は、阿形の分け身が動かしていたのですか?」
「うん。そうだよ」
…お守りに宿る加護。
主様を探るようで後ろめたく、あまり深く考えてはいませんでしたが…陽菜さんや大翔さんのように、加護を与えた神が違えば、もたらされる力も当然違うのでしょう。
(阿形。湊くんたちに与えられた、主様に由来する加護は…縁結びでしょうか?)
(吽形…なるほどのぅ。そうであれば、狛犬網という縁の繋がりを渡り、様々な縁を繋ぐ切っ掛けになったのも頷けよう。今回も縁で得られた力を使うためにご助力をいただけたと考えれば…)
そうすると、宮司さんに与えられた加護はもしや国作り…
「でもこれだと…吽形と連絡取れないね?」
…そうなのですよ。
私は景くんのお守りに分け身を宿してますが、湊くんのお守りには阿形の分け身が宿っています。
今は他に力を込めることのできる依代もなく、この地では阿形が自身の分け身と気で繋がるしか連携を取る手段がありません。
「…えぇ、それは仕方ありません。阿形、分け身から得た情報は、しっかりと私に伝えてくださいね!」
漏れなく。
「うっ、うむっ!」
『ぜ、善処しよう』
…これは仕方ないですね。
「じゃあ、パトロールに行こ〜う!」
―――
「…吽形」
「え? はい、どうしました阿形?」
湊くんが意気揚々と社から出発して、そう時間も経っていません。
比較的涼しい時間帯のため、境内にもちらほらと参拝客が訪れています。
「この時間帯、予想以上に海水浴客がおる。…素行が悪いのもな」
こちらはこんなに穏やかなのに…困ったものですね…
「道中も、店の前などはゴミが散乱しておった。町の者が片付けるにしても、これはあんまりじゃ」
“ゴミ箱がないから”などと言いながら、持ち込んだゴミを置いていく話、してましたね。
「夕食の時、大人たちから聞こえた会話の通りじゃが、うーむ…」
「湊くんは、如何なさってるのですか?」
「子供の視点からも、それら所業に呆れておる。あと、まだ一度しか弓を引いておらんが、そう長くは持たぬ」
「持たない? それはまた何故?」
まさか、体に負担が?
「…早朝から社へ赴きたくて、朝食を控えめにしておったんじゃと」
あー…結も言ってましたね。体に憑いた状態で力を使うと、極端にお腹が減ると。
お腹をさすって困り笑顔を見せる湊くんが、容易に想像できてしまいました。
「…ふふふ」
「…はっはは!」




