焦ることなく
響を伝って大層な力を借りたのは有難いのじゃが…強大すぎる。
盆には帰ってしまう景に合わせて、我らはお守りへと新たに分け身を宿した。
一度弱った我らを救う形で合流した分け身じゃったが、以前よりも強く宿せた気がするんじゃが。
…我らも成長したのか? と、吽形を見遣るが、首を振られた。あー、なるほど、弓のおかげかぁ…
「ケイくん、結や楓みたく、お守りの阿吽には名前つけちゃダメだよ?」
「ん? それはしないけど…逆に名前がある方が話しやすくない?」
分け身の我らに名が付けば、そこから別の存在となる。
…“何か”あれば、いつぞやのように一つに戻す考えなのじゃろう。
「大丈夫じゃ。我らと分け身が近くにおる時は、記憶を共有するようにしておる。一方と話しておれば、もう一方と共に考えたうえでの返事をしておるよ」
ワシと分け身とで意図的に会話することもあろうが、それはワシの中で答えを出す必要がある時ぐらいじゃろう。
「響くんから受け取った弓ですが、私たちの分け身に預けておこうと思います」
「じゃないと、ケイがあっちで使えないもんね」
景が帰ると言うのに、湊も景も気を落とす感じは全くなくなったのは幸いじゃ。
特異な凪と楓も、響の機転で随分と機嫌が良さそうに見える。
〔あ――〕
楓が調子に乗って発した邪気に反応して…鳥居が結界を張ってしもうたようじゃ。
ん? 狛犬網が閉じてしもうたが…これ、響が帰れぬようになったのではないか?
鳥居から響に伸びておった気の紐が途切れておる…
「何をやっておるか楓っ! 響が帰れぬではないか!」
〔いや、あ、あー…響、すまねぇ…帰る方法はあるか?〕
楓が溢れてしまった邪気を抑えたが、やっぱり禍なのじゃなぁ…
〈あー、阿形、楓。たぁぶん大丈夫よ? 俺も大事なもンは渡せたし、そろそろお暇しましょっかねぃ〉
響が我らに手を振りながら、鳥居へ続く石段を下り始めた。
唖然と見送る間に鳥居の結界はゆっくりと解除された。
そこから見計らったように気の紐が伸びてきて…響と繋がった。考えれば、ワシと湊の時とは状況が違う上に、格も違うた。あー、ワシ、恥ずかしい。
〈お、再接続されたねぃ。んじゃね。お互い頑張って行こぉ〜!〉
―――
《ミナト、ナギ、そっちはどう!? 俺、弓を引けたんだぜ!》
《おー。すごいじゃん》
「いいなぁ。明日、お社で阿吽に話してみるよ。で、どんなだった?」
《いや、まだ邪気を相手にはしてない。で、俺の体に結が入るんだけどさぁ――》
凪が加わったタブレットでの対話で、景が興奮気味に語っておる。
湊のお守りに分け身として宿っておるワシは、遠巻きに子供たちを見守ることにした。
ちなみに湊が家でとる行動は、基本的に境内のワシには共有せぬ。必要があれば吽形と共に口頭で伝えることにしておる。
少しだけ湊と話をしてはおったが、経験上は湊が霊体になれたのは狛犬網を通過した時だけじゃ。
しかも、主様のお守りを身につけた湊の側にワシか吽形が居り、その体を守るために憑く必要がある。…その上で我らは社から出れぬ。あぁ…
霊体でなければ弓が引けないのは当然なのじゃが、なんとも都合の悪い状態ではある。
都度、狛犬網で繋がった近くの社から出動。…これは締まらぬなぁ…
「ケイくん、頭いい〜!」
《でもそれー、湊は無理じゃん?》
《楓の力を借りたら…ワンチャン?》
《貸さないしー》
景の霊体化への道筋を聞かされて感嘆の声が出ておる。社に縛られない分け身の吽形と結だからできた芸当じゃな。
すまぬが、こちらはこちらで最善を尽くそうぞ。…うぬ? 湊がまた少し閃いたような怖い顔をしとる…
《ミナト、なんか顔こわー…》
《あー、ミナト…またなんか変なの思いついたんだろ?》
湊がワシの宿るお守りに軽く触れたあと、その両腕だけが霊体となるのを目の当たりにした。
…こやつ、またやらかしおった…
霊体はタブレット越しに見えぬから、景も凪も気づいておらぬようじゃ。
「んふふふ。明日、試してから教えるね!」
こやつはなんでもアリじゃな…




