次の目標
昼食を終えた凪と母親の瑞穂が団欒中だ。
退屈なほど優しい時間が流れ、よく似た二つの笑顔が俺の心を埋めていった。
俺と出会った頃に見せたものとは違う、柔らかい笑顔。
悪くねぇが、あの頃の…争うような状況で見せた笑顔も嫌いじゃなかったんだがな。
暫くして、アイツ《狛犬》らが居る社の宮司…国治が、瑞穂を病院に連れて行った。
凪の言う“おじさん”が宮司って、なんの因果だよ…
ちなみに、俺の“死を覚悟した3選” の一つはコイツだ。後は容赦を忘れた白犬と、陽菜。
…俺ぁ、人の世に足を踏み入れて間もないってのによぉ…物騒な世界だよなぁ。
最近じゃ凪と瑞穂の体調も随分とよくなり、国治から滲み出ていた“清らかすぎる殺気”は、なりを潜めた。
振り返って気づいたが、俺は国治に人の世界に蔓延るストレスってのを感じてたんだな。もうアレは勘弁してほしいもんだ。
―――
「ナギ〜! 元気そうやん! 神社に行くのか?」
「ほんとだ、ナギだ!」
「うわ。めっちゃ久しぶりに見た」
社に向かう道中、元気そうなガキどもと遭遇した。
一人はナギを気にかけて家にも訪ねてくるハムカツって奴だ。不思議な名前だが、俺がコイツの名前を笑うことはない。良いやつだ。
凪はマイペースが持ち味なんだが、一斉に話しかけられると辿々しいのがウケる。…だが、程々にしといてくれよ。
ハムカツが頃合いを計って、凪を取り囲む連中を連れて離れて行くのを見送った。アイツぁ出来る奴だ。
「疲れたー…」
凪が軽く零した後、社に向かって自転車を漕ぎ出した。
ちょっと前なら、“帰る”って言葉が続いたんだがな。
「楓さー。どっか行きたいとこ…観たいものとかあるー?」
“ボクがオマエといれば元気になれる気がする。そしたら一緒に色んなトコ行けるぞ?”
初めてお前に会った日に誘われた言葉を思い出したぜ。
子供ながらに義理堅いのは偉ぇよ。
〔俺ぁ、遠慮しねぇぞ?〕
「いいぞー。あの世、とかじゃなきゃなー」
〔…それは最後に取っとくよ〕
また違う笑顔を見せた凪と、一連の会話から余裕を感じる。
やっぱ俺、消えるタイミングは大翔ん時がかっこ良かったんじゃねぇか?
「でー?」
これ、続くのか。んじゃ…
〔紅葉、観てぇな〕
―――
〔凪…社で、また何か起きてんぞ…〕
「ふーん。よいしょ」
鳥居の側で凪が自転車を停めたあたりで、結界を越えてくる清い気配。いつもいつも賑やかなこって…
凪が石段を登り終えると、見知らぬ霊体のガキが持つ2張りの弓に目を持ってかれた。
狛犬どもや陽菜、大翔の加護を超える畏怖しか感じねぇ…俺の周りにゃ消滅が溢れてんな。
「あ、ナギくん。こんにちは」
湊の挨拶から始まり、吽形から簡単な状況を聞いたが…その弓を俺に向けて引くなよ? それは俺に効く。消えるタイミングミスった上に事故で消滅なんざ、ダサくて悔いしか残らねぇよ…
話が落ち着いたあたりで、ずっと視線を送ってきていた響が寄ってきやがった。
狛犬どもに弓を渡したのは確認したが、他には何も持ってねぇな? 持ってねぇよな?
響が身に纏っている力は、狛犬どもが扱う気とは大きく違う。節操なく周囲を染めるようなモンじゃねぇ。神のお使いで単身狛犬網を通ってきたらしいが…言えたギリじゃねぇが、この辺だけでも格の違いってのを思い知るわ…
〈凪っち、楓って…ちょ〜カッコよくない?〉
ん? お? なんだお前…
〈みぃんな白いのに、一人だけ黒。俺らと違って体に宿した闇のパゥアー! 放つだけの俺らと違って、邪気を吸収して身体強化、それを時に放つ! …やっぱカッコ良すぎるのでは?〉
なんだそのポーズ、お前もカッコいいじゃねーか…気持ちのいい奴だ。
「おおー? おー!」
いや凪、響の真似は…仕事をこなした後にしようぜ?
「こら楓っ! 境内で無闇矢鱈に邪気を放つでないわっ!!」




