来客
主様を祀る社は、お盆と共に月次祭の時期を迎えました。
今月も早朝から宮司さんと宇美さんが立ち回り、厳かに祭礼は終了したのですが…
参列していた景くんが時折見せる寂しそうな表情は…この日の夕方には帰宅することを思い出しているのかも知れませんね。
―――
月次祭が終わり、凪くんは仮退院中のお母さんを連れて一度帰宅しました。
宮司さんが凪くんの叔父…お母さんの弟というのを先ほど教えていただいたのですが…私が宮司さんに凪くんの気配を重ねてしまったのは…そういうことだったのですか。
宮司さんが祝詞を奏上する背中を見て、凪くんのお母さんが微笑んでいるように見えたのは、何か思うところがあったのでしょうね。
(吽形。この辺りの話をしておるときに柏手の音が聞こえた記憶がある…話題を変えぬか?)
そうですね…ん? 狛犬網にこの社への問い合わせ?
陽菜さんの時のように、月次祭に参列された人の中に加護を持つ方がおられたのでしょうか? しかしそんな気配はありませんでしたが…
「吽形、これは狛犬間のものでなく、他の社の神が利用なされておる」
戸惑う私を見て、阿形が説明してくださったようですが…えっ? なんですかそれ?
「阿形? 私、それ知りませんけど…」
「吽形…おぬし、そもそも狛犬網自体を把握してなかったであろう…」
…そうでしたね。
「安心せよ、この時点で主様は既に受け入れられておる。…湊のように無茶をする者がおるようじゃぞ」
「えへへ〜」
「湊、褒められてないと思うぞ」
「うむ、褒めとらんわ」
私たちの会話を聞いていた子供たちの表情は、もう明るいものでした。良かった。
「あっ、ほら! 鳥居に知らない子が居るよっ! 霊体だし、阿吽じゃなくても狛犬網移動できるじゃん!」
結が興奮気味なのは、私たち狛犬でなくても狛犬網を利用できる可能性を見たからでしょうかね。
もしかしたら、景くんの住む町の社から此方に来ることも可能かも知れません。
結が指差した霊体の少年が石段を登ってきます…が、私には見覚えのない方ですね。
「あっ…響くん?」
―――
〈湊、阿形、こんちは〜。他のみんなは、初めましてん。俺は、響だよん〉
ニコニコとした表情、癖のある話し方で、敬礼をしながらの自己紹介を受けました。
阿形と湊くんの知り合いとなれば、狛犬網が切断された際に出会った少年の話を聞いていますが、それがこの方でしょうかね?
「ねーねー、なんで此処に来たの? あ、アタシは“結”だよ」
〈あっら、可愛いね。ンとね、ウチの神様からお使いとして送り出されたのよ〉
狛犬網を単身で移動して来たのです。私たちより格の高い力が働いているのは間違いありません。
しかし彼の神との距離感が、少々気安すぎる気がして…聞いていて不安になります。
結に続いて、この後に私、景くんと自己紹介を終えました。
〈ここ、色々と頑張ってるンでしょ? それを応援するスペッシャルなの、持たされて来たよん〉
「いや…ありがたいのじゃが、単身で狛犬網を伝って来るとは…ワシらが難儀しておったのを見ておったろうに」
〈いやー、俺もその辺は阿形に聞いてたから不安でさ、それ伝えたンだけどね〜。考えたらウチんとこの神社って、祀られてる神様が多くて。こっちも今はその辺、安全なンでしょ? だから心配は無用だってトコに落ち着いたヨ〉
…陽菜さんが来られた際に狛犬網を通じて一斉に問い合わせがありましたが、その内のどれかが響くんの社からのものだったのでしょう。
そう思いを巡らせている間に、響くんの両手に力が集まり出しました…手慣れて見えるのは、それだけ神との交流が長いのかも知れません。
〈これからは邪気に侵されて抑制効かなくなった人間…邪な考えとか悪意で行動する奴も相手にすンでしょ? ほぉら、ウチんとこの神様から預かったのは、コレ!〉
響くんの両手に集まってきた力。
気とは違う、神気で形成された“2張の弓”でした。




