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幕間 若葉ふたたび


 あっつい…


 会社の同期から“面白い厄祓い”の話を聞いて、その神社に向かってんだけど…外に出たのを後悔するレベル。


 アタシに良縁がないのは、よくわからんけど悪いのが憑いてるからだ。それも玉依姫命(たまよりひめ)の加護すら粉砕する強力なヤツな。

 だからアタシがコレを粉砕する。塵も残さん。


 ビビビビビビビ…


 なんだよ、携帯? 知らん番号…すぐ切れるだろ。


 しかし、あっつい…

 何か、目が霞んできた気がする…これって熱中症? 自販機、自販機…お、あった。お茶買お。アプリで支払い…あっ、まだ呼び出し続いてたんかよ…間違って出ちゃったし…


「眠そうなおねーさんですか?」


 喧嘩売ってんのか?


 こんな無礼な話し出し、あのガキンチョ(湊)以外に覚えがねぇよ。

 これ前に聞いてたのと違う番号だし…何の偽装工作だよ…


「聞こえてますか? 助けてほしいです!」


 あっ、汚(きった)ねぇコイツ…先制攻撃かよ…はぁ。

 逃げても回り込まれそうだな、こりゃ。


―――


 “神社に参拝するから後にして”って言って遠回しに逃げようとしたら、“ちょうど良かった”って何だよ? 会話として成り立ってんのかコレ? …あー、お茶おいしい。


 聞いてた神社めーっけ。んじゃ…お邪魔いたします。


 お、まだ風鈴飾りあんじゃん、めちゃ可愛い。写真撮っとこ。


 うーっし、お参りお参り。


「彼氏ができますよーに」


 よっし、拝礼おしまい。


 後は…お、あったあった“厄割り玉”。アタシは初穂料三百円の方だな。

 一礼して、厄割り玉にアタシのモテない厄をしっかり吹き込む! フーフー!! そんで、あの地面から生えてるみたいな“厄割り石”に投げるっ!


 パァン


「おっ、当たった〜!」


 いかん、騒いだらいかん。

 一礼して…おしまい。


 むふふ、ここ教えてくれた阿保はノーコン晒して石の後ろにある壁で玉が割れたとか言ってたし、アイツには勝ったな。


―――


 あっつい…


 アタシは自分が置かれている今を疑ってる。夢か?


 風鈴飾りのある門から本殿に振り返って一礼。ここまで何の無礼もないと思ってる。

 んで、後は鳥居を出てから振り返って一礼。小言の多いうちの爺ちゃんも黙る参拝だと思う。知らんけど。


 …なのに、回廊越しに見えるあの霊どもは何だ? しかもアタシを目で追ってないか?

 不安になって、本殿とお守りを交互に確認したけど、アイツら(霊ども)しか見えない。…神様、こんだけ慕ってんのに姿も見せてくれないとか薄情すぎない?


 せっかく風鈴の音で気にならなくなってた暑さと湿度にも襲われて、絶体絶命だよ…

 どうすっかな…あれだ、見えないふりしてれば行けんじゃない?


 対策を考えてたら、よくわからん動物みたいな…これ狛犬か? それに礼を言われた。

 返事したかったけど…正直何のことか分からないし無視。…何か申し訳ないけど…ごめんな。ココロガイタイー。


 人は、一度経験してしまえば…一線を越えてしまえば慣れてしまうという。

 そう、アタシはこの後コイツら(霊ども)に何を言われても無視できてしまう女になった。許せ。




 ダメだった。


 ガキンチョの霊に嵌められて、アタシにコイツら(霊ども)が見えていることがバレた。ちくしょう。

 話に“湊”って入ってたし、アイツが絡んでんのか…さっき電話あったの完全に忘れてた。


 3体の霊にお礼を言われてるけど、何に対しての礼なのかさっぱり分からない。湊、もうちょい詳しく教えとけよ阿保!

 アタシが困った時にお守りを見る癖…視線の先に玉依姫命の姿があって、目が合った。

 いつもはめんどくさそうに目を逸らして隠れるのに…えっ? あれですか? ガキンチョの言う人探しが、アタシの願いに絡んでくんの?


 ついに厄割り玉で、アタシの封印が破られたか! よーし、よしよし!


―――


 聞かされた神様の名前に聞き覚えはないけど、断片的に聞けた場所と神社の名を聞いたら間違えようがないとこだった。最速で行くなら電車だな。


「タクシー乗って駅まで行く。そっから電車のるぞ」


 その彼氏がこの時間帯に参拝してるとか言われて焦る。

 あそこ(神社)そんな広くないし、簡単に周りの楽しい店に行けちゃうからな…


 鳥居を出て本殿に向かい直して一礼、お邪魔しました。

 この神社に来てからアタシの運が巡り出したんなら、好きな神社が増えるな。また来ます!



 呼んだタクシーを待つ間、最初に無視したことを思い出した。心ん中に残ってて気持ち悪い。


「ねぇ…最初、無視してごめん」


〈ふふふ、気にされていたのですね? 湊くんから詳細に伝わっていると思い込んでいた私が悪いのです。そうではなかったのですから、見知らぬ…ましてや霊に話しかけられたら、相手なんてしたくないと思いますよ。こちらこそ、申し訳ありませんでした〉


 …何だよ、よくできた狛犬だな。


―――


 タクシーの移動中、電車の中と、マナー違反ではあるけど、状況を知るためにイヤホンマイクをつけて携帯画面を見ながら、アタシが何に巻き込まれてるのかを聞いた。大丈夫だ、タクシーでは許可もらったし、電車は人が少ないとこ選んで座った。


 ツノの生えた狛犬“吽形”から大まかに説明があったけど、なんたら網(もう)みたいな専門的な単語とかは反対の耳から抜けていって覚えてない。

 何にしても、湊に目をつけられたから起こったのは間違いないし…もしかしたら……期待するぞ?


〈何で急にやる気出したの?〉


 ちっこくて可愛い娘(コ)、“結”が話しかけてきた。

 景の膝で抱っこされて幸せそうなのが尊い。誰かー、アタシもお願い。

 何で? んっふふふ。


「陽菜ってコの彼氏の友達に希望を感じたから」


 首を傾げる結を尻目に、アタシは玉依姫命様が姿を隠した後、お守りを撫で続けた。


―――


 意を決して電車を降りた。公園を通り抜けたはずだけど、どこを通ったか覚えてない。


 神社の前で深呼吸、鳥居から一礼して境内へお邪魔したんだけど、アタシは二人組で一方が中性的な人しか探してなかった。

 週末だから仲良さそうな男女の参拝者も多い。ちくしょう。

 …考えたら、んな都合よく出会えるわけないんじゃ?


〈あっ! 若葉ねーちゃん、多分あの人!〉


 マジで? マジで居たの? 凄ぇな。


〈これは僥倖《ぎょうこう》ですね、ささ、若葉さん〉


 …?


「えっ? はっ? あ、アタシが声かけんの?」


 いや犬、いきなり何言ってんだよ?


 男はアタシくらいの年齢で…陽菜って子が羨ましい容姿。

 もう一方は、男と同じくらいの身長で細身。肩まで伸びた髪が似合ってて…男女の区別がつかねぇー。


 あれカップルだろ? 話しかけて、人違いだったら気まずすぎるわ…


〈周りに参拝者(ひと)も多いし、アタシたちが突然姿を見せて脅かすのはちょっと…最悪は逃げちゃうかも?〉


 コイツ…人違いだったら呪うぞ…


「ぐぬぬぬぬ…分かったよ」


―――


 あぁ…陽菜が羨ましい…

 結を見てから状況察して行動するまでが手際良すぎる。声もカッコいいし…


 吽形たちと大翔の会話に入れなくて、大翔の顔だけ見てた。

 ふと思い出したようにお守りを見たら、玉依姫命様がアタシと目が合った後に、アタシの後ろに視線を移した。


 …


「――連れの一輝《かずき》に――あ、いた」


 大翔の会話が途中から耳に入ってきた。


 玉依姫命様の視線の先に居た、困ったような笑顔で近寄ってくる大翔の連れと目が合ってから、音が耳に入って来てなかった。



 一輝を置いて陽菜を迎えにいった大翔を見送った。行動力のお化けだ。


 …よし、お前らこっち(一輝)はアタシに任せとけ!


 アタシの任務を遂行するため、一輝に分からないように吽形たちへ後ろに回した手を振った。さらばだ。


〈いつか若葉も遊びに来てね〉


 …あのちっこいの(結)、やっぱ可愛いな。


――― 


 一輝がコーヒー好きらしく、そのお店に行くことになった。

 …道すがら、気になってたことを聞いとこ。


「ねぇ? 大翔って、結構長い時間…陽菜を待って神社に居たんじゃない?」


「…うん。家にも居ないし、連絡も取れないからって。俺、アイツみたいな人が好きなんだ」


 あっ…良いね。


「大翔の彼女の友達なら、もう俺らも友達でいいかな? いつか、大翔の言ってたお礼も受け取ってもらわなきゃいけないし、連絡先、交換しよう?」


「良《い》い。とても良《い》い。瞬《しゅん》、アタシたち、先ずは友達だ」


「いや…名前違うんだけど…ふっ、あはははっ」


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