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少女


 電車の中、アタシはケイの膝の上で夢見心地だった。


 揺れる電車に転がされることなんてないけど、優しくお腹あたりを支えてくれるケイの手を感じる。


 鳥居からアタシたちに繋がっている気は、吽形が苦も無く紡いで伸ばし続けてくれてる。

 コレが切れちゃったらアタシたちが帰るの大変になるからな。隔たりの少ない周囲の電線に沿って掛けるのがアタシの仕事だ。アタシだって苦も無くひょいひょいだ。


 そんな電車の中で、若葉《わかば》が優しい目をしてアタシを見てることが何度かあった。

 言葉遣いが荒っぽいけど、優しい子なんだろうな。


 それに比べると、陽菜《ひな》は凄いな。

 “私、弱いんですけどー!”って叫びながら目隠しで恐れず走り抜ける感じ。あれくらい思うがままに突き抜けれるのは少し羨ましい。…少しね。


 今回はそんな陽菜を連れて帰ってもらおう作戦と思ってるんだけど…

 あの子(陽菜)を受け止めれる彼氏と一緒にあの土地に住んでくれたら…これ以上ないくらいに安心なんじゃ? まぁ、妄想はここまでにしとこ。


―――


 電車は建物の中に入る形で収まった。壁と屋根で囲まれているのが面白い。


「ふぅ…。そんじゃ、行こっか」


 アタシたちに聞こえるくらいの声で合図をもらった。

 やたら気合いの入った若葉の後ろを、道を知らないアタシたちが追いかける。


 改札を抜けて階段を降りたら、建物から出て公園に入った。あっ、社が見えてる。

 社の横から境内に入れるのに、わざわざ正面の鳥居へ回り込んで一礼したのが良い。撫でてやる!


 境内で見覚えのある四角い模様を見かけた。陽菜のお守りと同じやつ。コレかぁ。


 本殿と繋がる公園側以外は背の高い建物に囲まれてて圧迫感が凄い。社に隠し切れない威圧感とかがあっても誤魔化せそう。…陽菜の起こした規模を思い出すと、そんな気がした。


〈あっ! 若葉ねーちゃん、多分あの人!〉

〈これは僥倖《ぎょうこう》ですね、ささ、若葉さん〉


 見せられた写真シールの顔と大きく違いがない。そこで見た涙ぼくろも一致してる。

 隣を歩くのは…陽菜が見間違えた子かな?


「えっ? はっ? あ、アタシが声かけんの?」


〈周りに参拝者(ひと)も多いし、アタシたちが突然姿を見せて脅かすのはちょっと…最悪は逃げちゃうかも?〉


「ぐぬぬぬぬ…分かったよ」


 頼んだ若葉!


 ここまでの軽やかで無駄のない足運びが、チグハグ手前になってる…


―――


 “陽菜の友達で若葉と言います”と言ったら、大翔が思いっきり反応して若葉が引いてた。

 隣の子は…このやり取りを見て漏れた笑い声から男だと分かった。…コレは見間違うだろうなぁ。


 若葉の肩越しにアタシが手を振ると、陽菜の加護関係の話と察したのか、連れと離れた場所へと移動してくれた。慣れてるなー。公園の木陰にある椅子に若葉が座ったのを確認して、大翔が話しだした。


「皆さんは…陽菜のせいで――」

〈あっ、勘違いなさらないでください。連絡手段のない陽菜さんを迎えに来て欲しいだけです。私もこの子たちも無事です〉


 あぁ。陽菜が起こした事故に巻き込まれはしたけど、無事だ!

 面倒になるから言わないけど。


〈オレたちの住んでるとこの神社に夕方まで居るみたいだけど、来れますか?〉


「あぁ、今すぐ向かう。新幹線に乗れば夕方には間に合うと思う」


〈あ、オレの携帯番号教えときます! あの人も連絡無いと不安だろうし〉


「ありがとう、とても助かるよ。…僕より先に戻る手段が?」


〈細かい質問などは陽菜さんの所でお答えします。さぁ、私たちのことは気にせずにお迎えへ!〉


 吽形の話に頷いた大翔が駅に体を向けながら、置いてけぼりの若葉へ話しかけた。


「若葉さん、間に立ってくれてありがとう。いつかお礼をさせてね。…迷惑ついでに、連れの一輝《かずき》に――あ、いた」


 大翔と互いに手を振り合いながら、一輝と呼ばれた連れが近寄ってきた。スーツとか着てたら夜の店の人だよコレ。アタシ、テレビで見た。


 大翔が陽菜を迎えに行くため今から移動する、若葉にあとでお礼したいから連絡取れるようにお願い、と早口で伝えて駅の方へ走り去っていった。


「何か、バタバタしてごめんね。オレも陽菜さんとは知り合い…だと思ってたんだけど、忘れられてたみたいで。きっと巻き込んじゃったんだよね?」


「…とりあえず、お茶でもしません? 急いできたから、暑くて…」


「確かに。じゃぁ移動しようか」


 若葉がアタシたちに顔も向けないで後ろ手を振ってる姿が面白すぎる。


 あの子(若葉)もきっかけ掴めたみたいで良かった。

 ちゃんと捕まえとけ〜?


 あっ、そうだ。


〈いつか若葉も遊びに来てね〉


 首だけ振り返ってみせた若葉のフニャッとした笑顔が見えた。


―――


 あらかじめ狛犬網での緊急帰宅を想定していた吽形の提案で、若葉に繋いでもらった社の御祭神にはそれを伝えてお詫びを入れていた。


 しかし、電車で離れたあの距離を一瞬で辿って戻れるのは凄いな。


 社には引き攣った顔をした阿形と、疲れた感じの湊。

 そして出会った頃よりもすっきりした表情で陽菜が座ってた。


 …延々と話を聞かされ続けたとか、そんなかな。


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