初めまして?
以前、景くんが住む町の病院で結が技を披露した時、湊くんは縁を繋いでいたのですね。
湊くんの携帯は私たちが禍と一悶着あった時に壊してしまったため、景くんの携帯からその相手へと連絡を取ってくださったご様子。
暫くすると、湊くんの話と一致する情報を持つ社が、狛犬網を通じて確認できました。
「…よっし! 結! 吽形! よろしくっ!」
社の周囲に居た邪気は浄化済みで、禍を引き連れた凪くんも夕方まで来ません。…あの女性も加護で抑えられているようですので、不安要素は少ないです。ならば湊くんと景くんの想いに乗っかりましょう!
「いつでもどうぞ!」
「アタシもっ! 任せとけっ!」
景くんが緊張気味に私と結に手を添えて狛犬網へと向いた瞬間、あっという間に見知らぬ社へと到着いたしました。
―――
〈んははははっ! 湊と同じ、湊と同じっ! ほらほら! あっ、結にも触れる! ほらほらほらっ!〉
〈きゃーっ!? テンションおかしいってケイ、髪が乱れるぅっ!〉
以前こちらで霊体の湊くんを見ている景くんは冷静でしたが… ふふふ、楽しそうですね。
ほら、先ずは皆でこの場所から本殿に向かい、一礼を。
お邪魔いたします。
神門辺りから私たちの霊体を見て見ぬふりする眠そうな目をした女性が確認できました。
きっと彼女がこの社に訪れて縁を繋いでくださったのでしょう。何より湊くんに聞いた特徴と一致しています。
一言、お礼をと皆で近寄ると“あっ、病院の…”と小さく零された声が聞こえました。湊くんが姿を隠した前後をご存知なら間違いありません。
〈唐突な願いを受け入れて頂き、ありがとうございます〉
…
先ほどは私たちを伺うように見ておられた気がしますが、今は聞こえぬふり…でしょうか? あまり関わりたくないのかもしれません。
狛犬網を繋いでくださっただけでもありがたいのです。気持ちはお伝えできましたし、早々に…
〈お姉さんがミナトの知り合い? 一緒に男の人を探して欲しいんだけど…〉
「はぁ? なんでだよ……さっき厄割り玉、割ってきたんですけど…」
ちょっ…景くん、流石に不躾すぎますっ!
…後半の言葉はよく理解できませんでしたが、私たちを厄と思われているご様子…面目ありません。
〈よかった、オレたちが見えてるんだね。狛犬網を繋いでくれて、ありがとうございました!〉
「…」
彼女の表情は“しまった”、そんな感じでしょうか…
景くんとしては本人と確認した上で、面と向かいお礼を伝えたかったのですね。
〈ありがとう。助かったよ〉
〈私からももう一度。ありがとうございます。〉
諦めたように私たちの礼を受け取られたあと、無言の彼女が鞄へと視線を落としました。そこから覗き見えるお守りへ伺いをたてているように見えます。
直後、眠そうな目を少しだけ見開き、晴れやかな感情の色を見せました。一体何を見出されたのか…
「…探してる男の人って、幾つなん?」
んっ、これはどう転んでも、この女性が落胆される姿しか浮かびませんが…
〈えっ? 写真で見せてもらったのは…お姉さんと同じくらいかな? その女の人の彼氏だって〉
「なんだよ、彼女持ちかよ…」
全部言っちゃいましたか…
ああ…高揚した雰囲気が一瞬で冷めて…今度は無表情でお守りを見つめています。
〈その彼氏の男友達を浮気相手と間違えて喧嘩しちゃったから、仲直りしたいんだって。オレたちはその彼氏を見つけて…その女の人を迎えに来てもらいたいんだ〉
「男友達? 浮気相手と間違えた? 中性的ってこと?」
…落胆された直後でしたので、景くんが続けた言葉は彼女の耳に入っていないと思いましたが…単語単位で反応するのが見えました。…これは琴線に触れたのでしょうか?
〈中性的…うーん、よくわかんないけど、浮気と間違うんだから、綺麗な人なんじゃないかな?〉
「んふっ…んんっ。おーし、行くぞ。どこだ?」
―――
鳥居から伸びる気を、せっせと電線へかけ続ける結の姿が目に映ります。いつもありがとうございます。
目的地まではおよそ10Km…気も強度を保たせながら紡ぎ伸ばせるでしょう。
私たちは女性…若葉さんに連れられて目的の社へと向かっています。
この辺りでは禍津日神と直毘神を祀る神社はそこにしか無いとのことでした。
〈若葉ねーちゃん。なんでタクシーから電車に乗り換えたの?〉
「アホか。めっちゃ混むから金かかんだよ! …あとは終点で降りて、公園の中を抜けたらゴールだよ」
週末だからか、電車の中は結構な人がいます。景くんに聞こえるくらいの声でヒソヒソと会話が続いています。
陽菜さんに加護を与えた社に狛犬網が繋がればよかったのですが…それよりも早く湊くんと若葉さんが動いてくださったのも、きっと縁でしょう。
車窓から見える景色に高い建物の割合が増えてまいりました。緑が少ないのも面白いですが…見慣れぬせいか寂しくも思えます。
そう、建物の屋上に踏切らしきものを見かけた気もしますが…気のせいですよね?
結にちょっかいを出していた景くんは出会った頃の好奇心旺盛さが目一杯に溢れていましたが、今では落ち着いて結を膝に乗せて座っています。
案内を買って出てくださった若葉さんは…お守りと虚空を交互に眺めて…別の世界におられるようです。…彼女に関しては是非、求める結末に繋がってくれることを願うばかりです。
電車内に終点に到着するアナウンスが流れ、若葉さんの表情が一瞬こわばるのが分かりました。
この中で一番緊張しているのは彼女です…何故?
「ふぅ…。そんじゃ、行こっか」




