覚悟
凪に出会ったあの日は、そのまま家に連れて帰られた。
まぁコイツに取り憑いたんだし当たり前だけどな…
機嫌よく自転車を漕ぐ凪の体から周囲を窺ったが、土地を加護する氏神が変わるあたりから…いくつもの神を感じる気の巡りに晒された。
…世界はどんだけ俺に厳しいんだよ。この土地だったら俺は産まれてねぇな。
凪が自転車をとめて家の鍵を開けた時、ココなんだな…という諦めの後、凪に何をしてやれるかを考えることにした。
「ここだよー。…ただいま」
くぐったドアの鍵を閉めた後、独り言のように凪が溢した。
家の中はやけに綺麗で静かだ。
廊下を抜けた先にある開けた部屋で、体に対して大きく柔らかそうな椅子に凪が沈むように座った。
〔…親は?〕
「お母さんが入院してるー。あと、たまにおじさんが来る」
…ラジオで色んな人間が居る事は知ってるつもりだったんだがな。
体質を含めて、“一般”とかには当てはまらない、か。…体質?
〔お前…凪。親もお前と同じ感じなのか?〕
「何がー…あぁ、新学期になってからボクもお母さんとおんなじ感じになって、あんまり学校行ってない」
凪とおんなじ感じ。
医者じゃねぇから俺も凪も上手く表せねぇが、この土地の気の巡りが合わねぇんじゃねぇか?
“俺が凪のように親の症状を改善できるかもしれねぇ”なんて言って失敗したら恥ずかしくて消滅するわ。
余計なことは言わず、期待なんて持たせないで見舞いに行くのを待つか。
―――
俺に帯びた邪気を急激に取り込んで凪の体を巡る気が正常になった。
それらを一気に失って…体が耐え切れなくなって倒れた。
この土地の気は異常に過剰で歪だ。
遠目で眺めれば色とりどりの清い気が巡り続けている。
自然に満ちていない場所は分かりやすく、それと比べればムラができている。これ人為的に流れ作ってんな? すげぇけど、影響なさそうな薄い邪気が追いやられて、隠れるように残ってんぞ…
ちなみに凪の家は新しい流れの中にある。普通の人間なら良い効果しかないんだろうが、コイツの体質からしたらマイナスな部分があったんだろうな。
―――
病院で凪の母親の顔を覗き込んだ。
なんだよ、随分と良い顔色になったじゃねーか。
凪と母親が手を繋いだときに、凪と気の流れが似てるのを確認して邪気をやんわり流してやったら、効果覿面だった。この力加減、かなり気ぃ使ったぜ。
笑顔で話す家族の間に入るのはアレなんで、凪が帰るのを気配を殺して待った。
考えたら、凪に憑いてからは力を制御できてんな。
「禍。ありがとう」
家へ帰る自転車の上で、凪が話しかけてきた。
〔おっ? 俺の力って気づいたのか? ふははは、スゲェだろ?〕
「気づいたボクもすごいだろー?」
〔おーおー、そうだな。んじゃ、俺たちはどっちもスゲェんだな〕
「あはははは! …ホントにありがとう」
〔…おうよ〕
―――
眠っていた凪の気の流れが不安定なのに気づいて、自分自身を確認した。
夢にうなされている凪が、俺から奪うように邪気を体内に巡らせていた。
俺自身がどれだけ力を制御しても、凪の感情や体調に引っ張られちまうんだな…まぁ、一心同体だもんな。
できるだけ過剰な邪気は減らしときたいんだが…力が制御できると気づいたあたりから、外部の清い気の流れに削られることがなくなっちまってた。
ちょっと気の巡りが良いところで放出しとかないとな。
んで、ゆっくりと必要な邪気の量を減らして行って、最終的には…
―――
狛犬共があまりに真面目すぎて、一瞬で消されるところだったのは計算外過ぎた。アイツら馬鹿だろ?
凪の叔父が介入しなきゃ、俺だけじゃなく凪も危なかった。
…いや、本殿に走ったのが原因なのは分かってる。角犬がそっち向かったの確認してから行動したんだが…あの場では軽率だった。反省している。
そんな俺がきっかけで社が邪気に見つかっちまったかと助太刀した後、狛犬共が妙に馴れ馴れしくなりやがった。それだと真面目なお前らは仕上げに躊躇うだろうが…敵対したままでいいんだよボケが。
|この土地に気を振り撒いてんの《凪に負荷が掛かった原因》が狛犬共だと知ったが、真面目ってのはもっと上手く動けねーのか?
…で、今日。
社は邪気に見つかったんじゃなくて、邪気が“社を目指すしかない”と追い込まれたんだと気づいた。
それは隠れていた邪気が晒される状況に陥ったから。表面化した邪気が、本能から最も明るい光に向かってきた。
何故晒されたか?
…この女の加護だ。
「…グスッ」
は?
消されちまうわけにはいかず、覚悟から睨んじまったが…さっきまでゆったりと余裕を持って笑ってた女が泣き出した…
「聞いてくれる〜? グスッ…」
…子供らがドン引きしてんじゃねーか、おい…




