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おまもり


 穏やか…と言うには些《いささ》か暑すぎるようですが、平穏な日常が戻りました。


 夜も静かなもので、伝え聞いた百鬼夜行さながらの邪気の行進が嘘のようです。



 手すりを頼りに石段を登る。


 手水舎《てみずや》で手を清める。


 宮司と参拝客が挨拶を交わす。


 鈴緒《すずお》を引いて本坪鈴《ほんつぼすず》を鳴らし、手を合わせ拝礼《はいれい》する。


 私たちにもたらされた、それらを安心して眺める日常。

 

 …そんな“日常”に、阿形と小競り合いをしては満足したように帰って行く禍の存在が追加されましたが。


―――

 

 今日も陽が高くなるまでの間、石段を登って参拝する凪くんの姿がありました。


 目的は湊くんや景くんと過ごす時間なのでしょうけれど、社が賑わうのは本当にありがたいことです。

 他の参拝者を邪魔することなく、湊くんや景くんと一緒に挨拶も交わす。

 この時に垣間見える笑顔と、それに釣られて笑顔になる姿は…なんとも言えない幸せをいただけます。


 湊くんに関わる人としてであれば、公勝くんもよく参拝に足を運んでくださります。先日は凪くんが石段を登る場面に遭遇して喜ぶ様が印象的でした。

 いつもとは違い、そんな公勝くんに対して吃《ども》る凪くんと、それを見て笑う湊くんたちの姿は実に微笑ましい。


 そして今日は公勝くんが居ない日。更に人気《ひとけ》が無い時には…ここぞとばかりに禍が阿形へちょっかいを掛け出すわけですが…


「…なんじゃ? また飽きもせず絡んで来る気か? …真意が見えぬから、ただただ疲れるんじゃよ…うん? なんじゃ?」


 阿形の言葉を苦笑いで聞き流す私たちでしたが、その阿形の言葉尻から、禍の雰囲気がいつもと違うことに気がつきました。


 禍から感じられる違和感は、今まさに鳥居を潜ろうとする白く鍔の広い帽子を被った女性に気づいたから…だけではなさそうですね。


 あっ? 主様が縁を受け入れられた? あの女性が“見える”存在で、加護のあるお守りを持っている訳ですね。


 直後、狛犬網からこちらの状況を伺うような問い合わせが殺到しています…

 これは先日の邪気の件に関する心配が大半ですね…ご心配をおかけしたようで。

 ありがとうございます。私たちは元気です。


 切っ掛けとなった女性は、ゆっくりとした所作で手水舎で手口を清めています。


〔凪、ちょっと悪ぃ。裏に回れねぇか?〕


「えー? 何? どうした――うわー?」


〔すまねぇ、急ぐぞ。後で説明するからよ〕

「あー、あやつられるー。ミナトー、ケイー…んー、後でー?」


「えっ? うん…」

「あぁ、後でなー?」


 …


 禍の行動に置いてけぼりになった私たちの間を、白い帽子の女性が通り抜け…ませんね?


 ここに来るまでは帽子で伺えなかった表情がしっかりと見えます。

 和《にこや》かな笑顔に…困ったような眉。


「あらあら〜、うふふふふふ。ここは無事だったのね〜?」


 境内と私たちを眺めるように見まわした後、そのままの表情で拝殿へと進む女性の鞄に…見慣れぬ四角い模様のお守りが下がっていました。


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