休息
“ワシワシワシワシワシワシ…”
朝日ものぼり、夜中のことが嘘のように静かな…いや蝉の騒がしい境内。
今日も忙しいのか、この時間帯から清掃を行う宮司たちの姿が見えた。
夜は大変世話になったが…ちゃんと寝れておるのか不安じゃな…
そうじゃな…
昨日から夜に掛けては色々とあって…貴重な経験をできたのかもしれん。
湊と駆け逓った知らぬ土地での出来事を思い出し…その結果招いた出来事を考えると、事故でもなければ許されぬな、これ。
吽形にも経験して欲しくもあるが、話題にあげるだけでも叱られる未来しか見えぬので黙っておろう。
あー、しかし、うーむ…
―――
湊が勢いだけで巨大な悪意の塊を滅した夜。
ワシが境内に降りるや否や、背の湊の霊体が消滅したかのように消えて肝を冷やした。
湊の体が境内にあったから…いつものように、そこに霊体が引き寄せられただけなんじゃが…ワシは状況を把握できておらぬ。
何故こんな時間に境内におる! 心底驚かされたことと合わせ叱責しようとしたが、返り討ちに遭うた。
結と吽形に叱られるように状況を聞かされながら、こちらを見ずに凪と湊を気遣う宮司の姿が気になった。
「こんな時間に神社に来るなんて…さては肝試しですね?」
笑顔で“家まで送りましょう”と伝えた後、腹の音が鳴る湊を見兼ねて“社家で軽く食事をどうぞ”と、連れて行かれた。
湊の霊体が体に戻ると同時に其処から追い出されておった結は、鞄に入れた依代の石に戻っており、社家に向かう湊に引き摺られるように裏へと消えていった。
凪はこの時まで寝ておったようで、何故ここにおるのかも理解できておらんかった。
まぁ、あとで禍が説明したじゃろう。
皆、無事に家へと帰っていった。
境内も落ち着き、主様へ報告を行なった際は色々と聞けるかもと思うたが、我らに期待をするという思いだけ賜った。
直前にあれほどの事が起こったにも関わらず…あれも主様からすれば“詮無きこと”なのかも知れぬ。
―――
ワシは湊のお守りに力を込めることは叶わず、吽形も防衛でお守りとの繋がりが絶たれておった。
「阿形。夜の出来事から…歯車が狂うようなことが無ければと、今までのままでありたいと願うのは、贅沢でしょうか」
ぬぅ?
不安を煽ってくるのぅ…
「吽形、気持ちは分からんでもない。じゃが…我らが紡いできた縁は、多少の乱れも許容できる程度には強固じゃと思うとるよ」
「そうなのですが…縁とは別の、まだ知らぬ存在の介入も危惧しております」
…見当違いな回答をしてしもうたか。
獣、と皆で呼称した存在を気にしておるのか。
邪気や穢れが折り重なって、一つの意思を持つように行動しておった。
ここから離れた土地でも我らはソレに狙われた。
あっちとこっちで共通しておるのは、賜り続けた色とりどりの気と、それがある状態で目立つ行動をとったこと。
まぁ、我らが揃って居れば、もう夜のようなことは起こらぬじゃろう。
「…ですが、そうですね。強固な縁で、それらも乗り越えてしまえば良いだけですね」
いかんな、雑に纏めてきおったぞ…
まぁ、分からぬ事を悩み続けるよりは良いか。
そういえば湊も景も、いつもより遅いのう…
「うん? 目に見える参拝客以外にも側に気配を感じるんじゃが…?」
「くるっくー」
「ぽっぽー」
なぁんじゃ、鳩か。
…大きすぎない?
「隙ありー!」
ぶあっ!?
なんじゃ? 水か? 水鉄砲か!?
おのれ湊っ、響の話、忘れてはおるまいなっ!?
景まで巻き込みおって!
「おばあちゃんの手伝いで掃除に来たよ。像を磨くの…おばあちゃんが良かった?」
苦手意識というものは、そう簡単に払拭できぬ…
宇美がワシの像を磨く姿を想像して、言葉を失った。
いかんな…感情が先行した挙句、勝手に挫かれることが多い…もう少し理性的であらねば…
あっ、いいのう、そう背中、気になっておったんじゃ〜




