一回休み
寝てた。
気を失うとかじゃなくて、これは寝てた。
なにせ、夢を見てたから。
これが阿吽のように見せられたものだとしたら…これが訪れるんだって言うなら、悲しいかな。
少し夢の余韻を味わってたら、遠くから伝わってくる気の乱れで現実に呼び戻された。
一瞬で夢の内容が吹き飛んだんだけど…どんな内容だったっけ…って、今はそれどころじゃないな。
景の寝顔を名残り惜しんで覗き見た後、昭一と和子の目を盗んで台所に寄って表に出た。
―――
もう慣れた湊の体を操り、小走りで社に向かう。
首に下げているお守りの加護のおかげで、明らかに力が増してるのがわかる。
日中には全く感じなかった邪気とかの気配が、社に近づく程に強くなる。
これどうなってんの?
あいつら動き回るものなの?
昼間もそうだったけど、今も自然と満ちてくる気はしっかりと感じる。
それに削られながらも社に向かう執念みたいなのは、習性みたいなもんなのかな?
それなら鳥居も神の遣いも備えられて当然か。
あー、神の遣いが一方欠けた状態で隙が生まれたから、こんなことになってんのか。
社に近づくにつれて邪気が固まったような獣が増えてきたから、少し罪悪感を感じながら叩き続ける。
まぁ、明らかに悪意を発して襲ってくるんだからいいか。割り切ろう。
―――
吽形の叫びのような声が聞こえて、思わず我を忘れて周囲の獣を薙ぎ払った。
…残ったおっきいのは歪むだけで、アタシの力じゃ効果が薄そうだった。
吽形に任せたのは、アタシ的に最良の采配だと思う。
さて。周囲に浮かぶ、恐らく吽形が張り巡らせた気の網。
これにアタシの細く伸ばした力を潜らせて振り回す。
獣がいくらすばしっこくても、何本も不規則にうねるアタシの力にしばかれて、相手は死ぬ。
二の鳥居は抜かせない、そうだろ吽形。
一通りの対策が効果を出し始めてから、気になっていたナギに駆け寄った。
いつものジト目より少し鋭い目つきで睨むように見上げてきたナギは、本人の意思ではなく禍の主導で動かされていると気づいた。
ナギ本人は寝てんのかな?
「お前、なんでそんなに顔色悪いんだよ…?」
〔…ちっ、寄んじゃねーよ。こっちは過剰に取り込んだ邪気の処理で忙しいんだよ〕
なんか、吽形を手伝ってた感じか?
よく見たら細かい邪気をゆっくりと放出し続けていた。
一気に放出したら、浄化される前に再集結しちゃうからか? めんどくさっ…
景の爺さんとこで身を削る程の気を受け入れてたのも気になってたけど、そのあたりの濃度を減らしたいのか?
とりあえずナギを巻くように力を置いて、気の流れを作っておいた。
〔…〕
なんでちょっと笑ったんだよ?
―――
「よっし、よっし!」
アタシは腰の袋からトマトを取り出して、外したヘタだけ袋に戻した。
〔…その腰の野菜はなんだ?〕
「キュウリとトマト、そしてトウモロコシだっ!」
いただきます!
…うわー、みずみずしい。
これ、濃厚でお腹に溜まるぞ。すごい美味しい!
〔いや、それが何かを聞いたんじゃねーよ…食うのかよ…すげぇな〕
ちょっと何言っているのかわかんない。
野菜は食うだろ?
力を使えば腹が減って、腹が減れば食べ物がより美味しく感じる!
次はキュウリかな? いや、トウモロコシかな? んふふふ。
「よっしゃー! ガンガン行くよー!」
〔…〕
―――
調子に乗ってました。
キュウリもトウモロコシも美味しかったです。
小さい獣の姿はアタシたちに効果が薄いと学んだのか、それらが集結して大きな個体が増えてきた。
それならばと力の太さを変えてぶつけてみたけど、コレ自体に邪気を祓う力があるわけじゃないんだよねぇ…
一時的に相手を散らせるけど、すぐに再集結する。足止めにはなってるのかな…?
大量に気がある状態なら効果はあるだろうけど…。
吽形の角での一撃は、邪気が集結する部分にさえ当たれば一撃で消えていく。
ただ、相手も突っ込んでくるだけじゃなくて、色々と振り回して暴れ始めたから当てにくい。
拮抗した状態に陥った時、邪気の進行が少しの時間途絶えた。
〔…おい。状況次第じゃ、俺は凪の体守るために逃げるぞ?〕
「えぇ、それを咎めることなんて致しませんよ」
…それ、今からなんか起きるって言ってんの?
アイツらの会話から少し遅れて、不安と絶望が背筋に走った。
アタシたちの攻撃が当たらないくらいの社から離れた位置に、人の形をした巨大な邪気の塊が現れて月を隠した。
あれ以外の邪気を周囲に感じない…全部が集まったのか?
こんなの、阿形が居て皆が万全だったとしても、どうしようもなくない?
アタシの目の前に吽形の背中が入ってきた。
「結。湊くんの体を守って欲しいのです。…禍と一緒に社から離れてくれませんか?」
…ミナトの体じゃなきゃ、ここに居れたのか?
この状態を初めて否定したい気持ちになった。…贅沢なもんだ。
〔おら、行くぞ。俺らが居ても何もできねぇだろうが。邪魔になるんだよ〕
うるさいな…
禍を睨むつもりで振り向いたら…白装束の見知らぬ男が居て、アタシに目を細めた笑顔を見せた。
いやアンタ誰だよ、こっちはこっちで別の恐怖を感じて背筋が凍った。
その男がゆっくりと上空へ視線を送った時、聞き覚えのある声が響いた。
〈どーん!〉
大気の震えが体にぶつかり、目の前にあった闇の塊が千切れるように崩れていく…
あっけに取られたアタシは、口を開けたまま時間の経過に身を任せていた。
そんな間抜けな自分に気づけたのは、霧散していく闇の隙間から、隠されていた月と一緒に…阿形と、その背中に乗ったミナトの姿が現れたからだった。
持って行かれたな…




