裏切り
本殿を目指す獣を捌くのに手間取られながら、少し気を許してしまっていた存在が一の鳥居を潜って来るのを視界に納めています…
…私が勝手に思っていただけなのです。
勝手に期待して、勝手に思っていた通りではなかったと落胆した…それだけです。
ふふふ、相手にしたらいい迷惑でしょう。
その相手は二の鳥居までの半ばで立ち止まり、周囲の獣や邪気を吸収しながら重く強大な力を付けていくのがわかります。
今の状況で、そんな彼の邪魔する余力はありませんでした。
「あなた…禍っ…むぅっ…!」
私との会話を拒絶するように…初めて会った日に見せられた邪気を吹き出す動きに、ただ飛ばされぬように耐えるのが精一杯です…
〔はぁ…もうちょい上手くやれよ…面倒くせぇ…〕
…送り込んだ邪気や獣が想定を下回る働きだったから落胆している?
だとしたら…この物量にも限界があるのかもしれませんし、その感情は“おあいこですね”と、何故か笑顔が溢れてしまいました。
いいですね。
…それ、私のやる気が増しますよ?
〔…角犬。取り込む量に対して、結界で処理できる質量の邪気を出すのは時間がかかる〕
……はい?
よくわからなかったので、魔除けの角へと、目一杯に気を込めてみました。
威嚇ですよ?
彼が憑く凪くんの体が無事で済む確証がありませんので。
〔いや、おいおいクソが、見誤ンなよ! お前は走り回って獣を狩り続けろって言ってんだよ、サボんな!〕
眠っている凪くんの体に宿る禍が、周囲の獣を取り込んでは粉砕するように薄い邪気に変えて噴出し、それらが結界内で即座に浄化される循環を目の当たりにして…ようやく彼が求めているこの場の在り方を理解いたしました。
〔あなた…いえ、ではそこで出来るだけ長くソレを続けてください。お互い無事に朝日を拝めましたら、お礼の一言でも述べさせていただきます〕
そうですか。
…そうですか。
〔はっ、“お前と此処が無事なら”だろうが。俺に何かあるわけ無ぇだろうが〕
…
―――
禍が現れてからの暫くは、鳥居での防衛は優勢でした。
獣が幾重にも重なり多少大きさを変えて来ましたが、数が減って楽なくらいです。
禍もそういった密度が濃い邪気を吸収しないように行動していると感じます。
本殿裏については、相変わらず大小問わずの邪気が気配を消していくのを感じるだけです。
あちらは何も心配しなくて良い…そんな、阿形が隣にいる程の安心感があります。
〔…角犬。やべぇ…〕
「え?」
颯爽と現れて、様々な感情の振れを与えてくれて…少しかっこいいと思って見ていた禍さんが…どうかされましたか?
〔…ンな目で見んなよ。凪の体にはこれ以上の負荷を掛けれねぇ…暫くは取り込めねぇから、上手くヤれ〕
…ふふ。
「はい、理解いたしました。あなたが此処に来てからの間、境内に気が満ちる時間を稼いでいただけました。願わくば…これが攻め来る邪気の量を上回ってほしいですね」
首を竦める仕草で返事をした禍を確認し、禍が来る前と変わらぬ行動を取り直した訳ですが…獣の量も大きさも増えてきてるんですよね…
あれですか?
日本中の…九州中の邪気が集結してきてるんでしょうか?
湊くんの求めるお祭りより先に、邪気のお祭りが開催されてしまったのでしょうかね…迷惑な。
大きい邪気は、気の網を平気で突き破ってきます。
まだ辛うじて気を込めた角で捌くことはできていますが、その際に足の速い獣を取りこぼすことが増えてきました…
強がるような口調の禍も、宿主の凪くんの顔色から見るに…本当に限界近くまで助力くださったのでしょう。
“逢魔が時”からは一度も顔を見ていない宮司さんも、本殿裏で足止めされるように数に追われているのがわかります。
…まったく。
「何をやってるんですか阿形! この社を、主様との縁を、私たちの夢を守るのでしょう!!」
二の鳥居へと向かう獣が一斉に霧散するのが見えました。
…あぁ、阿形なのですか?
「何やってんだよ吽形。阿形が明日以降って言ったんだから、今日は帰ってこないのわかってるだろ」
…
…この流れで?
「吽形、お前がおっきいの相手ね。アタシはちっこいのなら楽勝だから」
ふふっ、結!




