防衛
「今は阿形の言葉を信じましょう。境内も静かで問題は起きておりません。安心してください」
まだ寝るには早い時間ですが、それから暫くして景くんは眠りについたようです。
ふふ、遊び疲れたのですかね。
結もその隣で静かに目を閉じていますが…湊くんの体に憑いている間は眠れるのかもしれませんね。
…少し嘘をつきました。
湊くんの体のまま結に来てもらう訳にもいきませんからね。
あの時点では境内は問題も起きず静かでした。
“逢魔が時”を迎えて、参拝客がぱったりと途絶えた頃。
一の鳥居は結界を強め、邪気の類が忍び寄ることを警戒し始めました。
そこを抜ければ二の鳥居、その先はもう主様の依代が祀られる本殿に至ります。
二の鳥居を死守。これだけは譲れません。
禍が此方で暴れた日から、ここを伺うように蠢くモノを夜な夜な感じておりました。
あの強大な邪気を追い払う程の力がある社、そう気づかれたのでしょう。
悪しき存在が挙ってそれを手中に収めようと動くのは道理ですかね。
ですが、今回のような不測の事態…阿形不在を知った上で行動に出るとは思っていませんでした。
まるで扇動するものがいるかのように。
一つだけ。
禍自身はあくまで切っ掛けになっただけで…其れ等と違うようだと思っています。
一の鳥居に動きがあるようです。
さぁ、行きましょう!
―――
不在の阿形像と私の像には、普段は無い注連縄が力強く巻かれています。
一の鳥居前から本殿に向かう要所には盛り塩が置かれ、散米による米もちらほら目に入ります。
これらは宮司さんによる備えですが、言葉も交わさずこれだけのことをして頂ければ私たちも動きやすい。さすがです。
向かってくる邪気は、一の鳥居が誘導するように弱めた結界の場所からポツポツと侵入し、宮司さんの罠で消滅。それをかろうじて越えてくるようでしたら、私の気を帯びた爪と牙、角に掛かり霧散するように消えてゆく。
単純作業にも思えますが、これを取りこぼすことなく、最悪は朝日が昇るまで繰り返すのです…越えてくる数が増えるようでしたら、境内を駆け回るしかありません。
――ん?
「これは…ちょっと聞いたことがありませんねぇ…」
思わず声に出してしまいましたが、目に映るのは獣のように這い寄る…邪気? いえ、何らかの意思を感じます…ですが良い感情の色でないですね。
「対話できますか? それ以上踏み込まないのであれば見逃しますよ?」
禍のような例もありますので少し期待したのですが、意思の疎通は無理なようです。
なんの拍子も無く私に突っ込んできた獣を捌くと、闇に潜んでいた別の獣が数体、本殿に向かい飛び出してきました。
これ、連携をとるのですか?
其処彼処に備えられた罠に足を取られた獣を捌いていると、本殿の裏から同等の気配が大量に消えていくのを感じました。
宮司さんですかね? さすがですが…ゾッとします。
―――
一の鳥居は結界の強度を最低限に絞り、今となってはか弱い邪気だけを弾く状態を保ってもらっています。
そんな鳥居を先ほどの獣たちが群れを成して抜けてくるのを確認しました…はぁ。
「どれだけ居るんですか…この数を捌くのは骨が折れますねぇ…」
いや、ちゃんとやりますよ?
止むを得ません。
気の使用を惜しまない方向へ切り替えますか…罠を飛び越すように飛びかかられては面倒なので、上空へと網のように薄く気を張ったところに、こちらの事など関係ない獣たちが我先にと飛びかかって来ます。
もう少し掛け合いというか、名乗りというか、溜めが欲しいものですが。
そんな獣たちは面白いように網に掛かってくれてます。
暫くもがいた後に力尽きて霧のように消えていく様を見届けて思いました。
我ながらこれ凄くないですか?
獣に引き算は無いようで、ひたすらに本殿を目指して飛びかかってきていたのですが、それらが突然引き寄せられるように1箇所に集まり…その中心に、最近見知った人影が見えました。
〔んだよ、せっかく削ったのによー…〕




