再来
「はー、はー…あー、ミナト、ケイ。はー、はー…あ〜」
〔おいおい凪、大丈夫かよ…〕
凪くんが備えられた手すりを頼りに、ゆっくりと石段を登ってきました。
阿形とすれ違うように石段を登り始めた禍が突然放った邪気も今は完全に止まっています。
今では息を切らす凪くんを心配して、こちらを気にする余裕も無さそうです。
…あと、余裕が無いのはこちらも同じだったりします。
凪くんが来たことで状況を把握できた私は、禍を含めた皆に説明することにしました。
申し訳ないですが、私一人でこの不安を抱え込めるほど強くありません…
―――
最初に湊くんの無事が定かではないことを話し、禍を黙らせました。
もはや話が通じない相手とは思っていませんので、その後は順調に説明を行えました。
〔狛犬網とか、ガキらの話とか…んな簡単に俺に話していいのかよ…?〕
椅子で横になっている凪くんの顔を覗き込む禍の顔はよく見えません。
そこで膝枕を貸している湊くんの体には、私ではなく結が“憑かされて”います。
どうも主様のお守りの力は、湊くんの体から霊体が離れた際に…側にいる霊体を引き込んでいるように思えます。
…これもきちんと考えていないと…いえ、後にしましょう。
「それどころじゃないだろ。オマエが境内で邪気を放った結果、鳥居が結界を張った。ミナトと阿形が狛犬網から切り離された。…ここからは全部知った上で協力しろよな?」
湊くんの声で放たれる結の怒気が込められた声は、聞きなれないせいか恐怖しかありません…
あぁ、そんな眉間に皺を寄せた湊くんは見たくないです…
景くんも無言で引いてますから、その辺にしてください…
〔いや、あの白犬、すれ違い様に俺見て笑っ――ぐえっ、ちょっ…苦しいっ…〕
湊くんの体から無数に伸びる縄のような力が、禍の全身を縛るように締め付けています。
そういえばこの前叱られた時も、これで引っ叩かれたんでしたね…
「結。ミナトの体で力使いすぎたりしたら…不安なのはみんな同じだから、落ち着こう」
普段から結を宥めなれているのでしょうね…
頭を撫でられた結は静かに……何故か目を見開いています。
「わっ、ちょっと、何だよ結?」
突然結に頭を撫で回され始めた景くんが困惑している様子。
〔ぐっ…角犬っ、こいつを止め………〕
禍を締め付ける力が強まっているのか、流石にかわいそうな感じになっています…
あっ、必死に締め上げてくる力に抵抗していた禍もついに…
「ゆ…結、いい加減にしなさい! 湊くんや阿形のことを忘れてはいけませんよ!」
―――
我に返った結と、気を失った禍を確認した私は狛犬網へと繋がることを思いつきました。
えぇ、禍が思わず邪気を放つことも無い今なら安全だと考えたのです。
いそいそと私が狛犬網へと繋がった直後、ものすごい勢いで思いがぶつかってきました。
〈遅いぞ吽形。待ちくたびれたわ〉
阿形、阿形…!
《無事でしたか阿形! 湊くんはどうなのですか! 湊くんは無事なのですか!?》
〈落ち着かんか、吽形。湊は元気にしておる。安心せい〉
湊くんと阿形の無事を伝え、やっと景くんの顔色が良くなりました。
結も安心したのが伝わってきましたが…不必要に景くんの頭を撫でてませんか?
こちらの状況を伝えると、阿形も安心してくれたようです。
〈では、そちらに着くのは明日以降を見積もっておる。湊の体、結とおぬしらに任せて良いか?〉
えっ?
《いや、今すぐ狛犬網で戻ってくれば良いのでは?》
〈…主様のお守りがなければ移動できまいよ?〉
そうなのですか?
…そうですね、確かに“湊くんの力”で移動している訳ではないでしょうね。
〈もしかしたら、景と吽形でこちらへ来ることはできるかもしれんが…〉
移動して湊くんと阿形の霊体を抱えて戻る、なるほど。
阿形の言葉を聞き、のびている禍を見遣りました。
…いつ起きて何をしでかすかわかりませんね。
《不確定要素がすぐ隣で寝ております…阿形の考えで無事に戻って来れるならば、それが一番かもしれません》
〈…じゃよなぁ。心配をかけてすまぬが、待っておってくれ〉
そう言い残して、阿形は狛犬網から離れたようです。
もし私が湊くんの体に憑いていたら…社から出られたでしょうか?
私の中で、だんだんと結の存在が大きく感じ始めました。
禍は…これに関しては、結局よくわからないままですね。
今日はこんなですが、夏休み初日に初めて会った彼のままだったら、結と私でどうこうできたとは思えません。
「はぁ…」
まだまだ考えなければならないことだらけですね…
この世界の狛犬
・狛犬は入り口から本殿に向かって右側が阿、左側が吽となり、右側の狛犬は玉を咥えて、左側の狛犬は口を閉じて頭に一本の角が生えています。
さらにこの社の阿形は白く、吽形は灰色と色が異なります。




