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狛犬網の切断


 実際に地に足を着けている訳ではないが、力を…気を込める想像を其処そこへと向ける…


 うむっ!


「よし、湊っ! しっかり掴まっておるんじゃぞ!」


「うんっ!!」


 “主様のために”


 我らの有る場所は境内だけじゃと思うておった。



 湊が現れて、格の高い神々の真似事から依代を用いた。それは我らの意識と力を社の外へと連れ出してくれた。

 


 狛犬間の情報伝達で使用しておった気の流れを、湊の好奇心から移動手段とされてしもうた。違うの、ワシが勝手に使用方法を限定しておったのかも知れぬ…



 ワシのは失敗からじゃが…我らの分け身は、社とは無関係の場所でも行動ができるようになった。



「うわーーーい!!」



 背に乗せた湊から、はしゃぐ声が聞こえてくる。


 …今、ワシは湊と共に、何にも繋がることなく、何の隔たりもない土地を駆け抜けておる!




――む…背筋に何か嫌なものが走る。何が起こったのかを把握しなおさねば――



「海、去年より賑わってるって!」


 境内に皆が揃ったのを見計らった湊から朗報が伝えられた。


「当たり前じゃん。オレたちで掃除もしたし!」


 うむ、そうじゃな。

 町の者たちも月に一度は清掃は行っておるようじゃ。


 しかし、そうか。

 先日、子供たちと禍を追った際に砂浜で視界に入った人影はそれか。


 あの者たち、どのように感じてくれたのかのう。

 この町へ興味を持ち、ここへも足を運んでくれれば嬉しい。


「だから、おばあちゃん、残念がってたよ」


「なんで?」

「何を、ですか?」


 結と吽形が即座に反応した。

 うむ、何を残念がる?


「“休憩所にも手を入れとけば良かった”って」


 10年以上前に使用されなくなったという浜辺にある休憩所。

 建物全体を見直す必要があるらしく、今年の海水浴客の様子を見た上でこれ(休憩所)をどうするか決めるらしい。

 改築でも建て直しでも、早くても秋からの着手…仕方あるまい。


 じゃが、来年の楽しみが増えたと考えればどうじゃー!?


「阿形、変な顔になってますよ?」


 むぅ…


「ふふ、冗談ですよ。もう来年の楽しみまで出来てしまいましたね」


「はぁ…。本当じゃなぁ…」


 境内に訪れる他の参拝客と笑顔で挨拶を交わす子供たちを眺める。


 手水舎てみずやでは水が張られた手水鉢てみずはちが景色を映し、その上を新たに渡された竹樋たけどいからは絶えず清水きよみずが流れ、蝉の声が境内に響いておる。


 この社も…新たに宮司を得てから、拝殿、手すり、手水舎と新しくなった。…ようやく参拝者を迎え入れられるように整ったんじゃな。


―――


 主様との繋がりが強くなったとはいえ、まだまだ禍の来訪など予期せぬ事も起こりうる。


 “気を集めておかねば”と、狛犬網にて情報を集め始めたワシの横で、鳥居へと伸びた気に興味を持った結が色々と試しておる。


「やっぱり“気”じゃないと、この先に行けないかな?」


 結の指先から細く伸びた力は、気を乗せて運ぶことはできても狛犬網へと干渉はできておらぬようじゃ。


「いや、結しか使えぬ力なんじゃから、おぬしがそう決めれば…そうなんじゃろうよ」


 あっ、不貞腐れおった。

 以前は前向きな声が返ってきた気がしたんじゃが…


「…もっとアタシにも優しくしろよっ!」


 えぇー…こやつも変わったのう…いや、以前もこんな姿を見たのう。


「そうだ、湊。阿形と狛犬網を通って見せてよ。アタシも何か掴めるかも知れない!」


 結の言葉を聞いた湊が、否定も肯定もなくワシを見た。

 吽形は自分ではないことを良いことに、目も合わせようとせぬ…


―――


 境内周辺に誰も居らぬことを確認した我らは、行動を開始した。


 狛犬網に接続中のワシの隣に湊がり、その湊を景が支えておる。

 その後、いつものように吽形が湊の身体に憑き、帰りを待つ算段となっておる。


「では行くか、湊。結、ちゃんと見とれよ?」


 集中しておる結は無言で頷いた。


「んじゃ、行ってくるね〜」


 湊がワシの手を取るように触れ、狛犬網の流れに乗ったその刹那、一の鳥居を潜ろうとする気だるそうな凪が目に付いた。

 背後から石段の先を窺っていたであろう禍が、目を見開き口を開けておったのが面白い。おぬしもそんな顔するんじゃな。


 あっ、これどうなるんじゃ…?

 結界閉じてしまうんじゃ?


―――


 狛犬網を移動中に結界が張られ、狛犬網が切断された。


 あの直後、凪と禍が鳥居を潜ったんじゃろう。


 本来行く筈だった社に到達することはできず、ワシと湊は知らぬ土地へと放り出されておった。


「…阿形…」


 周りを確認するワシの背後から、湊の声がする。

 申し訳ない、またワシが湊を不安にさせてしもうた…


「ここ…異世界とか!?」


 異世界?

 そういえばテレビでそんなのを楽しそうに観ておったな。


 嬉しそうなところ残念じゃが、ワシの目にトラクターが映っておるので違うじゃろ。

 …んや、湊もそれが目に映っておるようじゃし、気を使わせたんじゃな。


「大丈夫だよ、阿形。社まで戻れれば」


 おそらく情けない顔をしたワシを気遣ってか、湊に背中を叩かれた。

 湊に叩かれるなんて初めてじゃな。


「…ん?」

「あれ?」


 …考えれば、狛犬網へと引っ張り出されておったのじゃ。

 霊体同士であれば、触れ合うことができたんじゃな…


――振り返り終えたが、そうじゃな。ワシの浅慮から始まったんじゃな…また吽形に怒られてしまう―― 


この世界の狛犬

・鳥居の結界が閉じると、狛犬網が使用できなくなる。

・霊体どうしなら触れ合うことができる。


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