おばあちゃん
町のことなら、おばあちゃんに聞いてくるよ!
そういって湊くんは帰っていきました。
おばあちゃんとは、湊くんの祖父と手を繋いで参拝していた方ですかな。
…ちょくちょく湊くんの祖母が絡むと、阿形が変な反応をするのが気になりますね。
―――
「やっぱり海だよ!海!」
今日は学校が休みなのか、朝から石段をずんずんと登ってくる湊くんを見かけました。
開口一番に出たのは、昨日の話の続きなのでしょう。
「海のぅ。確かに美しい海じゃが、人の流れに繋がるのか、判断がつかぬ。」
そうですねぇ。
海水浴客には繋がるかも知れませんが、夏のほんの暫くだけになりそうですし。
山側にある、この社まで人が流れてくる動線が見えませんねぇ。
「おばあちゃんに色々聞いたんだ。この町の海は凄く綺麗なのに、なんで人が少ないの?って。」
「…うむ。」
「この辺りの海に面した町は、どこも同じように、この海を眺めているでしょうしねぇ。」
頷く湊くん。
まだ続く言葉をお持ちのようです。
「他の町よりも砂浜から海に入りやすくて、今は閉まっちゃってるけど、海の家とか宿はお客さんでいっぱいだったんだって。」
確かに、人で溢れた海の記憶が残っております。
大人から子供まで、たくさんの思いが飛び交っていましたね。
「その頃は、海から道のこっち側、山の麓の商店街にもお客さんが沢山来てたって。」
あー、ここから商店街は見えませんが、そちらにも海の恩恵があったのですね。
「そして今よりも、電車やバスの本数が多かったって。」
阿形が悲しい顔をしているように見えます。
「海だけでない娯楽も増え、海水浴客が減り、商店街も寂れ、仕事が減り、電車やバスの往来も減ったのじゃな…」
負の連鎖です。
そう考えると、ますますどうしましょう…
湊くんの表情は、終始変わらぬ自信に満ちており、不安は和らぎますが。
「昔はどこも同じように、自然に囲まれた町ばかりだったけど…
今ならまた、変わらない自然に溢れた町として栄えてもいいと思うって。」
「他の町は…栄えた分、自然を失ったと。うん?」
湊くんが何度も頷いてます。
あら?阿形がまたソワソワしていますね?
本殿の隣からくる人の気配に反応しているのでしょうか?
「湊。ここにおったんね?」
これはこれは、湊くんの祖母でしたか。
「えっ?おばあちゃん?あれ?どうやって来たの?」
「裏からよ。畑と社家の手入れに、町の人たちとね。」
「裏?シャケ?手入れ?」
「あっはっは!一緒に掃除を手伝ってくれたら、全部わかるよ。」
「行く、手伝う!」
湊くんが私たちへ目配せし、立ち上がりました。
「湊くん。依代を持っていってくださいね。」
軽く頷いてくださいました。
本殿の裏側なんて、機会でもないと見れませんからね。楽しみです。
おや、湊くんの祖母が阿形に近づいて、台座の欠けた部分に指を這わせています。
さっきから変な阿形は、完全に動かなくなりました。
「おばあちゃん?」
「えっ?あぁ、行こうかね。」
湊くんの呼びかけに我に返ったように反応して、二人は本殿への参拝後、その横を通って裏へと歩いて行きました。
おや、阿形?
阿形??
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この世界の狛犬
・狛犬(阿吽)の声は、湊にしか聞こえていなさそう。
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




