町の活性化について
初めての仕事を終えた小僧を、そのまま家に帰すこととした。
吽形がそばにおり、十分な気を込めて守ったとしても…なにぶん初めてのことで不安じゃった。
我らが確認できる範囲に小僧を捉えた時は、心から安心した。
直接、小僧に思うことを話せぬのがこんなに煩わしいとは思わなんだ。
吽形を通し、小僧がいなければあの場所を浄化することも、地蔵を起こすこともできなかったと伝えてもろうた。
吽形によると、風呂からあがり食事をしたら、すぐに寝たようじゃ。
―――
翌日、いつもと変わらぬ時間に、小僧は元気な姿を見せに来おった。
「小僧。先ずは、面と向かって礼を伝えておきたい。ありがとう。」
「んふー、上手くいったんだね!…近くの社まで、吽形の依代と一緒に移動しただけなんだけどね。」
「いえいえ。依代を通して阿形の言葉を伝えましたが、
湊くんがいなければ、あの場所にも行けず、お地蔵様を起こすこともできませんでした。
私からも、もう一度お礼を言わせてください。ありがとうございます。」
「えへへー」
あぁ〜めんこいのぅ。
「体の方に不調はないか?なにぶん気を通して動く事なぞないじゃろう?」
「家に帰ってから、吽形に余った気を回収します、って言われた後…凄くお腹が空いたくらいかなぁ」
両手を腹に当てながら、笑顔を見せる小僧を見て、安心する。
手伝ってもらった手前、小僧に何かあっては申し訳ない。
「だから、これからも一緒に、この町と社のために頑張ろう!」
「おー!」
いや吽形、おー、じゃないわ。待たんか。
「小僧。今回は問題なく終えられたが、これからも必ず安全とは限らぬのだ。」
吽形がこちらを見ておる。…それ、どんな感情を込めておるんじゃ?
「今一度、よく考えて小僧に選択してもらいたい。本当に何の問題も、不安もなかったのか?続けられるのか?」
「続けるよ!」
早いわ。
「少しは考えて答えぬか!」
「昨日の夜、依代の吽形から同じことを聞かれて、色々考えてから続けるって答えたよ!」
吽形?
あっ、目を逸らしおった!
「…そうか、わかった。湊、これからも宜しく頼むぞ。」
ちなみに今日は活動せぬぞ。
―――
「お仕事の報酬として、気を貰えたんだよね?」
「はい。あの社の主祭神へ報告を終えた後、狛犬網を通じて気を賜りました。」
「昨日、僕の体に流れた気とか、お地蔵様の周りを浄化した時に使った気と同じものなの?」
人の生活では意識しないものじゃろうし、気になるのも当然かのう。
「うーむ…基本的には同じと言えるのじゃが…神気に影響され、場に満ちるのが気でな。」
「神気?」
「社の本殿と、その御祭神の結びつきから得られるのが神気じゃ。その神気により場に満ちるのが気じゃ。」
「」
あっ、前もこの顔を見たぞ。
吽形、吽形!
「社に祀られた神が違えば、気にも違いが出ます。
ですので、同じとは言い切れないと阿形は言いたいのですよ。湊くん。」
そうなのじゃ。
「阿形、ちゃんとそう言ってよ。」
ぬぅ…
「もらった気は、どうするの?どうにかして使うの?」
「賜った気はのぅ、土地を整えるために使うのじゃ。
昨日のように、気が停滞して濁った箇所や、気が薄い場所は人も寄り付きにくくなり、邪気も発生しやすい。
そこに気を流し込み、土地を整えて行くのじゃ。」
「そして、土地が整うと、人が帰ってくる?」
「ゆくゆくは、人の流れに繋がるじゃろう。」
湊は無言になったが、良い顔をしておる。
我らと同じように、希望を感じたのじゃろうか。
―――
しばらく我らは、首を傾げていた。
「どこから手をつけていくか、なのですよ。」
吽形が悩んでおる。
ワシもイマイチ、町の在り方を知り得てはいない。
どれだけ主様に甘えていたのかを痛感する。
この土地から人が減ったのは、この町への加護に不備があったわけではない。
じゃから邪気もそうそう発生せぬ。
単純に産業や娯楽といった部分で、この町に勝る町が増え、人が流れ出ていったのだ。
色々考えていると、先ほどから湊が静かなことに気づいた。
湊が腰掛けて向く視線の先。
本殿から鳥居を潜り、林の間を抜けて真っ直ぐ伸びる石段、その先に開ける雄大で輝く海。
「海が…綺麗だよねぇ。」
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この世界の狛犬
・狛犬(付喪神)は、物理的に物を動かせない。(霊的なもの、流れる気は動かせる)
・狛犬(阿吽)は、そばにある物、参拝客の声や持ち物、狛犬網で意図的に得た情報以外は持ち合わせていない。
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




