狛犬網と依代
吽形の顔が面白い…そんな顔もするんじゃな。
何ですかそれ?と言いたいのじゃろう?
ワシが今、名前を付けた。
―――
聞き慣れぬ言葉に、湊が興味を持ったようじゃ。
心して聞くと良い。
「狛犬に宿った我ら付喪神は、社の主祭神に認めてもらえたとき、この網に参加できるのじゃ」
なんじゃ吽形?説明中にチラチラと本殿を見るでない、主様に無礼じゃろ。
「わた、私、それ知りませんけど?」
えぇー?
名前だけでなく、仕組みをも知らぬと申すか?
「おぬし、ワシが参加してるなら任せるとか言っておったが…そのまま忘れおったな?」
おぬしが狛犬に宿った頃の話じゃ
「…なんか適当にお願いしたのでしょう…全く覚えがありません…」
おぬしぃ…
「ワシが得てきた情報は、どこから湧いてきたと思っておったんじゃ」
「…私より先に居たあなたが、主様の話をそのまま私に流しているものかと…」
主様が我らに差をつけるわけなかろう。
「ねぇ…とりあえず、何をすればいいかを教えてよ…」
いかん、小僧が興味をなくす前に進めねば。皆のために。
「先ずは狛犬網で情報収集を行い、気を賜われる仕事を探すのじゃ」
「お仕事!」
おぉ晴れ空のような顔じゃ。
「ただ、この狛犬網はのぅ、いつでも使えるわけでは無いのじゃ」
「…うん」
曇ったの。
まぁ、とりあえず聞いておくが良い。
「社の神が他の神を招き入れて縁が結ばれる。その時、鳥居の結界が一時的に開かれて狛犬網が張り巡らされるのじゃ」
説明しようと整理すると、思い直すこともある。
意識しておらんかったが、狛犬網へ気を乗せて、縁に繋がる感じじゃな。
「」
小僧が考えるのをやめた。
ダメじゃ、ワシでは上手く小僧に伝えられん…
「阿形…」
やめろ吽形…そんな顔で見るな…
「湊くん。お社に他の神様のお守りを持って参拝する人がいたら、そこと繋がると言っているようです」
そう。そうじゃよ?
「…えっ、それだと、いつも色んなところで繋がっていそうじゃない?」
「いや、もう少し色々あるんじゃが…その通りじゃな。ただ、他の社から気を賜るなんて考えたこともなくてなぁ…情報を持ち合わせておらん」
「じゃあ、これからは気をもらえる情報を集めて、阿吽と一緒にこなしていくんだね?」
「そうじゃ。なので今日はその時のために、我らの力をこめた石を渡しておく。ワシの台座に欠けた石が置かれておるじゃろう?それを手に取るが良い」
主様の元で同じ時間を過ごした石じゃ。我らの気を溜めやすかろう。
「これは?」
「最初に小僧が言うておったろう。我らを持って他の土地に行けば、と」
小僧、頷きすぎじゃ
「小僧がこの土地を出る時に、この石を持ってくるがよい。我らのどちらかが、力と気を込める」
「簡単なお守りのようなものです。このように気を込めた私か阿形が、その石と繋がります。遠く離れても会話などができるようになるのです!」
あっ、勝手に吽形が気を込めよった…おのれ…
「何それ! もらってもいいの!?」
何でそんな笑顔なんじゃ
『ただし、込められた気が切れてしまえば、私たちとの繋がりは途切れて、普通の石と変わらなくなります』
吽形が依代越しに声を出して小僧を喜ばせておる。…やりおるのう。
「まぁ、主様の加護で守られたこの土地でならば、わずかな気で会話を続けるくらいはできよう」
「すっごい…すっごい!」
凄かろう?
細かい話は沢山あるが、とりわけ難しいことや危険なことはさせぬのじゃ。
一旦はこの程度にしておこうかの。
目の前に我らがおるのに依代に話しかける、太陽のような小僧に暖かさを感じておった。




