最初の一歩
阿形に一度は止められたものの、私の考え方にも一理あると思ったのでしょう。
緩やかに私の思い描く方へと、会話は傾き出しました。
―――
「努力しても報われない、叶わないなんてことはままある。後悔するかもしれんぞ?」
「でも、やらないと叶わないでしょ?」
あぁ、そんなに強く思い詰めなくていいですよ、力を抜いてください。
「逆にですが、湊くんが待っているだけで、そのお友達が戻ってくる可能性だってありますよ?」
ん? 何です阿形? 何故私を見つめるのです?
「ううん、友達だけじゃなくて、閉まったお店や無くなったお祭りとか。何もしないまま今より寂しい町になるのは嫌だよ」
あぁ、綺麗な目を悲しそうに伏せて…
「それでは私たちと一緒に町へ人を増やし、主様との繋がりを、御縁を深めていきましょう!」
…まだ阿形が無言でこちらを見てます。
何故でしょう、気持ち悪いです。
―――
「で? 何故あの小僧の名前が湊と判ったんじゃ?」
えぇー…そこですか?
「ランドセルに名前が書いてあったじゃないですか…」
「…目敏いやつじゃ、気持ち悪い」
滅茶苦茶言いますね、あなた…
夕日も落ちかけてきた頃、鳥居を潜る湊くんの姿を見送りました。
人と言葉を交わすことなんてなかったのですが…意外とすんなり受け入れてもらえるのですね。
しかし、これまでも人目を気にせずに阿形と対話してた気もしますが…はて?
「あやつに我らのことを吹聴しないようにと伝えそびれたわ…」
うーん?
それはそれで…
「阿形。もしそれで人が集うのであれば、願ったり叶ったりな気がしますが…いかがですか?」
「物珍しさで立ち寄る人間からは、そうそう信仰なんぞ得られぬじゃろう。…むしろ、別の目的で押し寄せた者の邪念や邪気を祓う日々になってしまうわ」
そうですよねぇ。良いことばかりでは…なさそうですねぇ。
「それより…」
なんです? なんとも微妙は表情をされて。
「もし、あやつがまた此処に足を運んでくれた場合なのじゃが…」
おや、名前では呼ばないのですね。
いえいえ深い意味はありません。
「そうですね。その日が来ることを期待して、復興作戦を練りましょう」
―――
昨日と同じくらいの時間に石段を登ってくる湊くんの姿が、私たちの目に映りました。
もしかしたら、もう…
阿形と共に、安易には口に出せなかった言葉。
「小僧…もう来ぬかと思っておったぞ」
…普通に言いましたね。
「何で? 学校が終わるのが待ち遠しくって、授業中も“集中しなさい”って叱られちゃったよ」
ケラケラと笑ってる湊くんですが、叱られた原因は私たちとの出会いです。
これはいけない。
「これから私たちと一緒に町の復興に取り掛かるのですから、学校の授業は大切になりますよ!」
「えぇー? 何で?」
阿形も何で?って顔でこっちを見ているのが、それこそ何でわからないんですか…
「これから私たちは様々な土地に赴きます。そこで御祭神に気を賜り、この土地へと巡らせるのです」
「他の土地に行くって言ってたもんね」
「そうです。私たちとの復興作業では、先ず地理が必要です。行動するために時間の計算も必要でしょう。人や神に接するためには道徳や国語、月の満ち欠けや自然を知るためには理科。知識が多いだけ、困難にも立ち向かえます」
「…へぇ」
漏れた言葉は、無関心や拒否からでなく、前向きなものに感じました。
「…うん、じゃあ頑張る。これからそんな冒険があるんだね!」
あっ? 言ってはみたものの、冒険? 冒険ですか…
彼には危険が伴わないよう、間接的に関わっていただく予定でしたが…
「そうじゃな。ならば先ず、狛犬網を使用するかのぅ」
えっ?何です、それ?




