序幕
この社に祀られる御祭神を守護する狛犬。
我らはその狛犬に宿る付喪神、阿形と吽形。
我らは宿し時から主様の御心を汲み取り、この社を守り続けておる。
現在では土地の衰退とともに人が減り、信仰も減り、寂れ始めた。
主様と社の繋がりは細くなり、御威光も弱まってきておるのだろう。
――…あははははは…――
…む?
なんじゃ? ワシは夢でも見ておったのか?
人々と協力し、主様の見守るこの町と歩む夢。
尊く、とても大切な者と……駄目じゃ、その詳細は今この時も薄れつつある。
微かに残る夢の残滓が、とても幸せなものであったと思えるからこそ、このままでは駄目だと不安が積もりだした。
「吽形よ…我らが主様へと仕えて幾年月か…参拝者の減る今、信仰を得る良い案はないものか…?」
「阿形…神主殿もここを去って数年。動けぬこの身に案など無く、社と主様との繋がりが切れぬかと、毎日ハラハラしております…」
我ら付喪神は信仰による力の衰退は無い。
だが、この社の狛犬である。
主様との繋がりを失わぬよう、我らはただ考え続けていた。
「信仰を得たら何か変わるの?」
「うん? そうじゃな…この社と主様との繋がりが強まることで神気が満ち、その影響で気が巡る。邪気を祓い、土地は潤って人々が集いやすく整う…じゃろうか?」
その人々の心の安らぎや余裕から、また次の信仰へ繋がるじゃろう。
今はそのきっかけが欲しいのう…
「…ですが、今では土地から人や信仰が減り、邪気すらほとんどありません」
「そうさなぁ…邪気すら無いのぅ…我らが人を呼び込む流れを作ることができれば良いのじゃが…この社からは出れぬからのぅ」
「僕が二人を連れて他の土地に行ったら?」
いや、じゃから社からは出れぬと…
…思えば会話の相手は吽形ではないな、誰じゃ?
―――
気付かぬうちに狛犬像の間に子供が座っておった。
今更ではあるが、我らは暫く口を噤んでおったが…
「まだ居ますぅ」
おいっ吽形…
無言で居座り続ける子供に我らは根負けした。
「大変だったんだね…」
「そうなんですよ…こうして一人でも参拝者として足を運んでくださるだけで、社と主様の御縁が保たれるのです」
ほんにのう。
「小僧は…誰かと一緒のことが多かったな。今日は一人なのか?」
「誰か? じゃあおじいちゃんかな? おじいちゃんは石段がキツいって一緒には来なくなっちゃった。“手すりも無いし”って」
手すり! 手すりのぉ…確かにそれがあれば参拝客の衰退はもう少し緩やかじゃったろうなぁ。
「しかし小僧は何故ここに? 失礼かもしれんが参拝が身につく年齢でもあるまい?」
椅子に腰掛けた小僧はこちらを向かず足をぶらぶらさせている。
何じゃ? 失言じゃったか?
「すまぬ、変な事を聞いたかのう?」
「そうですよ、失礼ですね阿形」
おぬしぃ…
「ううん。ずっと仲の良かった友達が引っ越ししちゃったんだ。一緒にここにも来たなぁ…って思い出して」
俯いたまま首を振り、寂しげな声で返された言葉。
そうか。そうか…
ここを訪れた参拝者からも、時折別れに悲しむ声が届いた。
ワシは縁とは宝じゃと思うとる。
それを失って何も感じない者はおらんじゃろう。
「そしたら話し声が聞こえて。珍しく参拝してる人いるのかな? って」
珍しい? ちょくちょく参拝してくれる者たちがおるわ!
あぁ、そやつらからも手すりとか何とか声が届いておったわ…いつもすまぬなぁ…
「聞こえたのは、きっと阿形の声ですねぇ。困ったものです」
きっとおぬしの声もな。
「ご友人が引っ越されたのは、そのご両親のお仕事の都合なのでは?」
「え? すごいね! 何でわかったの!?」
む、吽形…うん? 今、何故こっちを一瞬見たんじゃ? 何じゃ?
「…この町は人が減りつつあります。そのため仕事も店も、お祭りも減っていくでしょう…」
「あー、人が減ったからかぁ。お祭り…本当に小さい頃に、ここでお祭りがあった記憶があるよ」
吽形、何故祭りを混ぜた? 関係ないこともないが。
「ですが人が増えてくれば…今度は仕事も店も増え、お祭りも再開できるかもしれませんねぇ」
だから何でこっちを見るんじゃ吽形? 何じゃ、ばちばちよく動く片目じゃな。
「えーっと?」
うーんと?
「お友達の両親も、増えた仕事のおかげで戻って来るかもしれません。そして、お友達と一緒に再開したお祭りに行く…あぁ…」
「…おぉ!?」
「私たちと協力して、この町に人を増やしましょう!」
「おおー!」
いかん、これもう詐欺師では




