序幕
この社に祀られる御祭神を守護する狛犬。
我らはその狛犬に宿る付喪神、阿形と吽形。
我らは宿し時から主様の御心を汲み取り、この社を守り続けておる。
現在では気の巡りが弱まり、土地の衰退とともに人が減り、信仰も減り、寂れ始めた。
主様と社の繋がりは細くなり、御威光も弱まってきておるのだろう。
「吽形よ…我らが仕えて幾年月か…参拝者の減る今、信仰を得る良い案はないものか…?」
「阿形…神主殿もここを去って数年。この社と主様との繋がりが切れぬかとハラハラしております…」
我ら付喪神は信仰による力の衰退は無い。
だが、狛犬でもある。
主様とのご縁を絶やさぬよう、ワシはただ考え続けていた。
「信仰を得ると、何か変わるの?」
「うーむ…この社と主様との繋がりが強まり、その神気が場に満ち、その影響で気が巡る。土地が気で満ち、邪気を祓い、人々が集いやすく整う…じゃろうか。」
その人々の心の安らぎや余裕から、また次の信仰へ繋がるじゃろう。
「今では、この土地は人も信仰も減り、邪気すらほとんどありません。」
「そうさなぁ…邪気すら、無いのぅ。ワシらが気を集めて巡らせ、人を呼び込む流れを作ることができれば良いのじゃが…この場所からは動けぬからのぅ。」
「僕が二人を連れて、他の土地に行ったら?」
我らを二人と数えて良いものか?
そもそも、社からは出れぬからなぁ…
いや、誰じゃ?
―――
「大変だったんだね…」
「そうなんですよ…こうして参拝者として一人でも足を運んでもらえるだけで、社と主様の御縁が保たれるのです。」
この子供が会話に加わっていることに気づき、ワシらはしばらく口を噤んだが…
「まだ居ますぅ」
「おいっ吽形…」
無言で居座り続ける子供に根負けした。
「小僧は…誰かと一緒のことが多かったな。今日は一人なのか?」
「おじいちゃんかな?おじいちゃんはねぇ…この石段がキツいって、一緒には来なくなっちゃった。手すりも無いし。」
手すりのぉ…確かにそれがあるだけでも、参拝客はまだ居たかもしれんなぁ。
「しかし、小僧は何故ここに?失礼かもしれんが、参拝が身につく年齢でもあるまい?」
椅子に腰掛けた小僧はこちらを向かず、足をぶらぶらさせている。
何じゃ?失言じゃったか?
「すまぬ、変な事を聞いたのう。」
「そうですよ、失礼ですね阿形。」
おぬしぃ…
「…ずっと仲の良かった友達が、引っ越ししちゃったんだ。一緒にここにも来たなぁ…って思い出して。」
そうか。そうか…
ここを訪れた参拝者からも、時折、別れに悲しむ声が届いた。
縁とは宝じゃからな。
失って何も感じないものはおらんじゃろう。
「そしたらね。話し声が聞こえて。珍しく参拝してる人いるのかな?って。」
珍しい?ちょくちょく参拝してくれる者たちがおるわ!
あぁ、そやつらからも手すりとか何とか声が届いておったわ…いつもすまぬなぁ…
「聞こえたのは、きっと阿形の声ですねぇ。困ったものです。」
おぬしもな。
「ご友人が引っ越されたのは、そのご両親のお仕事の都合なのでは?」
「え?すごいね!何でわかったの!?」
む、吽形…うん?何故今、一瞬こっちを見た?何じゃ!?
「…この町は人が減りつつあります。そのため、仕事も店も、お祭りも減っていくでしょう…」
「全部、人が減ったからかぁ…あ〜、お祭り…本当に小さい頃に、ここでお祭りがあった記憶があるよ…」
吽形、何故、祭りを混ぜた?関係ないこともないが。
「何とかして人を増やせれば、仕事も店も増え、お祭りも再開できるかもしれませんねぇ」
だから何でこっちを見るんじゃ吽形?何じゃ、ばちばちよく動く片目じゃの。
「えーっと?」
うーんと?
「お友達の両親も、増えた仕事のおかげで戻って来るかもしれません。そして、お友達と一緒に再開したお祭りに行く…あぁ…」
「…おぉ!?」
「私たちと協力して、この町に人を増やしましょう!」
いかん、これもう詐欺師では
――――――――
この世界の狛犬
・自力では社から出れない
・これまで声は聞いていたわけでなく、届いて居た。
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




