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昼食


「だめだー、あっつ〜。あー、お腹すいた。湊、ご飯どうする?」


 浜辺にたどり着いたのですが、またも凪くんと禍の姿はありませんでした。

 全速力が祟ったのか、お二人は休憩が必要な様子です。


「んっふー! 今日は景くんのおじいちゃんとこで食べる! 二人分のご飯代もらってきたんだ!」


「いいね! …いいの?」


「“明日は忙しいから、景くんと外でお昼ご飯食べておいで”って。昨日おばあちゃんがくれた」


 宇美さん、今日も朝から宮司さんとバタバタされてましたからねぇ…

 本当に頭が下がります。


―――


「じいちゃーん!」


 砂浜と商店街の途中に、景くんの祖父が営む食堂いろどりがあります。


 景くんが声を上げながらお店に入ると、昭一(祖父)さんが少し眉を寄せました。

 数人のお客さんがおられますので、公私混同を嫌われたのでしょう。


「今日はボクたちお客で来ました!」


 湊くんの言葉で眉間の皺も顔も緩みましたね。


「おー、そうか。そんなら、空いとるとこに座り」


 これはなんと言うのでしょうか?

 割り箸の香り? 畳の香り? 室内に染みついた出汁などの香り?

 こんなものに迎え入れられた人は、もう、お腹いっぱいにならないと帰れないですよね。


「んじゃ、ナギくんの横〜」


「お前ー、めっちゃ探したんだぞー、んじゃナギの前ー」


「ほん。ほふふん、ほうん」


 …えっ? 何です?


「何食ってんの? カツ丼! あー、ざる蕎麦の気分だったのに…」


「渋っ!? あー、いい匂い…ボクもカツ丼かなぁ」


 子供たちの空気に流されて、目の前の禍と共に私たちは言葉をなくしています。


 接客は和子さん(祖母)がされています。

 軽い挨拶と二つのカツ丼の注文を受けて下がっていかれました。


 人前で食事される時、お守りは外さない二人なのですが、今日はあえて外したように見えます。

 ならば私たちもそちらの邪魔をしないように、声が漏れぬように致しましょう。


(…ぬるっと溶け込みやがって。俺見て無視なんて、肝の太いガキらだな)


 普通に、あなたより友達との時間が優先されただけの気がします。

 私たちと彼らの距離感の違いでしょうね。

 しかし。


(おや、禍。子供たちを気遣って聞こえないように話すとは。言うだけあって意外と“空気が読める”ようで。…ふふ、あなたに聞かされた時は嫌いな言葉でしたが、使い勝手は良いですね)


(…わざとらしくゆっくり言うなや、嫌な奴だな)


 阿形が会話に入って来れないままです…

 湊くんたちの展開が早すぎたので、あなたの為に会話をゆっくり進めているんですよ!


(んだよ? 白い方はこんなトコでも仕掛けて来る気満々じゃねぇか。場所考えろよ…)


――


「阿形。私たちはこちら(境内)でも対話が可能です。少し冷静にいきましょう」


「む、吽形…すまぬ、そうじゃな」


――


(禍。おぬし、わざわざ目立つ行動を取り、わしらを引っ張り回しおったな? どんな意図があるんじゃ)


(いや、気の巡りがいいとこ巡っただけだが…お前みたいな短気を相手にしてたら、凪も俺も身が持たねぇよ)


 ホント、そうですよ。


(ホントそうですよ)


(吽形!?)


――


「う、吽形? なんぞ間違えたか?」


「阿形。間違えてませんが、いかがなさいましたか?」


「い、いや、そうか…」


――


(…)


 阿形が静かになってしまいましたね。

 しかし私も短気は駄目だと思います。


 “誰かのために”なんて考えで行動は慎んでください。

 言われて残された者は悲しみ続けます…これに誰が得をするのですか?


(その短慮がどれだけ迷惑かけてるかわかってんのか?)


(迷惑じゃと!? 町の者と一丸になっておると自負しとるっ!)


 煽ってくるのはいいのですが、意図がわかりませんね。

 それに自然と乗っかれる阿形を添えておきますので、もう少し情報をください。


(お前のその一丸ってヤツの枠から外れた奴は居ないのか? あ?)


(本殿に向かい邪気を撒くような狼藉ろうぜきを働く者の事を言うとるのか? それを許容せよと? ならば先ず、しっかりと灸を据えてやらねばな!)


(…。はっ、おかげで俺を敵だと認識できたろう? ぬるい生活してっから、検知も加減も出来ねぇんだ、笑うぞ)


(おぬしに笑われたから何だと言うんじゃ! この町の皆が繋いでおる主様との縁! 加減なんぞ、敵と判断した者にできようものかっ!)


――


「阿形」


「ふーっ、ふー、な、何じゃ吽形!」


「あちらで色々と漏れてます、落ち着いて。湊くんと景くんは、その想いで共に築き上げた場所を堪能しているのですよ? 今のあなたの感情だけで台無しにしてはいけません」


「…すーっ、はー。すまん、すまんな。すまぬ吽形」


――


(おい、おい、おい。冷静に話もできねぇのか? お前の都合で全部台無しに――)


(すまん)


(…ん? お、おう。)


 こちらの会話の熱が下がり、子供たちの会話が耳に入ります。


「ナギ、顔色悪くない?」


「あれ? 大丈夫?」


「んー、ちょっと? 今日はそろそろ帰るねー。ごちそーさまでしたー」


 少しふらつく様子を皆に心配されながら、会計を済ませた凪くんが店を出て行きました。

 会話を終えた後、禍の姿は凪くんの中へと収まり、以降見えることはありませんでした。


 今日の会話から、凪くんと禍が一緒に何かを企んでいる訳ではなさそうに思えました。


―――


 今は社に戻ってからの反省会が行われています。


「阿形、みんなの想いを大事にしてくれてるのはわかるけど、熱すぎるんじゃない?」


 景くんに言われてますよ、阿形…


「仕方ないよ、それが阿形だもん」


「湊…」


 湊くん、あなたが甘やかすから… 


「アタシは嫌いじゃないけど、一呼吸おいて話する癖つけたほうがいいんじゃない? 感情に乗せて気もダダ漏れで…子供みたいだよ」


 結。

 それ自分にも聞かせるといいですよ?


「仕方ないよ、それが阿形だもん…」


「湊…?」


 んフッ…


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