ずれ
(――私! 何をやっているのですか、私! 気を失っていては状況も共有できませんっ!)
あまり馴染みのない気と、身に覚えのない記憶が私の体に流れ込んで…これはあちらの私…
…そうですか、景くん…今日こちらにいらしてたんですね…
周囲を見渡すと、動かない阿形に景くんが寄り添い、そこへ気を浴びせる流れを作る結の姿が見えます。
あの子供と禍々しい幽体は…居ない?
「吽形! よかった…一体何があったんだよ!」
私に気づいた景くんに言葉を返す気力がなく、今は微笑むことしかできません。
禍と呼ばれた霊体へ全身全霊の一撃を与えようとした阿形。
過剰過ぎるその力で消滅しそうな阿形へと、私が纏う気を加減せず送り込んだ結果です。
それでも動かない阿形にと、結は必死に気を探ってくれています。
「吽形、なぁ、吽形。阿形が目を開けないんだよ…周りを探っても気が残ってなくて…さっきまでは町中に溢れてたのに、この付近だけ、なんで?」
まったく…どなたかが言われていましたが、本当に加減のできていない。
仕方ありませんね。
これまで一緒だったんですよ。
最後も、一緒でしょう?
あなたのそばに寄るくらいしか、私も力が残っておりません。
「吽形? 何寝ようとしてんだよ! やだよ、阿形っ! 吽形っ!」
(…結、私、阿形を独りにはできません…湊くんと景くんをお願いします)
「やだ、やだよ、いやだっ」
結…ふふ…
「っはぁっ、ケイくん! お守りを吽形にぶつけてっ!!」
湊くん…息を切らせて…携帯の阿形に何か聞かされて戻ってきたんですね…何です?
『はっ、景くん、湊くんの言う通りに、早くっ!』
…え?
景くん、ちょっ…
「携帯阿形っ! 阿形にぶつけるよっ!!」
『御意じゃっ! いつでも良――ぶわぁー』
―――
「馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿っ!!!」
「いや、すまんかった、じゃが、じゃがのう?」
「いもー!!」
「ぶはぁー?」
…私たちは、結にひたすら怒られています。
湊くんの咄嗟の判断から、分け身の私たちを元に戻したことで霊体を保つことができました。
携帯に絡まり出ることができなかった阿形は、投げた携帯が壊れることで開放されたようです。
相変わらず、なんとも思い切りがよい…
浜辺に巡らせるためにとお守りに込めて持ち出した気。
これを湊くんがそのまま持ち帰ってくれたおかげで…私たちも境内も、ある程度余裕がある状態へと戻ることができました。
一息ついて、今回の件…以前見た夢を思い出しました。
凪くんと…禍。
夢で見たそのままの姿でしたが、何も事件は起こらなかったはず。
ここまで明確なものであるのなら、主様が私たちに見せ――
「吽形! オマエ、アタシの話聞いてんのかっ!」
「えっ? あっ、いえ、聞いてませんでした」
「馬鹿ーっ!!」
「いたーっ?」
結、私たち、消えかけてたんですよ…?
―――
寄り添うようにして、ずっと静かに私たちを見守っていた湊くんと景くん。
くっきりとわかる夕日になったのをきっかけに、景くんが結を連れて帰って行きました。
「阿形、吽形。明日、また来るから」
景くんは、どこか落ち着いた感じになりましたね。
「ばーか。ばーか…」
結は…もう半分笑ってるのに、ずっと文句を言い続けてます。
…本当に、心配かけて申し訳ありません。
動くこともできないまま、結に叱られ続けていたので…私と阿形は寄り添ったままです。
そんな私たちの間へと、湊くんがゆっくり歩いて来ました。
夕日の逆光で表情が見えないまま、私たちの間に座り――
「もう、誰も居なくならないでよ…」
静かに泣く湊くんに話しかけることはできず、私は阿形と側にいることしかできませんでした。
この世界の狛犬
・分け身は、本体に戻ることができる。




