隙
「ケイくんが帰ってから、一度も砂浜に行ってないよね?」
夏休みの初日。
海開きはされておったが、梅雨じゃったり山を優先したりした結果、最近は行けておらん砂浜へと湊が目を向けた。
参る石として一度は達成したとはいえ、長雨により気の流出は起きておるようじゃ。
景が帰ってくる前に、様子見を兼ねて砂浜へ気を巡らせに行く流れとなった。
「レッツ、ゴー!」
蝉で賑やかな境内から、気で満たしたお守りを持った湊が石段の手すりに手を添えながら元気に駆け降りて行く。
そう。ありがたいことに、石段の左右には手すりが備え終わっておる。
そのおかげか、湊の祖父も夕方に湊を迎えに石段を登ってくることが増え、懐かしい気配ともいくつか再会できた。
皆、共に長く元気でおろうな。
おっと忘れとった。湊、いくら手すりがあっても駆け降りるのは駄目じゃ。
―――
「阿形。お守りだけに気を込めたのは…気の備蓄が残り少ないからでしょうか?」
目ざといのぅ…
「…ここぞとばかりに、山から降り注いだからのう」
吽形が呆れ顔をしているように見えるが、気の管理をワシに丸投げしててできる顔じゃなかろう。
「湊の案は、景だけでなく海水浴客や帰省で通過する者たちの目にも留り、良い結果に繋がるかもしれぬ」
「えぇ、私も良いと思います。賜った気の管理をお任せしている立場ですので、反対だったとしても強くは言えませんけれど」
なんじゃわかっておるではないか
あなたならいいそうですし
そりゃあいうわ!
…本殿の裏から知らぬ気配が近づいておる…これは?
「阿形、この気配です! いえ、それに違う気配が混じって――」
突然、鳥居が結界を張りおった!?
「結界が? なんじゃと?」
ワシの記憶には主様に仇なす力が境内まで入り込んだことは一度も無い。
それは一の鳥居、二の鳥居の結界により入り込めないからじゃ。
しかし、この景色…どこかで…
「阿形! 気を張りなさいっ!」
いかん、いかんな。
吽形に本気で叱られてしもうた…じゃが…
「えー? 今日はミナト居ないじゃんー」
〔なーんか、思ってたのと違うな。大丈夫かここ?〕
「おじさんの話と違うんだけどー…でも、前来た時より気分はマシかもー」
〔そりゃ良かったな〕
ワシの目に映るのは、禍々しい霊体と……湊や景と同じくらいの子供なんじゃよ…
―――
《阿形? 吽形?》
携帯に伸ばした意識越しに湊の声が伝わってくるが、すまぬ。
しばらくそこで待っておってくれ。
この子供と一緒におる霊体に目的を聞かねばならぬ。
「…おぬし、その子に憑いて操っておるのか?」
気の量が心許ない。
ワシの知る限り、この霊体は湊たちと巡ったどこよりも禍々しい。
「禍ー、オマエ、ボクを操ってたんだなー!」
〔いや、何言ってんだよ。お前が此処に来るって言い出したんだろうが〕
ケラケラ笑いながら霊体に対して適当な話を振る子供…
操られているわけではないのか?
この子供、ワシの声が聞こえて…禍?
〔まぁいいか。ちょっと凪のために、相手してくれよ〕
「ボクのためー? うわぁー?」
禍に操られるように凪と呼ばれた少年が拝殿へ走り出しおった!
「主様っ!!」
主様との繋がりに邪気なんぞ流されようものなら、皆のこれまでの努力が無に帰す!
「何を考えているのですか、あなたはっ!」
ワシより早く拝殿にまわった吽形が禍の行動を止めた。
〔おー。止めてくれて良かった。もう少しでいいから付き合ってくれよ〕
付き合うてやるわ!
子供《凪》には傷をつけん。
背後からだと、文句は言うまいな!
〔あーはっは! おーおー、いいぞー。もっと頑張ってくれー〕
なんじゃっ、邪気が信じられんほど吹き出しおった…飛ばされそうじゃ…!
どれほどの存在なんじゃこやつ!
もう、子供《凪》は付いて来れず気を失っておるではないか!
「主様に仇なすだけでなく、人にまで手をかけるか…そこに直るが良い」
境内にあるだけの気を集めたわい…
吽形、何かあったら主様を、みんなを…湊を頼んだぞ。
〔ばっ、馬鹿! 急すぎるんだよっ! 空気読めやっ!〕
聞こえんな、愚か者めがっ!
――パァン!――
「むっ、集めた気が…散って…な…」
〔ぐぅぉ……なん…だ…〕
――貴方達…少しは加減を知りなさい――




