夏休みの宿題
こっちに来る時にケイの父親が運転する車から見た景色を思い出したけど、ちょっと比較できない速さに驚いてる。
「これが新幹線…」
アタシはケイと電車での移動を満喫している。
こっちの吽形もいるけど、引きこもり気味なんだよな…アタシのせいか?
ケイの足元には数日分の着替えと夏休みの宿題が詰められた、車輪のついた鞄が置かれてる。
“入れ忘れたことにしよう”と避けていた宿題は、見事に母親に見つかってた。
出会った頃に比べたら変に落ち着いた気がして寂しかったけど、やっぱ良い意味で子供だった。
今はそれでいいんだよ。ダメだけど。
窓側の席で石を窓枠に置いてくれたから、割とケイそっちのけで窓に張り付いてる。
町と森と川が目まぐるしく流れていって、トンネル以外は本当に飽きない。
車と違うのは、隣や周囲に居るのは見知らぬ人たちということ。
景色を共有したくて、湊から聞いたみたいに携帯で話をしているフリして話そうよ! と言おうとしたら、電車内の放送で携帯電話での通話を控えるようにと思いを遮られた。
まぁ、隣で知らない人が独りでぶつぶつ話してたら、アタシでも気になる…残念だけど仕方ない。
窓枠に置かれた石の隣に肘をついたケイも、静かに景色を眺めていた。
…乗り換えがあるって聞いたけど、忘れて行かないでね。
―――
「結、ここで乗り換えるよ」
小さな声でケイがアタシを呼び戻した。
景色を楽しんでいたのに、いつの間にか物思いに耽ってたみたいだ。
ケイが石を鞄へ回収して通路へ出る時、隣に座る人に頭を下げながら前を横切る姿を見て、そんな対応もできるんだなって…なんとなく思った。
乗り換える電車は新幹線に感じた新しさとは違う余裕を見せつけてきた。
車内は座席の間隔も広く、窓も大きい。
あぁ、これもいいな。揺れも心地いい。
道中で電車内の片側全ての窓に海が映った瞬間、思わず声が漏れて感情が昂った。
これは狡いな。嵌めやがったな?
今日のアタシの一番はアンタだ。
―――
…なんか、見えている景色は同じなのに、より魅力的に見えてきた。
海も、山も、町も、道ですらも。
アイツらやってんなぁ…
今は電車を降りてからアイツらの住んでいる町へとバスで向かってる。
実は今日、ケイがこっちに帰ることはミナトたちに伝えてないらしい。
「きっと阿吽のとこにいるから、じいちゃんとこに荷物置いたら脅かしに行こう」
「大賛成だ!」
きっとアタシもケイと同じ悪い顔してるんだろうな。
…そんなに時間は経っていないのに、久々に会えるって感じでワクワクしてきた。
「神社に行ってくるー!」
ケイが爺さんと婆さんにお土産を渡しながら挨拶を済ませると、当たり前のように家を飛び出した。
爺さんと婆さんもケイを待ち侘びていたんだろうけど、笑顔で見送る姿が見えた。
ケイの自転車が社に近づくに連れ、不穏な気配が強くなった。
こんなに町全体が気で溢れているのに、社の方だけ…
「結…あっち、なんか変な感じしない?」
夏休みの宿題なら、“見なかったことにしよう”って言えたのにな…いや、ダメか。




