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神の遣いと逓る土地  作者: 三國ぺけ
それぞれ
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準備完了


 長袖、長ズボンに帽子、そしてリュックサック。


 見慣れぬ出立いでたちの湊くんが自転車を漕ぎ、首にかけられたお守りと携帯に合わせて私たちも揺れています。

 あぁ、今日は腰の蚊取り線香が入った缶も揺れていますね。


『本日は道中の宿泊施設や民家へ立ち寄り、気の巡りが弱いところへと補っていきましょう』


『仕上げは山頂から周囲へと、ありったけの気を流すぞ!』

 

「それ、かき氷みたいでイイね! すっごい楽しみ!」


 標高はそう高くはなく、山頂まで続くハイキングコースもあります。


「秋に学校の遠足でここ登るんだよ! 山頂まで行かなくて途中までみたいだけど」


『ぬぅ? であれば、湊の楽しみを奪ってしまうことになるのか?』


「ふっふー。今日は何が違うかわかる?」


 ここで突然の問いかけ!

 山に関係ある話なのでしょうけれど、湊くんが纏うもの全てが違うんですよね…


『全部じゃな』


『服から何から違いますね』


「えっ、違うよ、そうじゃなくて…もう。…自転車が違うんだよ…」


 数ある選択肢からソレを当てるのは至難の技ですねぇー…

 …山道なのにいつもより重たそうなこの自転車は失敗なのではありませんか?


「これね、おばあちゃんに借りた“電動アシスト付き自転車”なんだ。上り坂も座って楽ちん!」


『ほぉ! …いや、おぬしの楽しみを奪ってしまわぬか、という話題だったような…』


 それが、この自転車にあるわけですかね?

 …ちょっとわかりませんね。


「遠足とか山登りのコースを歩くんじゃなくて、車で登る道をこの自転車で行くんだよ!」


『『おおぉー!』』


 …しかし、どちらが近いのでしょうか?


―――


 道すがら、宿や田畑、奥まった場所などに気を巡らせています。

 境内で“宿のお客が増えた”と宇美さんが話されていましたし、その周囲へは念入りに気を巡らせております。

 その方の良い思い出と残り、次の機会へと繋がれば幸いです。


 湊くんはハイキングコースと書かれた看板を確認した上で、車道へと自転車を進めました。


『湊くん、聞いておきますが、ハイキングコースとこちらの車道、どちらが山頂まで近いのですか?』


「え? ハイキングコースの方が距離は短いよ? でも自転車でこっち通った方が早いって」


 あぁ、ちゃんと聞いてきてくださったのですね。


『宇美に聞いておったのか?』


「ううん、おじいちゃん。昔、電動アシストのない自転車で登ったことあるんだって」


『ほほう、英彦もやるのう』


 お二人の血の繋がりを感じますねぇ…


―――


 山頂近くに開けた場所があり、湊くんはそこへ自転車を停めました。

 少し先には木々が無く柵が引かれた場所が見えています。展望台ですね。


「ふぃー、疲れたぁー」


 湊くんが木で作られた椅子へと座り、すぐに倒れるように仰向けになった拍子に――


『ぶあっ』

『あいたっ』

「ぐえっ」


 胸元にあったお守り(わたし)携帯(阿形)がこぼれ落ち、湊くんの首を絞めるように引っかかって、衝突――んっ!?


『…危なかったのう』


『…えぇ、本当に』


 これは、ちょっと考え直す必要があるかもしれません。


「ごめんごめん。…え? どうしたの?」


『この状態の私たちがぶつかり合うと、衝撃で繋がりが途切れるか、霊体が抜け出てしまう可能性があります…』


「へぇー」


 これ、心配している顔ではありませんね。


『湊! さぁ、存分に気を流してから、昼食と行こうではないか!』


「あっ! 今日もおにぎり作ってきたよ! もう吽形よりも上手になってるかもよ?」


『いただく立場として、何も言えないのですが…』


「んふふふふ」


 同時に危険を察知したであろう阿形が話の流れを変えました。

 流石ですね。


―――


 携帯に込められた気をゆっくりと上空へ巻き上げていき、それを方々へと広げていきます。


 私と阿形たち(本体と分け身)とで手分けしているので滞ることなく順調です。


「うわぁ〜! すごいや! オーロラみたい! …見たことないけど」


 ふふふ。


携帯(こちら)側は、ワシ(分け身)と帰りの為に残しておこうかの』


『そうですね。では今度はこちらから』


 阿形たちの扱った気はとても美しいものでした。

 湊くん。今日のあなたのおにぎりと、私が今から巻き上げる気、勝敗はどちらでしょうか…

 それでは、いきますよ!


――


「ははは…これもまた素晴らしい」


――


 境内からでしょうか?

 声が聞こえた気がしますが、今の私には余裕がありません。

 後で阿形に聞かなければ…

 

「すごいや吽形〜! 阿形とほとんど変わらないよっ!」


 あぁ…違いはあるのですね。

 ですが、身近な彼がそういうのです。

 私の成長を感じてくれているのです。


―――


 みんなで湊くんの作ってくれたおにぎりを食べながら、気力を養っていました。


「うーん、吽形に追い越されちゃったかな」


 湊くんが頬張ったおにぎりを味わいながら零した言葉は、勝敗などと考えていた自分の小ささを感じさせました。


『湊くん。私の気の扱いが上達したとしても、こうして湊くんが私たちの為に作ってくださったおにぎりにはかないいません。』


『そう言う話じゃないのう』


「うん。そうゆう話じゃないね…」


 えっ、なんです?


『湊くんのおにぎりだって凄く美味しいですよ? 満遍なく塩が振られて、ほら、梅干しまで! …これ、種子たねはどうなるんでしょうね?』


「ふっ、あはははは! 種子、考えてなかったや。 種子は残るのかな?」


『種子?』


「あっ、阿形食べ終わってる…種子に気付いてないし…」


 種子、私は硬くて食べれませんでした。


―――


 湊くんが無事に家に帰り着いたあと、いつになく静かになった阿形が気になりました。

 そういえば、境内から聞こえた声についても聞いてみましょうかね。


「阿形。…阿形?」


「ん? あぁ、どうしたんじゃ、吽形」


 こちらの台詞なのですが…


「何か考えごとでも?」


「うむ、まぁの」


 こんな歯切れの悪い阿形も珍しい。

 調子も悪そうですし、込み入った話は後日にいたしましょう。


 湊くんが依代どうしの衝突実験など始めないように監視が必要ですしね。


この世界の狛犬

・霊体どうし、または霊体と力はぶつかりあう。

 その結果、宿る物体から弾き出されたり、接続が絶たれることもある


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