山
「ワシよ、湊の体を預けても良いか?」
『…ワシよ…その役、任されるのはやぶさかではない。じゃが、なぜこちらに分け身を宿したか…もう忘れたのではあるまいな?』
…あっ、しもうた…
ワシの分け身は携帯に絡まって置いてきた部分じゃった…霊体としてそこから出られるわけないわ…
あぁぁぁ…分け身が居れば湊の体を任せて宮司や参拝客を躱し、境内はワシが守って完璧じゃ、などと安易に考えておった。
“吽形も狛犬網を通るのか、大変じゃの”くらいの気持ちで見ておったのに…このままではまずいぞ!
そうこう悩んでる間にも湊が境内で準備を終えて身構えとる。
当日に気づくとは、あまりに考えが至らなんだ…むぅ、時間切れじゃ…
吽形が湊に手を引かれるように狛犬網を通過するのに合わせて、ワシが湊の体へと憑く。
いかん、立つのも難しい…吽形、あやつようやっとる…
よーし、行くぞ…二本の足で立つ。
おおおぉぉ…
『面白そうじゃな』
何を言うとるか! …いや、これは面白いかもしれん。
べっ、別に恐怖もないのに足が震える…とりあえず椅子に向かおう。
こんな時に宮司が視界に入ってきおったぞ!?
おのれ…いや、体調が悪いと見れば椅子まで運んでくれるやも知れぬ!
よし宮司、早うこっちに…
「いや、今ワシと目が合ったじゃろ? なんで裏へと向かうんじゃ?」
『いや、ワシから見ても…今のおぬしには関わりたくないぞ?』
全く知らぬ間柄でないのに、こんな幼気な少年を放っておくのか?
むっ、お守りに吽形の気配。
『何やってるんですか…』
「おぉ吽形! もう終わったのか? もう戻れそうか?」
『ちょ、ちょっと、ダメです! 湊くんの体でソレはダメです!』
「むっ、う、うん。 そっちはおわったの?」
『違うでしょう! あなたイヤホンマイクもしてませんし、携帯も持ってないでしょう! それじゃ宮司さんの独り言と同じですよ!』
あっ、いかんな、それはいかん、駄目じゃ。
見よ、ワシの力だけで椅子にたどり着いたぞ、よいしょ。
鞄。鞄の中から…イヤホンマイク…イヤホンマイク、あった! これ、耳に入れる。
あとは携帯を持つ!
『ぐえーっ』
強く持ちすぎたか?
「これで宮司のような独り言には見えぬな!」
何じゃ?
視界に映った水筒を持つ宮司が…悲しげに裏へ消えていきおった…
―――
狛犬網から戻った湊が、携帯を操作しておった。
いつもなら真っ先に礼を言うのに。
いや、じゃが操作を終えていつものように礼をもろうた。
まぁ、気にすることじゃないのう。
そういえば、分け身と気で繋がっていれば記憶を共有できておったのじゃが、今は部分的に秘匿されているようじゃ。
まぁ確かに、お互いが全てをひけらかすのも違う気もするのう。
湊の帰り際に再度宮司と会ったが、湊に対して宮司がよそよそしくしておったのは何故じゃろうか。
―――
翌日。
湊の腰から下げられた缶から、蚊取り線香の煙が漏れておる。
結の活躍から賜った気は相当なものじゃった。
一番難儀であると思われた山。
こちらの解決に大きく力を貸してくれそうじゃ。
我らはお守りと携帯へ、込めれる限りの気を込めた。
携帯は分け身が宿るおかげか、台座から欠け落ちた石よりも気を込めることができた。
我らが揃い、この量の気。
結を欠いた状態じゃが、何かあっても湊を守り抜き、事を成し遂げようではないか。




