準備
青ざめて固まる阿形の狛犬像の前を通り過ぎ、建設会社の制服を着た方々は石段を測りはじめました。
「…阿形。あなたの撤去では無いようですよ。」
私も内心焦りましたが、その軽装が阿形の狛犬像をどうこうするようには見えませんでした。
全く言葉を発しない阿形と共に、彼らの姿を見守っていました。
―――
一通りの作業を終えたのか、彼らは拝殿で一礼した後、社家の方へ向かって行きました。
そちらには宇美さんの気配もあるので、報告などでしょうか。
「阿形。石段の左右に残っている印から見るに、これは…」
ほら。
早くいつもの調子に戻ってください。
「…あの宮司、紛らわしいんじゃー!」
欲しい回答ではありませんでしたね…
ですが、元気が出たようで何よりです。
「それはあなたの勝手な誤解でしょう。それよりこれ、手すりが設置されるんではないですか?」
なんで今頃、はっとした顔してるんですか…
建設会社の方々の仕事は目に入ってませんでしたか?
「手すりか!」
「いや、あくまで推測ですよ?」
「そうか! 手すりが…」
…あなた、分け身に冷静さを持って行かれたのではないですか?
―――
「おばあちゃん、決まってないことは教えてくれないんだよなぁ…」
湊くんが愚痴ともとれる言葉を零しています。
確かに景くんが連休で戻ってくる話も直前に知らされてましたね。
ぬか喜びになっては可哀想という、大人の対応な気がします。
《あの神社に手すりとか、いる?》
何言ってるんですかこの子は…
『いるわ! …しかし宮司の動きが早すぎはせぬか?』
阿形の言葉のどちらにも頷いてしまいました。
宮司さんについては、まだこちらに来られて一月ほどです。
「“一緒に社家や畑にも手を入れてたでしょ?”って言われた。宮司さんがくるのも、手すりを準備するのも僕らが行動する前から準備してたんだって思った…」
『なるほど。私たちだけでなく、町の人も同じ思いを持って行動しているのだと気付けますね』
「そっかぁ。…吽形がさ、僕が行動しなくても叶うかもしれないって話したの思い出したよ」
《ミナトー。そっちの阿吽の声、こっちには聞こえないからなー。絶対何か話し込んでんだろ?》
「あっ、えへへ。なんだったっけ?」
《ミナトぉ…》
あなたたちの助けがなければ、繋がっていないことが沢山あったと思います。
“待っているだけで何もしていないのに叶うかもしれない”
そんな感じの言葉をお伝えした記憶がありますが、それを否定して行動を起こした湊くんの力は、やはり全てのきっかけなのかもしれません。
「吽形? 聞こえてる?」
えっ? あっ、すみません、聞いてませんでした。
「夏休みになったらケイくんがコッチにくるから、その前に一回試してみようよ」
えっ、何を? あっ
“梅雨が明けたら山へと繰り出そう”
これですね!
『いいですね。そうしましょう』
また阿形に本調子ではないのか、などと突かれるのも面倒ですからね。
いや、危なかった。
「吽形も“そうしよう”って!」
《よーし、晴れた日がいいな。休みの日だよな?》
阿形が驚いた顔をしているのは何故でしょうか?
『吽形…おぬしも狛犬網を通る日が来てしもうたか…』
ん? 狛犬網…? 山の話ではない?
…あぁぁ…




