正体
「分け身…とな?」
「そのようです」
“お守りから吽形が出てきて結を助けた。”
景が発した言葉は、吽形引っ張り凧間違いなしの話題と思ったが、結の自慢のような話が主題になり、景も通訳で忙しそうじゃ。
そんな景と湊が話し込んでおる裏で、我らは境内で話し合っておる。
…下手なことを言うと、興奮した湊に何されるかわからん。
なので、あっちでの吽形は、ほとんど相槌しか打てとらん。
しかし、犯人は吽形じゃったか。
いや、結にとっては恩人じゃろうけれど。
…人ではないな。
「…良いですか?」
「うむ、続きを頼む」
「では、景くんのお守りから現れた私の件。私たちの知識では、格の高い神ならば“分霊”、同じ力を持つ自身を“写す”のですが……私では自らの一部を“移す”結果となったようです」
「おぬしは景のお守りに分霊を施したつもりじゃったのか?」
「…いえ、離れゆく友人にと、目一杯の力を込めて、そんな“思い”を贈りました」
その気持ち…まぁ、わかる。
本当に、おぬしに任せてよかったわ。
「…ん? ではおぬしが気の察知や把握に対して調子が悪かったのは…」
「えぇ、あなたの想像の通りです」
いや、言うてくれよ。
「ふふ。お守りに込めて欠けてしまった一部が、私の調子の悪かった部分を担っていたのでしょう」
…ちょっと待てよ?
調子を戻した今の吽形は、欠けた部分を補えたと言うことじゃろう?
これ、増え続けやせんか?
「阿形?」
「なっ、なんじゃ?」
「おそらくですが、私が行える分け身は、今回限りと思います」
心を読まれとる…
「あと、主様の加護が宿るお守りだったから、とも思います」
あと一つあるのう。
ん?
「分け身に制限があるのか?」
む、吽形が嫌そうな顔をしとる。
「私たちの限界なのかと」
「やっぱりか…そうじゃと思うとった…どうしたもんかのぅ…」
「…阿形? 何がでしょうか? 何か知っていたのですか?」
あっ
―――
「阿形…あなた、湊くんに似てきましたね…」
「はっは、そうか!」
「褒めてません」
そうか!
「やはり、私たちの知識や思い込みでは、補えませんね…」
「…そうじゃな」
真っ先に吽形の仮説が一つ崩れた。
主様の加護が宿るお守りにしか“分け身”を宿せない。
それがワシのせいで覆った。
――
『あなたまで携帯へと分け身を宿したとなると、しばらく湊くんのお守りには私が――』
あっ、こら、なんでこっちで話すんじゃ!?
『ばっ、馬鹿もんっ!!』
「携帯、わけみ?」
おぬし、まだ分け身で欠けた部分、補いきれておらんのではないか?
(あぁーーーっ…)
吽形が天を仰ぎ零す声。
それをワシに届けてどうするつもりじゃ…
―――
《吽形、ありがとう。結もお礼言ってる》
「吽形、すっごー!」
『…私ですけど、私じゃないんですよ?』
言葉に出すと意味がわからんな。
景のお守りの気が空になっており、あちらの吽形は顔を出さぬようじゃ。
《結がお守りに気を流して満たすって。話が聞けたら伝えるよ》
お守りを気で満たしては、無理して空にする姿しか浮かばん。
いつ聞けるんじゃろうか?
「で、阿形は携帯から出れなくなった…それは分け身なの?」
《吽形のはめっちゃかっこいい物語なのに…》
分け身にかっこいいとかそうじゃないとか関係あるかの?
機嫌の良い吽形を見ておると、反論したくなるのう…
『考えてもみよ! 梅雨に入ると会えぬと言うから、慣れぬ携帯へと精一杯に気を込めたのじゃぞ! ちょっと好奇心で機械を探ってたら…絡まって出れなくなって、その部分を残しただけで…』
《…それも分け身なの?》
け、結果的には…
「…今、阿形ってどうなってるの?」
そうか、あっちの吽形とは距離も離れとるし、そもそも気が足りず話せる状態じゃないと言うからのう。
ワシしか答えられぬか。
『気で繋がっておるので記憶を共有できておる。離れればそれぞれで考え、行動するじゃろう』
まだ気の繋がりを絶ったことがないので憶測も含むがな。
「…お社でさ、狛犬像とお守りの両方から阿吽に話しかけられたことあるから…あんまり違いがわからないというか…」
《そうだよなー。今回はいないはずの吽形が、離れた場所でヒーローみたいに結を助けてたってのが凄くかっこよかったけど、近くにいたらいつものことじゃん》
我らは明確に違うが、湊や景からすれば違いが無いか。
むしろ過剰に食いつかれんで済んだと喜ぶべきじゃな。
「…いつも阿吽はすごいんだと、また思えたよ。いつもありがとう、阿形、吽形」
《ありがと。阿形、吽形。結》
「あああぁ、ごめん、結もだよ、ありがとうねっ、結」
《忘れてたの許さないって》
「ごめんー」
ワシはどの部分を分け身として携帯へ宿したのか。
これは気が絶たれた時にわかるんじゃろうが、不安しかないのう…
この世界の狛犬
・自らの一部を“分け身”として力と共に込めることができる。(阿吽だと一回が限界)
・普段は依代となるお守りなどに気や力を込めて意識を伸ばしていた。(付喪神本体側の遠隔操作)




