記憶にございません
《吽形さぁ、こっちに来てた?》
タブレット越しの景くんの言葉に反応して、湊くんが胸元のお守りから顔を出した私を見ています。
阿形も携帯から目を丸くしてこちらを見ていますが、何のことやら。
とりあえず湊くんに向けて首を振りました。
「吽形は行ってないみたいだよ?」
《結、聞こえた? 違うってよ?》
タブレットから見えない位置に、結の宿る石が置かれているのでしょう。
枠の外に対して景くんが話しかけています。
《結がさぁ…んはははっ、だっ、だって言わないと伝わらないだろ、ほらほらほら》
タブレット越しに私たちの声や姿は伝わらないと聞いておりますが、あまり必要ないことかもしれませんね。
しかし、景くんの両の手のひらで転がされてる石と私の話がどう絡むのか、全く想像できません。
《ははは、ごめんごめん。湊と阿形がこっちにきた時さ、結が頑張りすぎて薄くなってたの覚えてる?》
「なってたねぇ」
『なっとったなぁ』
私、結の頑張りは聞きましたが、その辺りは聞いてませんよ?
…阿形。頑張ると薄くなるのですか?
私の目を見なさい。
《今日は元気になったみたいだから話すんだけど、昨日もそんな状態だったんだよ》
『…まったく…あれほど言うたのに』
私はあなたにも同じ言葉を言いたいのですが?
私の目を見なさい。
「薄くなってたことと吽形の話って、関係あるの?」
そうでした、私の話から始まってましたね。
本当に見当もつきませんが。
景くんの表情が優しいものへと変わり、結の宿る石を撫で始めました。
《あの時も阿形が気を込めてくれて、結が消えそうなのを止めてくれたろ?》
阿形が頷いています。
「そうみたい」
《あの時のゆっくりと流れ込む気とは違って、昨日は“起こされ続けた”感じの気を込められたって》
「あっ、それって僕が作ったおにぎり食べた時と似た感じじゃない? 連休の時、ケイ君も結も食べたよね?」
《どんなんだったっけ? え? ふっ、はは…そうみたい。塩が固まってるとこに当たった時の“あっ”って感じが続くって。…そうか?》
何を理解しようとしているのか分かりません。
そもそも私はそちらに行った覚えもありませんし、それ私じゃないです。
《じゃあ、吽形か》
「やっぱ、吽形かぁ」
は?
―――
『…我らもほら、得手不得手がな?』
阿形、もういいです。
「吽形とボクが作るモノは似てるんだね。んふふふ」
《ははは》
『ぬっ?』
阿形、そこに対抗意識を持たなくて良いです…
湊くんと似てる、ですか。
《吽形っぽい気の使い方ができる、吽形じゃない神様が近くにいたりする?》
『いやー…景と結がおる土地の氏神は主様より原初の存在じゃ。気を扱ったとしても、そんなことを言われるような練度じゃなかろう』
「…えーっと、結を助けたのはケイくンとこのお社の神様じゃないって」
湊くんの阿形の言葉に対する理解力が上がってますね…
結に何か言われたのか、景くんの目線が結の宿る石から胸元のお守りへ移り、それを手に持ってタブレットに寄せてきました。
《あと、このお守り。吽形が込めてくれた気がほとんど無くなってるって。結が倒れる前までは、確かに気で満ちてたって》
…?
結の気を扱う技術が上がったのでは?
…気を失った自分へ込めるなんて、無理ですね。
お守りなどへ込められた気は、扱う場合に一度そこから出す必要があります。
そんなことができる者が、わざわざ結へ?
『吽形、おぬし…何か思い出したのではないか?』
…だから違うと、何度も…ん?
『阿形。あなた、狛犬網だけでなく、電話の通信網も移動できるようになってませんか?』
『はっ?? んな恐ろしいこと出来るわけなかろう! なっ、やめんか! 湊が、うわーっ』
興味津々の湊くんが阿形の携帯を手に取り、質問攻めが始まりました。
何? 阿形? そうなの?
どうしたんだよ湊
阿形が通信網で移動してそっちに行ったかも
はっ? マジで? うわ、結、ちょっと
ボタンを押されたらビリビリするんじゃー
んふふふふふふ
さて。
本当に、なんなんでしょうね?
この世界の狛犬
・込めた気は、一度出してから扱う。込められた状態の気は、ある程度固定化されている。




