茅の輪
拝殿の前に茅の輪が置かれております。
6月末と年末、半年に一度の大祓い。
今回は6月末の夏越しの祓いとなります。
月次祭を終えたばかりなのに、宮司さんはよく働かれております。
今朝は宇美さんと共に手際よく祭具を車へ積み込んで行かれました。
「地鎮祭かのう?」と興奮気味の阿形は、どうやら先日の件でも懲りてないようです。
時間を見ては畑にも手を入れ、町の人と話し込んでいる様子。
この茅の輪も、集った町の人たちと共に編み上げたものです。
あの日感じた不気味さは、私たちの勘違いだったのかもしれません…
神事が当たり前のように行われだし、参拝する町の人も増えつつあります。
数人の同級生を連れて参拝しにきた公勝くんを見ると、湊くんが私たちに話した大袈裟にも取れる人物像に現実味が帯びました。
ここで大声を上げて驚かされたのも、独りだった湊くんへの気遣いだったと思えば腑に落ちます。
…面倒くさいなどと思ってしまい、申し訳ありませんでした…
―――
「礼をして、ひだり〜……みぎ〜……ひだり〜……まえ〜!」
今日も「おばあちゃんに教わった」と言う作法で茅の輪を8の字に潜る湊くん。
阿形は頷きながら、そんな彼を見守っています。
もはや保護者ですね。
いつものように本殿への参拝も終えたようですが、最近はこの時間も参拝してくださる方がおられます。
私は腰掛けた湊くんのお守りへと気を込めながら、ここで一緒に話していた時間を振り返ります。
…まだほんの数ヶ月なのに…どれほど濃い時間だったでしょう…それがこれまでのように話せなくなるのはとても寂――ん?
「ケイくんに聞いたんだ〜」
湊くんが鞄から取り出した物を耳に入れて…?
そして今握ってるのは景くんと競った時に使っていた子供用携帯ですね?
「…よし。阿吽、僕に話しかけて〜」
あっ! 耳のそれ、思い出しました!
宇美さんが台所で一人楽しげに話していて、「宇美にも何かが見えているのかもしれん」と阿形に真面目な顔で言わせた、あれ!
ほら、阿形も思い出したようで、微妙な顔してます。
「それ、宇美さんが通話で使っていたやつですね?」
「そう、イヤホンマイク! これを耳に入れてても、ケイくんには結の声が普通に聞こえるんだって。僕にも吽形の声が普通に聞こえてる! …耳で聞いてると思ってたけど、なんか違うんだね」
「理解いたしました。なるほど、良い考えですね!」
阿形が変な顔になってます。
説明いたしますよ?
「携帯で話している風を装えば、周囲を気にせずに私たちと話せるんですよ」
「…………おぉ? …おぉ!」
…理解したふりをしそうでしたね、あなた。
「周りは、電話越しに我らと話しているように見えるのじゃな!」
よかった、理解できているようです。
「何じゃ、これまで通り…」
…空気が変わりました。
阿形も気付いたようです。
「…でね?」
阿形の笑顔が一瞬で凍りつきました。
私の心もそんな感じです。
―――
「嫌じゃよ?」
「まだ何も言ってないよー?」
湊くんの表情と、手に持った携帯が…言葉よりも物語っています。
「今日の夜から暫く、雨が続くんだって」
梅雨に入りましたか。
恵みの雨、ですね。
「しばらく、お社に来れなくなるかもしれないから――」
「吽形! おぬしも湊を止めんか! あっ! 自分ではないからとそんな…」
あなたも言いましたよね。
こうなった湊くんは止めるのが困難だと。
「お守りには吽形が気を込めてくれたから、他に普段から持ち歩くものなんて…ね?」
景くんと再会した連休の後、子供用に制限された携帯を持つようになった景くんと繋がるようになったそうで、最近は持ち歩くようです。
「ね、じゃないわっ! 理解できぬ代物に意識なんぞ移せんぞ! そこらの石の方がマシじゃ!」
「周りに誤解されないように対話する方法を考えていただいたのに、石ころを持ち歩く変な子と誤解させるおつもりですか?」
「おぬしっ? おぬしぃぃ!?」
諦めましょう。
私も逆の立場なら、諦めています。
「嫌じゃあぁぁぁ!」




