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一拍


 宮司の異常さに気がついたワシは、息を飲んだ。


 思い起こせば、なんの違和感もなく当たり前のように近づく気配を感じておった。

 そしてワシは宮司が声を出すまで、それを空気のように受け入れておった。

 

 吽形の顔を見るに、こやつも宮司に気が付かなかったようじゃ。

 我らは言葉も思いも伝えれぬまま、宮司がゆっくりと息を吐き、目を閉じるさまを見ておった。


「さて…」


 なんじゃ…わざとらしく感じるほどのゆるりとした動作、静かに重たい言葉。

 普段なら急かすであろうが、今のワシにはこやつの次の行動が恐ろしく思えてならぬ…


(阿形…)


 この状況で伝えれるのか、ワシは目だけを吽形へ向けるので精一杯じゃ…


(この宮司は――)


 パァン!


 むぉっ??


 ――なっ、柏手?

 気をまとった波のようなものが、我らを押し流すように広がった…ように感じた。

 

「この良き自然と景色に感謝申し上げます。明日もまた、良き巡り合わせを賜りますよう」


 夕日へ向けた柏手を解き一礼すると、宮司は拝殿へと向かい深く頭を垂れ、本殿の裏へと消えていった。

 我らはその姿が見えなくなっても、消えた先を無言でしばらく見続けた。

 

―――


 いくら湊に帰宅を促しながら吽形と話し、凪のことを考えておったとしても…近づく宮司に気付いておったとしても、ソレを怪しむ余裕はなかった気がしてきたぞ。


 …やめじゃ。

 きっとそういうことじゃ。


「吽形…今は純粋に新しい宮司と歩めることを喜び、人影の件から離れようではないか…」


 踏み込みすぎてはならん気がしてきた。

 吽形もどこか険の取れた顔でこちらを見ておる。 


「奇遇ですね、阿形。あの時、独り寂しく留守番していたからか…少し意固地になっていたのかもしれません」


 険なんぞ取れておらなんだ。

 …そこはもう許してくれんか。


―――


 吽形へ伝えそびれておった商店街での活動。

 自転車を押す湊と共に商店街からゆるりと気を流し、巡らせてきたことを伝えた。


 砂浜を満たした気は海や道へと徐々に流れ、商店街を満たしつつある気は周囲の小道や田畑へと巡り、山より低い土地をゆったりと巡っておる。

 もしかしたら、訪れた宮司も、月次祭つきなみさいに参列した者たちも、その気に惹かれて来てくれたのかもしれんな。


「あなたと参る石(まいるすとーん)について談義したときは、半分絵空事だと…そんなに上手くゆく筈もないと思いましたが…主様の守護するこの土地は、間違いなく潤ってきております」


 思いました? 言っておったぞ。


「…じゃが、此度のおぬしのように、些細なことにも気を向けるべきじゃと、話しながら思うたわ。今後も共に頑張ってこう」


「どうしたんですか阿形? ふふ。えぇ、これからもよろしくお願いいたします」


 そんな話をしながら、今後は吽形とも湊の持つお守りを交代で担う話になったことじゃし――。

 ちょっとした気持ちから、お守りへと意識を寄せてみたんじゃが…


《は? 凪の親? だって…入院してるお母さんしか居ないんじゃなかったっけ…》


 あぁー…ワシの馬鹿ぁ…


この世界の狛犬

・阿形は多くの中から個人を特定、判別するような気の捉え方が得意

・吽形は気そのものを判定、判別するのが得意

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