新しい宮司
数人の見知った人間が境内に訪れておった。
そやつらが拝殿に集まると、長い間封じられていた賽銭箱から板が取り除かれた。
あらかじめ宇美の姿を確認しておるので悪意のある行動でないのは間違いないじゃろう。
その宇美から零れた言葉は境内で行われていることに照らし合わせると…期待せざるを得ぬ。
「これから、よろしくお願いしますね」
宇美の笑顔が見えるが、心の色は少し寂しげに感じられる。
兄や父を思い出すのかも知れぬな。
「はい。ですが、なにぶん新参者ですので…暫くは宇美さんのお力、頼らせていただきます」
「ふふふ…えぇ。もちろん」
―――
「阿形! 吽形! 新しい宮司さんが来たって!」
その日の夕方、社に訪れた湊が石段を登り終える前に発した言葉が、宇美と挨拶を交わした者が宮司であると結びついた。
宇美の兄がここを去ってから、どれほど時間が経ったろうか…どれほど待ち望んだか。
「…うむ。しかし湊、気をつけねばならんぞ。この社はこれまで以上に誰が何を聞いているかわからぬ場所になるのじゃ」
自らの口を手で塞ぐ湊の笑顔は、相変わらずめんこい。
今しか見れぬ仕草なのじゃろうなぁ…
そのまま湊は我らの前を通り過ぎて拝殿へ向かい、封の解かれた賽銭箱に気付いたようじゃ。
新しくなった注連縄も、どっしりと存在しておるぞ。
「んっふふふ…僕が一番〜」
湊は賽銭を納め、新調された鈴緒を引き、見覚えのある本坪鈴を鳴らした。
一番かどうかは…おぬしの祖母が既に「私が一番」とか言うて参っておったが…触れないでおこう。
湊の鳴らす鈴の音と、柏手の乾いた音が響く。
「湊くん、嬉しそうですね。私もつられてしまいそうです」
吽形、もうつられておるよ?
…おそらくワシもな。
―――
6月の中旬。
この日の早朝より、月次祭が行われた。
平日であるにも関わらず、拝殿には二十人程の人が参列し、主様へと供物が供えられている。
ワシも吽形も、心から待ちわびたこの状況を無言で見守っておる。
宮司の一礼の後、宇美の補佐とともに祭りは進み、奏上される祝詞に懐かしさと感動を覚えた。
うん?
その最中、主様への報告となる祝詞の一節にワシは違和感を覚える。
“新たに満ち来る志と清らけき気を以て”とな? 宮司殿…?
しかしその違和感は、宮司の大麻によるお祓いで静かに薄れていった。
滞る事なく進んだ祭りは拝礼の後、宮司の言葉で場を閉められた。
「以上をもちまして、月次祭を執り納めます…お疲れ様でした」
我らは参列者が鳥居をくぐるまで見守った。
―――
宇美と宮司、残った数人で片付けを済ませ、早いうちに境内から人は居なくなっておった。
宮司は先日のうちに境内を清掃しながら見てまわっておった故、今日はもう社に来ぬかもなぁ。
「この地の宮司ともなれば兼業となろう。そうそう境内を彷徨く暇はないかもしれぬな」
「宇美さん達が幼い頃も農具を扱っていたと言ってましたね。裏の畑を使われるのであれば、お見かけすることもあると思いますが…」
宇美、農具と聞くと、また脳裏にあの状況が思い起こされるんじゃ…やめてくれ吽形…
「どうしました? 阿形?」
「ん? いや、そうじゃな。近くに居ることは多いかもしれぬな」
なんじゃ? 吽形が真面目な顔をしとる。
「以前、本殿の裏に人の気配を感じたとお話しましたよね?」
言うとったな。
「参列者の中におったか?」
「…いえ、同じではないのですが、似ている、というか…」
なんじゃ煮え切らん…
唸り悩む吽形に気を取られておると、石段を駆け上ってくる笑顔が近づいておった。
「阿形〜! 吽形〜! どうだったー?」
こやつめっ!




