向かう先
夕方。ケイとミナトが連絡を取り合っていた。
ミナトの話は、浄化の仕事を受けたけど、そこに何も無かった。でも、“ケイが酷い目にあったくらいの邪気の痕跡があったと吽形が言っている”と、そんな内容だ。
…今思い出してもゾッとする。
そして、最終的に阿吽とアタシでなんとかしたようなものなのに、それをどうにかした奴がいるかもしれないのが気に入らない。
…阿吽ほど献身的で研鑽を重ねている奴らを上回れる奴なんて、狡いだろう…
「ねぇ、ケイがよく読んでいる漫画みたいに、修行とかすればアタシらも成長するかな?」
ヘッドホンをしていても、アタシの声は“頭に聞こえる”と言っていた。
そんな慣用句、これまで聞いた覚えはないけど…まぁ、届かないよりはいいか。
「あれはなぁ…夢の詰まった世界というか…人にできないことを描いているから面白くて読んでいるというか…だから多分無理」
アタシは人ではないけど?
「結。俺、たまに結が考えていることがわかるんだ」
へぇ。
「聞いてあげるよ」
「“アタシなら出来るかもよ”とかそんなトコかな」
「あはははは」
当ててきたな〜って少し嬉しくなってたら、ケイが溜息をつく姿が目に映った。
「結? 今度無茶したら、結のこと嫌いになるかも」
…ごめんなさい。
―――
夕食を終えたケイが両親と見ていたテレビに、信じられないくらいに鍛え抜かれた肉体の人間が映っていた。
ケイが読む漫画に描かれた人間に勝るとも劣らない美しさと力強さ。
故郷でも細く引き締まった身体の人間は沢山いたが次元が違う。
あんな肉体だったら…邪気のうねりや衝撃にも耐えれるかもしれない! …邪気の濁流の中で笑顔で話し合う、あの肉体のアタシとケイが目に浮かんだ。
「けっ、ケイ! 漫画の内容は夢で、人には成し得ないって」
話しかけられたケイもテレビを見て一瞬だけ目を見開いていたけど、アタシに返しているわけではない言葉をこぼした。
「…どれだけの時間をかければ、あんなになれるかな?」
ソファーの上、母親の彩はスマホを持ったまま、父親の直樹に寄りかかるようにして眠っている。
ケイの声に反応した直樹が、そんな彩を確認して頭を撫でた。
「そうだなぁ…生活の全てが積み重なったもの、人生そのもの。そんな次元だろうから…時間だけで表現するのは失礼かもしれないなぁ…」
はい、修行やめー。
あの美しさは人生をかけたもの。そりゃ輝くよ。
今のアタシでは無理。
ケイ、なんで今アタシを撫でたんだよ、バカっ。
なんで笑ってんだよ、馬鹿っ!
―――
「なので、経験を積んで“達人”を目指したいと思います」
ベッドで横になったケイの枕元で話しかけた。
シュッシュッ!
アタシの拳が空を切る!
「くぁ…うん。それが一番俺たちに合ってるよ…わかんないことするより全然…」
そうだろう、そうだろう。
余計なことを考えず恩返しを続けていれば、見知らぬソイツも超えれる気がする!
シュッシュッシュッ!!
「電気消すよー」
ピッ
暗闇の中、相手の気配を探り、その位置を知る…そこだっ!
…アタシたちは明るさなんて関係なく気配を探れているから、これいらないなぁ…
付喪神目線の漫画とかないの?
気がつくと、ケイの寝息が聞こえていた。
夜はつまらない…




