いやですー
涼しさが陰り、徐々に湿度が増す季節。
それでも今日は曇り空のおかげか、湊くんと出会った頃より涼しく感じます。
こういった不安定な気温は、服装選びを左右すると困り顔の湊くん。
私たちもある程度は気温を感じますが、そういったものの影響は受けにくいようです。
そんな湊くんの姿を見ながら、納得できていなかったことを念頭に話し始めましょう。
「阿形。景くんは結に任せることができますね?」
言ってました。
言ってましたよね?
「うん? ワシはそう思うとるよ?」
「僕もそう思うよ。阿吽とは全然違う感じだけど、結と二人でも安心して仕事できるよ!」
言いましたね?
「では阿形。今日からこちらでの仕事は、これまでのように交代で良いのではないでしょうか?」
「そうじゃな」
…
何でしょう、私は勝手に景くん専任だと思い込んでいたようです。
決めつけて取った行動を省みて、少し恥ずかしくなりました…
―――
いくつかの仕事をこなして慣れてきた私たちは、手をつけていなかった重めの仕事へと目を向けました。
湊くんに聞かせるため、私が再認識するため。
阿形の言葉に耳を傾けます。
「今となっては、湊の足だけで行ける距離に、これまでのような軽い仕事は残っておらん」
湊くんが真剣な顔になりました。
この子は本当によく見えている。
「結の件を見ていたと思うが、一度で解決できるようなものばかりではない。今日からの仕事は、現地に赴いて様子を見て、その結果諦めることもあるじゃろう」
阿形、説明に追加しますね。
「狛犬網で受けた話だけでは、どれほどの仕事の規模かわからないことがあります。この前、景くんが一人で向かった場所のように。」
「阿形と吽形、結がいてやっと解決したんだもんね…」
結の場合、あの出来事をきっかけに成長を…いえ、危険が伴わないと成長しないなど、子供たちを巻き込んでいる状況では声に出せません。
「実はな…今日様子を見に行こうとしている場所は、そことよく似ておるようじゃ」
湊くんの表情も固まりましたが、私もです。
「…結がいてくれたから助かったような場所です。主様の御守りが無ければ、景くんも無事ではなかったでしょう。湊くん、行くとしても絶対に先走らないことを約束してください」
湊くんの表情が砕けるように困り顔になりました。
「そこにいたのが僕なら、多分逃げてると思うなぁ…」
「それは無いな…」
「それは無いですね…」
―――
私と湊くんは、以前起こした地蔵の前を通過しました。
「吽形、嫌な感じは全く無くなってたね!」
『私たちが清めただけでなく、地蔵が本来の力を発揮できているのです。今、あの場所はこれ以上ないくらい安心でしょう』
「…いいね!」
私たちの行動が結果を残したのです。
一緒に誇りましょう!
『湊くんのおかげですよ? さぁ、様子を見にいく場所はこの少し先になります。気をつけて行きましょう』
…
「…ねぇ、吽形。全然何にも感じないけど、こっちであってるの?」
あれぇー?
微かに感じる広範囲に散らばった濁りは、大きな渦から撒き散らされたもののようなのですが…はて?
『阿形に聞いてみますので、動かずにお待ちください』
「…わかった」
『絶対ですよ?』
私は阿形ほど器用に意識を切り替えれません…
景くんのときのように危険な目にはあって欲しくないのです。
―――
「阿形、断片的に伝えていたと思いますが、どう解釈されますか?」
「これまでに比べれば、おぬしは良くできておる。状況から推測されるのは、中心となる渦が何らかの力で消滅した、じゃろう」
その土地の主祭神では解決が困難であると受けた仕事ですので、そのまま自然と浄化されることは無さそうですしね。
「湊くんや景くんのような存在が、渦を消した? でしょうか」
「この仕事を受けた後、その社とは狛犬網で繋がっておらぬ故、解決したかの話を聞けておらぬからのぅ…その存在の話を聞くにしても、中途半端な推測で確認は失礼じゃろう」
「えぇ。安全を確保しつつ、もう少し踏み込んでみます。その後に社へと伺います」
「あぁ、湊をよろしく頼むぞ」
「えぇ。任せてください」
―――
湊くんには、“ゆっくり安全に中心へと向かう”と伝えたのですが、真剣な顔とは別に好奇心が溢れているのがわかります。
境内のあの真剣な表情、もしや私たちを安心させるための作り物では? だとしたらなんて子っ!
「吽形、さっきから見えてたけど、あえて聞くよ?あの壁に囲まれた家がそうなの?」
『…はい。そのはずなのですが…』
「わうっ! また急に…阿形と吽形の気の流し方、全然違うから慣れないや…」
湊くんを守るためにと、体へ気を流したところでした。
その違いは、阿形と私の練度の違いなのでしょう…精進いたします。
建物を囲む四方の壁。
景くん、結と一緒に行ったあの場所と違うのは、門が開かれていること。
「これ…門が空いてるから、気も巡って浄化された――とか?」
その場合、周囲に飛び散っている濁りも消えているでしょう。
短時間で渦の中心が消えたのでは…推測ですが。
「敷地内も…空いている門のおかげで気が巡っています。それが改善された要因の一つではあるようです」
「うーん?」
私と湊くんで悩んでも、きっと答えは出ませんね。仕方ない。
阿形へ状況を伝えた私は、依頼元の社へ行き、主祭神へ報告しました。
主祭神も原因が消えていることを把握されており、私たちの報告を待っていたようでした。
対応したのが私たちでないことを知り、困惑されている様子でしたが、それでも気を賜われたのはありがたいです。
本当に解決したのか、突然問題が復活しないか、そんな話をしていたところ…
「このお守りを置いて行って、吽形が何日か見張っておくのは?」
…
なかなか、酷なことを仰られる…




