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人影


 ワシと(みなと)(けい)の町に行き、吽形(うんぎょう)に怒られた日。

 

 鳥居を潜る湊の背中を見届けた後、(ゆい)の思いをワシの解釈で吽形へ伝えた。


「今思えば、結がそういった行動に出たのも判る気がします…私も同じ立場なら、皆を安心させるためにと、似た行動をとったかもしれません。」


 いや、おぬしはどうじゃろう?

 自分以外に対して、それぞれに適した行動を促し、尊重する。

 そして焦ることなく、自身が出来ることを見つけては粛々(しゅくしゅく)(こな)す気がする。


「何にしてもあやつは、思いに(たが)わぬ力をワシと湊に見せてくれた。景との活動については口を挟む必要がないと感じた。」


「えぇ。阿形あぎょうにそこまで言わせるのなら、あちらの事は結にお任せしましょう。」


 うむ。

 予期せぬ形ではあったが、結と景には感謝しかない。


「阿形。あとはあなたがもう少し…」


「あぁもう、わかっておる! 何度も聞いとるよ!」


 ちょっと込み入ってて、おぬしからの連絡に気づけなかっただけなんじゃ…


―――


「そうです、伝えそびれていました。公勝きみまさくんが境内に来たとき、本殿の裏…社家しゃけの方にも人の気配を感じたのです。」


 うん? 宇美あたりがったのでは?

 特別なことではなかろうに?


「うむ、それが?」


「いえ、こうして話ながら大したことでないと思えてきたのですが…何故か気に掛かりまして」


「なんじゃ? 普段は教えて欲しいことを教えぬくせに」


「…意趣(いしゅ)返しですか?」


 目が怖っ?

 ワシも普段思っておることを言うただけじゃ! おりが悪かったのう…


「いや、そんなおぬしが気にしたのじゃ、裏の人影にも気をつけておこう」


「…」


 何か言うてくれ、怖いわ。


―――


「のぅ、吽形。主様はどこまで見通されておるのかのぅ…」


 縁は湊から始まり、景、結と繋がった。

 思えば宇美をはじめとした町の人々とも繋がっておった。

 きっとこれから先も、縁や繋がりが続いてゆくじゃろう。


「…ワシは湊との出会いから、何かが始まったと思っておった。じゃが…どうも違ったようじゃ」


「ふふふ。ここに湊くんがいれば、“神様に聞いてみたら?”と言いそうです」


 ワシはゆっくりと息を吐いた。


「聞けば得られる答えなら、真っ先に聞いておるよ…」


「でしょうね」


 いや、少しは考えるぞ?

 考えて判らぬことに時間を割かぬだけじゃ。


「ですが阿形。答えを聞けたとしたら…きっと湊くんや景くん、結との関係は今より淡白なものだったかもしれません。あなたの言う“思い”はもっと浅いか、存在しなかったと思いますよ」


 答えを知っておると、ワシは最短距離で行動するだろうと…おぬしは言いたいのだな?

 …そうじゃな。


「…ぐうの音も出ぬわ」


「ふふふふふ」


 してやったりの吽形を見るのは癪じゃ。

 ゆっくりと澄んだ夜の空気を吸い、ワシは月を見上げた。

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