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この町


――阿形と湊が、結と景が住む町の社へ狛犬網にて赴き、吽形が留守番していたとき――


〈ねぇ阿形。鳥居を潜ったら吽形が待ってるお社に帰っちゃうけど、こっちから出たらどうなるの?〉


 ここの社に通じる二つの参道。

 どちらにも鳥居はあるけど、ミナトは通ってきていない道を見てる。


 アタシもわかってきたけど、ミナトはケイよりも危なっかしい時がある。

 阿形を見るとアタシの視線に気付いたのか…諦めたような表情を見せた。


「なぁミナトぉ…鳥居と阿形、阿形とミナトが繋がって見えるんだけど…あんま離れない方がいいんじゃない?」


〈うむ。わからぬことが多い中で、送った気で湊を包み、守れることはわかっておるのじゃ。離れないに越したことはなかろう。〉


 そんなよくわかんない技を使ってまで会いに来るとか…

 いつもなら首から下げたお守りから出れない阿形が、今は社にいる時とさほど変わりなく動いている。

 明らかに便利なんだろうけど、ケイの言う通り、阿形から鳥居とミナトに繋がる気が絶たれたら…と怖い。


〈じゃが、安心せよ。この土地、主様との縁深き…いや、始祖とも言える神の気で満ちておる。ワシもお守りに込めたわずかな力しか持たぬ状態ではない。以前の吽形のように気の繋がりが絶たれても、手繰ることはできよう〉


 こいつが自信を持って言うなら、そうなのか。


〈結もおるしの。〉


 巻き込みやがったな…言われなくても、ケイとミナトは守るさ。 


「来た鳥居を潜らなけりゃ、そのまま社の外に出れるんだろう? このまま皆で仕事をした方が安全じゃないの?」


 ミナトとケイの嬉しそうな顔と、阿形のうらめしそうな顔が目に映るけど、どうせそうなっただろう?


―――


 阿形もミナトも普通に社から外に出て、アタシたちと町を歩いている。

 

 仕事として知らされている場所の一つに向かっているんだけど、ミナトがこの上なく上機嫌だ。


 思えば、見知らぬ土地に移動できて、人目につかず飛び回れるなんて狡くないか?

 今のミナトは幽体なので、風になびく旗のようにケイの肩にとまったり、あぐらをかいた状態でケイの横を並走したりとやりたい放題だ…ケイがその都度羨ましそうな顔と、そんなミナトの笑顔につられてニコニコしてる姿も、アタシは羨んでいる。


 鳥居から伸びて繋がっている気は、阿形が丁寧に気を紡いで延長して、アタシが風に乗せるように流して周囲の電線に沿ってかけ続けている。

 

〈考えたもんじゃな〉


「だろう?」


 しかし…こいつらなら、いずれ本当に電気や電波に乗って移動し始めるんじゃないのか?

 電線を見上げてそう思った。


 そんなアタシたちだけど、傍から見たらケイ一人で歩いてるようにしか見えないはず。

 だから道中はケイ一人だけほとんど無言。…なのに機嫌は良さそう。


「…ケイ。なんでそんなに嬉しそうなの?」


 こっそり聞いたら、小さな声で返してくれた。


「オレたちの住む町を案内できてるから? かな。」


 オレたち。いいね。

 触れれないけど、頭を撫で回した。


―――


 大きな建物、病院の前に到着した。


「結。あとは任せたよ!」


 医療という点では、アタシたちじゃ何にも手伝えない。

 けれど、患者の心や、取り巻く環境を改善してあげることはできるかもしれない。


「阿形。問題でも起きない限り、静かに見守ってて」


 アタシとケイで何ができるのか、見てて。


〈うむ、見届けようぞ〉

〈がんばれ、結〜!〉


 病院を視界に収めて、病院を包むように気を探る。

 建物の中に繋がる様々な場所を見つけて、気を送り、流れを作る。ゆっくり、ゆっくりと。


 少しずつ、建物の中から濁った気が押し出されるのを感じる、けど…


「あっ、これ…ケイ、ちょっと時間かかるかも…」


「ん。大丈夫?」


 石を優しく撫でられた。


 建物の気密性もあるけど、大きすぎて循環させきるほど、力が続かないかもしれない。

 ん…ちょっ…ちょっと無理かも…

 

〈結。そこまでじゃ〉


 阿形からアタシに気を込められているのがわかる。

 …ずいぶん楽になった。


〈何度かに分けて繰り返せばよかろう。この規模の建物を一度でどうにかしろと言われても、我らでも無理じゃ〉


〈砂浜だって、何回も繰り返したしね〉


「結、無理したの?」


「…だって…」


 ケイに石を撫でられた。


「…ごめん。ミナトと阿形に、アタシとケイだけでも恩返しできるんだよって、見せつけてやりたかったんだ…」


「結…」


〈ケイ。社まで戻ったら、余力を見て結に気を流す。慌てず戻るぞ〉


 ケイが頷いたあたりで、アタシは休むことにした。


―――


 気がつくと、社でケイに撫でられ、ミナトと一緒に覗き込むように見られてた。


「…ケイ? ミナト?」


〈二人とも、結は大丈夫じゃぞ〉


「なんかゴメ――あああぁぁぁぁ…」


 ケイに手のひらでもみくちゃにされたけど、色々と誤魔化してくれているようで嬉しかった。


 その後、社の主祭神に報告すると、阿形と似たようなことを伝えられた。


 大きな建物の中となると、どうしても気の巡りが悪くなりやすい。

 病院に限らず、そういった場所は人の出入りも多く、邪気や穢れも運び込むので定期的に赴く必要があるだろう。

 場に満ちて巡る気だけでは届かないのは、僻地だけではない。アタシのような力は心強い、と。


 主祭神の神気が場を気で満たし、阿形がそれを賜った。


〈結、ケイ。無事に”恩返し”として気を賜った。主様にも嬉々としてお伝えできるぞ。ありがとう。〉 


「なんか失敗しちゃった気分だけどね…」


〈結は凄かったよ。僕もケイくんや結に負けないように、あっちで頑張るからね!〉


 阿形に礼を受け、ミナトに撫でられた。


「ありがとう。ケイと一緒に、こっちで頑張ってくよ。」


 ケイには相変わらず手のひらで転がされているが、嬉しさの感情が乗っているのがわかる。


「結は任せとけ!」


 ふふっ。


この世界の狛犬

・付喪神本体側の力は、お守り越しの力を遥かに凌駕する


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