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ふるさと…


「ふるさと…納気…いや、納…徳?」


「うーん、”ふるさと納気”は語呂が悪い気がします。”ふるさと納徳”…徳を納める…仏教寄りですかね…結の提案が嬉しいのはわかりますが、気を納める行為に名前は必要でしょうか?」


 語呂はともかく、別に仏教もええじゃろう…積んだ徳で得た気を収めるんじゃから…


「ケイを見守る役目を自らに課せながら、さらに気まで収めようと言うのじゃ。あやつと話す時、その行為を讃えて名前があっても悪くはなかろう?」


「一部解釈に齟齬がある気もしますが…さておき、”ふるさと”の部分はいらないのでは? いっそのこと、”気納め”とかはいかがでしょう」


 むっ…確かに、少々頭が硬かったかもしれん…


「…そうじゃな。”気納め”として進めていこう」


「はい。阿形、これは決定ではありません。結から何か言われたら変えていきましょう」


 まぁ…そうじゃな。


――少し前――


 ケイのお守りには吽形が気を込めたままになっておる。


 今住む土地へと帰っていったケイとは繋がっておらぬが、ケイに結がついておる今、いざ何かあった時の保険になるかも知れぬ。


 なので、湊のお守りには、ワシが気を込め続けることになった。


 ケイがいた時のように、お守りへと意識を送り続けるのはズルいと吽形に言われたので、必要な時にだけ湊から呼び出してもらうこととなった。


 そして、我らが決めた“必要な時”は、それを決めた夜に訪れた。


『なんじゃ、湊?』


 “必要な時”、そうは言っても、思いつく大事などなく。

 軽い気持ちでお守りへと意識を移すと、目の前にケイの姿があった。


『これは…タブレット越しに、ケイと繋がっておるのか』


「…そう。ケイくんのお父さんに頼んでタブレットを借りて連絡してもらったんだ。…吽形なら驚いてくれたんだろうなぁ」


『いや、そんな期待されてものぅ…』


 ケイたちと一緒に行動した時に、直樹とケイが似たようなことやっとったわ…

 …確かに吽形なら…驚いたのかも知れんが。


 じゃが、湊の本命は、発せられた言葉とは違うところにあったようじゃ。


「んふふ。どう、ケイくん。聞こえた?」


《うーん、ミナトの声しか聞こえてない。…結もわかんないって》


「そっかぁ。もう一度、結にお願いしてもらっていい?」


《オッケー。――。どう?》


「阿形。今、結の声聞こえた?」


『いや、結の宿る石は見えるが、霊体も声もこちらに届いてはおらぬ』


 湊とケイがタブレット越しに目を合わせて頷いた。


《阿形。結とこっちに帰ってから、家の近くに狛犬のある神社を探してみたんだ》


『ほう?』


「ほう、だって」


 あっ、これ煩わしいのぅ?


『すまぬ、湊。一旦最後までケイの話を聞く。相槌まで伝えんで良いぞ?』


「えへへへ」


 あっ、こやつわざとやったな?…許そう。


《でさ、見つけた。近くにあったんだ》


―――


 ケイとタブレット越しに対話した翌日。


「阿形、湊くん。あなた方が狛犬網を通るたびに留守番しているから言っているのではありません。これはどこか心配が残る技です。利用するにしても、なるべく早く戻ってきてください」


「うん、わかった」


 吽形の心配をよそに、湊は軽く返事をする。

 吽形とお守りの繋がりが断たれた時を思い起こすのかも知れぬが、狛犬網の切断は…これまで経験したことがなく、想像が難しい。

 じゃが、その際にどう動くべきかは考えておかねばなるまい。


「吽形、留守を頼むぞ」

「よろしくね、吽形」


 狛犬網を通る直前に「まったく…」と、吽形の言葉だけが耳に残り、そして次の瞬間には、昨日タブレットで確認した映像と同じ社の前に到着しておった。


〈〈お邪魔いたします〉〉


 拝殿付近にいるケイの姿を確認した湊が、ふよふよとした歩みで近づいてゆく。


〈ケイくーん!!!〉


 ケイの腰にある鞄から、結の姿も確認できた。


 ケイも湊に気づいたのじゃろうが、見慣れぬ姿に驚いているようじゃ。

 あのケイが周囲を警戒して近づいてくるとは思わなんだ。


「ミナト…あはははは!ミナト!!」

〈うわぁー…あはははは!〉


 ケイにお守りの加護があっても、見えるだけで掴む、触れることはできぬようじゃ。

 じゃが、全く干渉できないわけではなく、湊の霊体が揺らいでおる…まずいのでは?


〈いや、ケイ!雑に扱うでないぞ!?今の湊は肉体に守られておらぬから、ちょっとしたことが大事に繋がるやもしれんのだ〉


「えっ、えええぇぇ!」

〈んふふふふ〉


 途端にケイが飛び退いたが、本当に元気が溢れておるな…


―――


 社の本殿に向けて我らは手を合わせた。

 これから、何かとお世話になることを含めた報告と共に参拝を終えた。


 なだらかな山の頂上付近にある社のようで、見下ろす先には家々が見える。

 大きな社ではなく、本殿正面には短い参道と鳥居、側面には石段と鳥居が見える。

 社と主祭神の繋がりが強いのであろう。神気は満ちて、土地は気で満たされておる。


〈電話とか、アプリで結と阿形が見えたらよかったのにね。それで伝わってたら、狛犬網じゃなくて、タブレット越しとかで移動できたかも知れないのに〉


 何、さらっと恐ろしいことを言うんじゃこやつは…

 移動した先で通話が切れたら、我らがどうなるか想像もつかぬぞ…


「…あはは…」

「移動できたとしても、アタシは絶対にそれしないからね…」


 あのケイも苦笑いじゃ。

 ワシも結の言葉に頷いておこう。


〈結よ。慣れぬ土地に来たばかりと言うのに、気納めの件、すまぬな〉


「気納め? …そっか、”ふるさと納税”ってそのまま伝えてもらったけど、納税じゃないね。仕事の件は、ミナトと同じことしとかないと、ケイが拗ねちゃうからさ」


「拗ねないし」


 ケイの言葉に結が笑っておる。数日でこんなにも表情が変わるものか。


「こっちでは場にある気を巡らせて、邪気や穢れを薄めて流すような仕事をもらうことにしたよ。賜った気は、しっかり狛犬網から受け取って」


〈結…うむ〉


「これで、アタシの生まれた土地に恩返し、できるといいな」


 ”恩返し”か、いいのう。

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