参る石、砂浜(海)完了
――ケイと結が帰る日――
ケイたちと出会った連休最後の日。
朝食を終えてすぐ、ケイはアタシを詰め込んだカバンを雑に持ち上げた。
何かにあたってアタシの宿る石が欠けたら、どうなるんだろう…
「ミナトんとこ行ってくるー!」
元気なケイの声を聞いていると気持ちいい。
昨日は、いじけたケイの尻を蹴飛ばしたい気持ちと、元気になってほしい気持ちがごちゃごちゃしていた。
一番は、そばにいるみんなが元気でいてほしい。
「ケーイ、夕方には帰るけんねー? 3時くらいには戻ってきなさいよー?」
「は―――い」
「まーた湊と神社行くんか? よう飽きんなー」
遠くから聞こえた母親の声のあと、外から戻ったばかりの爺さんに鉢合わせた。
「おかえり、じーちゃん。神社じゃなくて、今日は海に行くよ」
「はぁ? 海? まだ早かろうに? 何しに?」
『確かに…』
吽形の馬鹿…ここで変に言葉挟むと、ケイが混乱するのわかるだろ…
「えっ、おっ、…ゴミ拾い…」
おっ、ってなに?
泳ぐ?
「おぉ? そうか」
爺さんは被っていた麦わら帽子を、ケイの頭にかぶせた。
「和子ー。火バサミと軍手ぇー」
「えー? そこにー、玄関にどっちもあるでしょー?」
「あぁ、あぁ。ゴミ袋もくれんねー」
抗えない流れに、ケイは身を任せるように無言で立っている。
歳をとったケイも、この爺さんみたいに話を進めそう…おんなじ血が流れてるな。
たいしてやることは変わらないと思うけど、話がズレると困るし…吽形から阿形に連絡してもらおう。
『阿形には伝えておきました』
「…ありがと」
―――
今日は社に寄らないで、初めから海に集まった。
ケイもミナトも麦わら帽子を被り、軍手に火ばさみとゴミ袋をもっている…いいね、可愛らしい。
もともと最終日は、みんなで町を気で満たして回ると話してて、昨日は早めに社に戻ってから、お守りに気を込めていた。
そのとき、気を込める阿吽の姿を見ながら…これはアタシにできないだろうなと思った。
大丈夫、別の方法でみんなの力になるよ。
「阿形、吽形。ゴミを拾いながら移動するから、気を流したいところがあれば言ってね」
その声と共に、二人は火バサミでガチガチと音を立てた。
『ぬぅ、やる気じゃのぅ…』
『はい。よろしくお願いいたします』
「気を均すのは、アタシに任せて」
人は少なくても、浜辺には海から打ち上げられるゴミもあって、それらが少しずつゴミ袋を太らせてる。
砂に足を取られることを笑いながら歩くケイとミナト。
朝の涼しい時間でも、額に汗が浮かんでる。
「長靴で行けって言われた意味がわかったよ…ほら…はははっ」
「オレもオレも。このあと商店街に行く予定だったし、靴でいいって言ったけど…ほーら」
脱いだ靴をひっくり返して、溜まった砂を見せ合って笑ってる。
二人でいれたら、きっとなんでも楽しいんだろうね…
いや、アタシもいるんだよ、忘れるな。
「ねぇ、ケイ…」
「あれ? ハムカツだ。おーい、ハムカツー!」
『ハムカツ!? それ、人の名前ですか??』
流石にあだ名だろ…
『海外の子なのじゃろ』
「日本人だよ?」
んふっ…もうやめてくれ…
三人の友人が合流したので、話しかけるのはやめて見守ろう。
「帰って来とったん?」
「連休の時だけね」
軍手を片方ずつ貸したり、火バサミを渡したりして一緒にゴミ拾いを続けている姿を見て、他に友達がいないってわけじゃないんだ、と思った。
こんな賑やかな間も、要所で阿吽が気を流し、私はそれを巡らせ、均していった。
満ちてゆく気に対しては誰も反応してないけど、みんな笑顔なのは嬉しい。
「ミナトが学校終わってすぐ帰るのって、ここの掃除とかしてんの?」
「んー? 違うよー? …いや、どうかな?」
「なんだそれ、はははっ」
日が高くなった頃、帽子を被っていなかった友人たちは手を振って離れていった。
『公勝。きみまさ。…ハムカツ?』
『子供のつけるあだ名は不思議じゃなぁ…』
もういいって、んふ…やめろ。
「おーーう。ゴミは集まったなー?」
ケイの爺さんの声が聞こえる。
砂浜の入り口のアレか?あの距離から響くのか…元気だな。
「おぉ、こんな集めたんか?」
「途中で友達も手伝ってくれたんだよ」
「じーちゃんも手伝いに来たの?」
「いや、もう昼ぞ? 家で飯の準備しよるから、風呂で汗流してから飯食え」
「「はーい」」
振り向いて歩き出した爺さんの後ろで、ミナトがふいに振り返って砂浜と海を眺めてる。
それに気づいたケイはミナトの視線の先を追って…すぐやめた。
「ここはもう、いい気がするなぁ」
「…うん…よし、いこ!」
たぶん、ケイの頭の中は昼飯のことでいっぱいな気がする。
『うむ。よい頃合いじゃな。浜辺はもう十分じゃろう』
『参る石、一つ目は達成ですね』
これだけ気が満ちてるんだから、そうだろうな。
みんなで浜辺を歩きながら、この場所が澄んでゆく感覚がとても心地よかった。
一つ一つ積み重ねていくのは、わかりやすくていい。
『結も、本当に気の扱いが上手くなったのぅ』
『まだ三日ですよ?大したものです』
「…ふん」
…嬉しかった。
―――
ケイの実家で騒がしく食事をして、それから商店街を見て回った。
砂浜とは違って自転車だから、移動は早かった。
『この辺りは、人が増えればまた来なければならん。どこで参る石の到達と言えば良いのか…難しいのぅ』
『浜辺を満たした気も、いずれは海や風に流れると言っていたでしょう? 主様のお守りを持つ子供たちの目で見て、納得できれば完了としましょう』
「浜辺と海は、ミナトから見ても大丈夫だと言ってたしね」
「えっ? ミナトそんなこと言ってた?」
「言ったかなぁ? でも大丈夫とは思ったでしょ?」
「思っ…た、かなぁ?」
心、ここにあらずだったしね。正直だねケイは。
ん?なんでアタシを見てるの?
「結って、なんか…優しくなった?」
「あー、わかる。話し方が、こう、柔らかくなった?」
急にアタシの話?唐突すぎない…?
阿吽、なんで間に入って欲しい時に限って、お前らは無言なんだよ…
「…アタシは、よくわからない」
―――
夕方。
ミナトたちに見送られて、車に揺られていた。
今生の別れのように、ケイの心は沈んでいる。
ふと、アタシの名前の由来、アタシを拾ってくれた結のことを考えた。
あの子が好きで、あの子をずっと見ていた。
年老いた頃の話し方も覚えている。
自分はヤンチャだったのに、子や孫には厳しかったっけ。
ケイたちに会った時は、そんな話し方が出ていたのかもしれない。
話し方は変わっても、名前を呼ばれるたびに、結のことを思い出しているよ。
心ここにあらずなケイの手の中で揉まれながら、車にあるテレビが気になった。
「ケイ、ふるさと納税って何?」
「…」
待ってね、と言った感じで、ひとなでされた。
母の彩から返ってきた答えは、働く場所とは関係なく、納税する場所は選べる、そんな話だった。
「じゃあさ、ケイ。アタシらも…ふるさと納税、しよ?」
この世界の狛犬
・依代越しで無言な時は、本体側で話をしていそう




