そういえば初めて
夏にはまだ早く、日差しも風も心地よい朝。
子供たちの元気な姿が、石段を登って近づいてきおった。
最近のワシは、こんな光景をいつも楽しみにしておる。
「阿形! 吽形! おはよう!」
「おっはよー!」
元気が溢れておる。
そして二人して、何か企んでおる表情も溢れておる…
「今日もおとーさんと一緒に遠くに行きます!」
「そして今日は、僕とケイくんで別行動したいと思います!」
いや、ワシ、お守りからその話聞こえとったし…
知らんかったフリした方がええんかのう…?
…吽形は目を閉じておる…おぬしも聞こえておったよな?
「…それは面白そうですね!」
白々しい…
ワシには真似できぬ…
「昨日も話したと思うが、慣れたと思う頃が危ない。ケイは一人で行動したこともないんじゃ。手伝ってもらっている立場ではあるが、気を引き締めんといかんぞ」
「吽形も結も一緒だし、ダイジョーブ!」
「もちろんです!」
「当たり前っ!」
なんか、吽形はケイ担当になってしもうたな…
「阿形! 僕たちも大丈夫だよね!」
「なんじゃ?当たり前じゃ!」
いかん、反射的に答えてしもうた。
言うたからには、気を引き締めんとな。
顔を見合わせて笑う子供たち。
うまく乗せたと思うとるのじゃろうか?
そんな楽しそうにしとるのに、反対したりせんよ。
―――
「よし、じゃあ俺はまた、ゴール地点で待ってるからね。景も湊くんも、少しでも危険を感じたらギブアップするように。景はタブレットから連絡、湊くんは携帯の紐を引く。いいね?」
「「はーい!」」
昨日とは違う方向へと車で進み、目的地の社からは遠い位置で子供たちは降ろされた。
ここは今日、浄化が必要な場所のちょうど中間地点となる。
直樹の車が見えなくなるまで見送り、子供たちが仕事へと動き出した。
「ケイくん。無理しちゃダメだからね?」
「…うん。ミナトも気をつけて」
あぁー、やっぱり初めて一人になるのは不安なのじゃろう。
ケイにいつもの元気が出ておらん…
『わた…』
「ケーイー! アタシがいるんだよ! 心配なんてないから!」
『…わた、私もいますからね?』
「んはは、ミナト! ガンバロー!!」
吽形の言葉が結に遮られたが、そのやり取りに救われたようじゃ。
ケイは手を振ると、元気に自転車を漕いで離れてゆく。
『湊。我らも行くとするかのう?』
「…ふぅーっ!」
うん?いつもの湊じゃないのう?
なんか、気合いが入っとる…
『みなっ…ぁぁぁぁぁ?』
湊、早い、ワシの視点が揺れるっ
「阿形! せっかくだから先にゴールしよう!!!」
『そっ、そんなに慌てたら、せんでいい失敗をしてしまうぞ??』
いつもの、のんびりした湊はどこにいったんじゃ?
車の方が早いのに、自転車を漕ぐ揺れと直接浴びる風は、何倍も速さを感じる…ワシの視点が舞うっ
たまに見せる子供らしい姿の一つじゃな…
こういった時に溜まった何かが発散できるなら、ワシも協力しよう!
『ワシも吽形には負けんよ! 湊っ! 慌てず急ぐんじゃ!』
「あはははは! 何それ、難しいよ!」
お守り越しに見える景色は、何度も湊の首を中心に回り続けた。
―――
湊とケイには悪いが、主様の社では吽形と情報交換をしておる。
二人に万が一もあってはならんからな。
意外と不器用な吽形も、お守りと狛犬像の二つの視点をこなし始めたようじゃ。
「吽形。今日の湊は早いぞ、慣れたもんじゃ。しっかりと周りも見えておる。ケイは空回りせぬよう、ゆっくりと進ませてやってくれ」
吽形?
まだ慣れぬか?
「どうしたんじゃ吽形?」
「ケイくん! 結っ!!」
吽形の声が、ワシにだけ強く届いた。
この世界の狛犬
・狛犬像(付喪神)と、気を込めた依代(お守り)で同時に行動できる。
依代の気を使い切ったり、依代との気の繋がりが途切れたら、自力で繋ぎ直せない。




