一つの間違い
我らは、あの石より受け継いだ思いを、気によって満たした。
ここへ来た時は絶妙に成り立っていた気の巡りが、今では力強く、周囲と交わっておる。
『皆よ。主様は我らを信じ、静かに鎮まっておられる。…此度の件も、見通されておられたのかもしれぬ。』
結果的にじゃが、この場所の問題だけは解決した。
が、子供たちの沈んだ色は…どうすれば良いのかわからぬ。
(吽形よ、今はゆっくりと社へと戻るように伝えるか。)
(阿形…そうですね。ただ、何か忘れている気もしますが…)
(忘れすぎだろう。この話の流れで、またアタシだけにするのかよ?)
…
先ずは、石を持って帰ろう。ワシがそう口にすると、
ケイが何の迷いもなく石の元へと向かい、腰にある小さな鞄へと詰め込んだ。
ぐえっ、と、何やら伝わってきた気がするが、まぁ、いいじゃろ。
―――
我らは、主様の社へと戻った。
皆で主様への参拝を終えた後、ケイの沈んだ顔と声がワシに向いた。
「…どこに埋めるの?」
何を?
ケイは腰の鞄から石を取り出した。
しまった、こやつ、埋葬や供養のために石を持ち帰ったと思っておるのか!
子供たちにも、あやつの思いが伝わっておると勘違いしておった。
じゃから二人とも、ずっと沈んでおったのか…
「…アタシ、埋められちゃうの?」
石から発せられた悲しげな声に驚いた子供たちは、すぐに明るい表情で喜んでおる。
―――
「アタシを拾って、あの神棚へと祀ってくれた子がいたんだ。最初は面白半分だったのかも知れないけどね。」
こやつの幾つかの昔話を、皆で聞いていた。
ふむ…
「邪気の染みた石が祀られたことで、意味を持つ存在となり、お主が宿ったのであろう。
そしてお主は、宿った石の状態から、自分が邪気そのものであると勘違いしておったのじゃな。」
「…そうだね。場を乱す存在と告げられたら、自分が良いものとは思わないだろう?」
椅子に腰掛けたケイの足には鞄が挟まれており、その上には持ち帰った石が置かれておる。
隣に座る湊は、興味深げにその石を覗き込んでおった。
「ねぇ、名前は無いの?阿吽みたいに特徴ないから、何て呼べばいいかわかんない。」
「子供が拾った石に、名前なんてつけないだろう。そんな大層な物、持ち合わせてないよ。」
「うーん、丸い、小さい、石、えーっと…宿…」
「ジャッキー!」
「なんで?…あっ、邪気だったから?…それはないと思うなぁ…」
子供たちが石を囲んでやいやいと始めおった。
付喪神には、人のように個々に名前など無いからのう。
「男なの?女なの?アタシって言ってるから、女?」
「アタシたちに性別なんてないよ…拾ってくれた子の真似をしてるだけ。」
「じゃあ、結は?」
何じゃ!?
失礼じゃが、ケイらしくない文字選びではないか?
吽形が入れ知恵したのか?
いや、目を合わせたら首を振っておる。
「あぁ、そうだ。アタシを拾ってくれた女の子…結だ。」
湊は変化に気づいたのか、静かに見守っておる。
相変わらず賢い子じゃ。
「アタシはあの子を忘れたくない。
呼ばれるたびに、あの子との時間を思い出したい。
その名前で…結と呼んでくれ。」
「ふふーん。じゃあ、名前は結だね!」
ワシは吽形と共に、ケイと結と呼ばれた付喪神に、縁が生まれたのを感じた。
――――――――
この世界の狛犬
・喜怒哀楽を色としてとらえていた。今では表情や声音からも感じ取れる。
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




